表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
雪山に眠る古代の指令
177/503

その剣士、再び行方をくらます

スアリの語った言葉は気になるが……?

「スペリアス様が待って……ムニャムニャ……あ、あれ? 私、寝てたの?」

【目が覚めたか。どうやら、またスアリさんが睡眠魔法で俺達を眠らせたみたいだ】


 スアリさんから言葉を授けられたと思ったら、次に気が付いた時にはどこかの洞穴の場所に移ってた。

 さっきまでいた管理人さんのいる場所とは違う。スアリさんもいない。

 毛布に体がくるまって暖かかったけど、外を見れば一面の雪景色。もしかして、私達をここまで運んでいなくなっちゃったってこと?


 ――なんだか寂しい。でも、これがスアリさんにできる精一杯の気遣いな気がする。


「……スアリさんはきっと、凄く大変な事情がある。どうしても私には言えない何かがあって、それでも最大限力になってくれてる。……そんな気がする」

【そう思えるのなら、そのままにしておくのが一番だな。……俺も正直、それが助かる】

「ツギル兄ちゃん……スアリさんの事情、少しは聞いてるよね? でも、私にさえ話せない。それぐらい大きな事情と見た」

【ああ、すまないな。俺もスアリさんの話を聞いて、全部を理解し納得したわけでもない】


 ツギル兄ちゃんもまた、私とスアリさん双方の妥協点を探してる感じ。もしかすると、板挟みで一番大変かも。

 ならば、私も詮索はここまでだ。楽園は目指したいし、知りたいことはたくさんある。でも、大切な人達との仲を壊してまでする話じゃない。

 変化を受け入れつつも、これまでの関係は維持したい。ワガママでも、それが私の願い。


「スアリさんも睡眠魔法で黙って姿をくらますぐらいだから、本当に何か事情があるってことだけ理解する。気にはなるけど、もしかするとスアリさんも過去の経験――あれ?」

【どうした、ミラリア?】

「お金の入った袋が置いてる? こんなの覚えがない……?」


 スアリさんの話はここまでにして、再び元々の旅路へ戻ろうとした矢先、くるまってた毛布の近くにお金の入った袋があることに気が付く。

 カムアーチで余ったお金はほとんど雪山の準備に使っちゃったし、ならばこれはスアリさんが置いていってくれたってこと? 特別多くはないけど、タタラエッジに着いても困ることはないぐらいの金額だ。


「そういえば、雪山の準備でお金を使いすぎて、タタラエッジで使う分を考えてなかった……」

【そこを察して、スアリさんが置いていってくれたってことか。……あの人も回りくどいと言うか、心配性と言うか】

「返すこともできないし、ありがたくもらっておく。スアリさんの想いを無駄にしちゃう」


 スアリさんって、本当に不思議な人だ。厳しくもあるのに、どこかで私のことを見守っててくれるみたい。

 この感じ、やっぱりスペリアス様に近い。スペリアス様も修行の時、いつも近くで見守っててくれた。ピンチになると、すぐさま駆けつけてくれた。

 でも、それをアテにしてはいけない。こういうところもスペリアス様の修行と同じ。道は自分で切り開いてこそとも教わった。


 ――何より、これは私自身の旅路。誰かにずっと手を引っ張ってもらうことなどできない。


「あそこに見える山、他の山と違う。大きな入口があるし、人の手が加わってる。もしかして、あれがタタラエッジ?」

【だろうな。かなり近くまで来てたのか】

「スアリさんに送ってもらったみたいになったけど、ここまで来たら目指すしかない。あそこにイルフ人の鍛冶屋さんがいればいいんだけど」


 少し考えながら先へ進めば、目的地であるタタラエッジは目と鼻の先。雪山の中に洞窟があって、そこ自体が街になってるみたい。

 街が見えれば興味もそっちに移っていく。道中での不思議な体験も胸にしまいつつ、私達は再び二人での旅路へと戻る。


 スアリさんにはまた会える気がする。人間は生きていればどこかで繋がってる。

 管理人さんとは違い、人には心がある。誰かを心配する気持ちも、心があるからこそ。今度会えた時こそ、ピンチを助けられるのではなくこっちからお礼をしたい。




【……なあ、ミラリア。唐突に聞くが、お前にとって俺は……人間か?】

「ふえ? 本当に唐突な話?」




 そうこう思いながら歩いてると、急にツギル兄ちゃんから謎の質問。ただでさえこれまでの不思議体験で少し混乱気味なのに、変な質問はしないでほしい。

 第一、そんな質問の答えは決まってる。逐一尋ねることでもない。


「ツギル兄ちゃんは人間。管理人さんみたいなデプトロイドでもなく、姿が魔剣に変わっても人間。当たり前のことを聞かないで」

【……いや、悪かった。俺もその答えを聞けて安心した】


 どれだけツギル兄ちゃんの姿が変わっても、私のお兄ちゃんである以上は人間で当然。受け答えもしっかりできるし、自我というものがしっかりしてる。

 時に指摘することもあれば、こっちの気持ちを理解だってしてくれる。どう考えたって人間。

 姿が魔剣だから、管理人さんを見て急に不安になっちゃったのかな?


「むしろ、ツギル兄ちゃんよりも私の方が人間として不思議。普通の人間より魔力が乏しいし、管理人さんみたいなのにも目をつけられた」

【安心しろ。ミラリアは間違いなく人間だ。……たとえ、普通の人間と違っていてもな。お前は誰よりも人間だ】

「むう? 何か言いたげ? ……あっ、ただ最近気づいたことで、他にも私が普通の人と違うところがあった」

【ミラリアが普通の人と違うところは腐るほどあるが、特にどこが違うって言うんだ?】

「アホ毛。この自慢のアホ毛は他の人と違って、ピョコピョコ動かせる。これは違うと言うより自慢」

【……確かにそのアホ毛、昔から不思議だもんな】


 細かいことを考え出したらキリがない。ここは私のアホ毛に免じて『人間とは何か?』という話題も切り上げさせてもらおう。

 難しいことなんていらない。私には望む目的があり、自らの意志で歩みを進めてる。それこそが何よりも人間って証ってことでいいだろう。

 スアリさんだって『これまでのように経験して立派な人間になれ』って言ってた気がするし、それがスペリアス様との再会にも繋がるって信じてる。




 ――難しいことなんて分からない。胸に抱く気持ちが本物だってことを理解できればそれでいい。

再び二人旅に戻り、いよいよ次なる目的地、鉱山街タタラエッジへ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ