{スペリアスのその頃}
三人称の章末。
ミラリア達がタタラエッジを目指す中で、スペリアスサイドも動き始める。
◇ ◇ ◇
「ゴホッ! ゴホッ! しょ、少々、魔力を使いすぎたかのう……」
「無理をするな、スペリアス。ウヌとて、かの者どもを待ちたい気持ちがあるのだろう? 無闇に消耗するでない」
ミラリア達が雪山を越え、鉱山街タタラエッジに入ろうとしていたその頃。とある場所に匿われたスペリアスは、ベッドの上で咳込みながら苦しんでいた。
エスカぺ村が滅んだ際、レパス王子の率いるデプトロイド軍団から受けた傷。そんな体での無茶な魔力行使。
介抱されながらも、スペリアスの体は徐々に蝕まれつつあった。
「遠距離で代理人形を動かせば、余計に死期を早めることになる。とはいえ、我にもウヌを止める権利はないがな」
「すまぬな……ゼロラージャ。ただ、今回ミラリアの姿を見て、ワシもかなり安心できたわい。……あの子は確かに人の道を進んでおる。かつてワシを始めとした、旧時代の人間が避けてしまった道のりをな……」
どれだけ体が弱ろうとも、スペリアスにはやるべきことがある。スアリの接触もまた、スペリアスが裏で動いていることの証明。
ただ、それらの真相をミラリアに語ることはできない。語ってしまえば、その場にいる者達の想いは無下になる。
――ミラリアが自分の力で楽園へ辿り着くこと。自分の力で真実を探り当てること。これらは『世界の真実』を知る者達にとって、何よりも重大な意味を持っていた。
「エステナが望むは世界の破壊か、それとも共存か……。ウヌの娘がそれを選ぶとは、なんとも不可思議な運命と言えよう。ウヌが楽園を追放されたことを思えばな」
「あれはもう昔の話じゃ。まさか、そんなワシがミラリアのような『世界の命運』を左右する少女を育てることになるのは、運命と言うか因果と言うべきか……」
スペリアスも含め、ミラリアの真相を知る者はもはや少ない。それでも、知る者達にとってはミラリアの動向はどうしても気になる。
ただミラリアが楽園に辿り着けばいいのではない。誰かが素直に連れて行っては意味がない。
――『ミラリアと言う存在』が世界を旅して何を感じるのか。それこそが『世界の命運』を左右すると、その場にいる者達は考える。
「ツギルについても、やはり自身の正体には勘付いておったか……。本当ならば、ワシが直接もっと早く伝えるべきだったのじゃがな……」
「あの魔剣とて、己の役目は理解しておるであろう。魔剣も本来、ウヌを含む三賢者がかの化身を導くために用意したものだ。役目を理解できているならば、後は託すほかない。……しかし、闇瘴だけでなく楽園の清算を望む太古の意志にも接触したか。それこそ、まるで化身が『今の世界を見る』ための先導――それこそ、運命というものか」
雪山深くに眠っていたデプトロイドにしても、知る者達にとっては理解できる範疇であった。
それらがまるで、ミラリアに引き寄せられるような事象となる今この時。ミラリアの知らない間に、世界は大きく動き始めている。
「とはいえ、我は我の役目を全うしようぞ。先にユーメイトもタタラエッジに到着しているが故、あまり待たせることもできぬ。あの地に眠る闇瘴は強大だ。我が直接赴かねばなるまい。……かの化身とも会う機会があれば、我自らの眼で見極めよう。ユーメイトを救ってくれた件についてもあるのでな」
「ああ、そうするがよい。ワシもおぬしの動向には口を挟まぬ。どのみち、流石に力を使いすぎたからのう。しばらくはワシもおとなしくしておるわい。……あの地は三賢者が一人、ドワルフの縁の地じゃ。これもまた、運命というものかのう」
そして、ミラリアが辿り着こうとするタタラエッジについても、世界を知る者達の手は伸びている。
魔王軍冥途将ユーメイトだけでなく、世界を覆う脅威たる闇瘴の存在。これまでミラリアがその身で体感した出来事が、別の形で迫ろうとしている。
――それどころか、より強大な力を持った存在もまた、タタラエッジで邂逅の時を感じていた。
「どのような人間なのか見せてもらおうぞ、三賢者に守られてきたスペリアスの娘よ。この魔王ゼロラージャを失望させてくれるなよ?」
◇ ◇ ◇
これにて本章は終焉です。
色々と動きがある中で、物語は鉱山街タタラエッジへ。




