その剣士、再び行方をくらます
スアリの語った言葉は気になるが……?
「スペリアス様が待って……ムニャムニャ……あ、あれ? 私、寝てたの?」
【目が覚めたか。どうやら、またスアリさんが睡眠魔法で俺達を眠らせたみたいだ】
スアリさんから言葉を授けられたと思ったら、次に気が付いた時にはどこかの洞穴の場所に移ってた。
さっきまでいた管理人さんのいる場所とは違う。スアリさんもいない。
毛布に体がくるまって暖かかったけど、外を見れば一面の雪景色。もしかして、私達をここまで運んでいなくなっちゃったってこと?
――なんだか寂しい。でも、これがスアリさんにできる精一杯の気遣いな気がする。
「……スアリさんはきっと、凄く大変な事情がある。どうしても私には言えない何かがあって、それでも最大限力になってくれてる。……そんな気がする」
【そう思えるのなら、そのままにしておくのが一番だな。……俺も正直、それが助かる】
「ツギル兄ちゃん……スアリさんの事情、少しは聞いてるよね? でも、私にさえ話せない。それぐらい大きな事情と見た」
【ああ、すまないな。俺もスアリさんの話を聞いて、全部を理解し納得したわけでもない】
ツギル兄ちゃんもまた、私とスアリさん双方の妥協点を探してる感じ。もしかすると、板挟みで一番大変かも。
ならば、私も詮索はここまでだ。楽園は目指したいし、知りたいことはたくさんある。でも、大切な人達との仲を壊してまでする話じゃない。
変化を受け入れつつも、これまでの関係は維持したい。ワガママでも、それが私の願い。
「スアリさんも睡眠魔法で黙って姿をくらますぐらいだから、本当に何か事情があるってことだけ理解する。気にはなるけど、もしかするとスアリさんも過去の経験――あれ?」
【どうした、ミラリア?】
「お金の入った袋が置いてる? こんなの覚えがない……?」
スアリさんの話はここまでにして、再び元々の旅路へ戻ろうとした矢先、くるまってた毛布の近くにお金の入った袋があることに気が付く。
カムアーチで余ったお金はほとんど雪山の準備に使っちゃったし、ならばこれはスアリさんが置いていってくれたってこと? 特別多くはないけど、タタラエッジに着いても困ることはないぐらいの金額だ。
「そういえば、雪山の準備でお金を使いすぎて、タタラエッジで使う分を考えてなかった……」
【そこを察して、スアリさんが置いていってくれたってことか。……あの人も回りくどいと言うか、心配性と言うか】
「返すこともできないし、ありがたくもらっておく。スアリさんの想いを無駄にしちゃう」
スアリさんって、本当に不思議な人だ。厳しくもあるのに、どこかで私のことを見守っててくれるみたい。
この感じ、やっぱりスペリアス様に近い。スペリアス様も修行の時、いつも近くで見守っててくれた。ピンチになると、すぐさま駆けつけてくれた。
でも、それをアテにしてはいけない。こういうところもスペリアス様の修行と同じ。道は自分で切り開いてこそとも教わった。
――何より、これは私自身の旅路。誰かにずっと手を引っ張ってもらうことなどできない。
「あそこに見える山、他の山と違う。大きな入口があるし、人の手が加わってる。もしかして、あれがタタラエッジ?」
【だろうな。かなり近くまで来てたのか】
「スアリさんに送ってもらったみたいになったけど、ここまで来たら目指すしかない。あそこにイルフ人の鍛冶屋さんがいればいいんだけど」
少し考えながら先へ進めば、目的地であるタタラエッジは目と鼻の先。雪山の中に洞窟があって、そこ自体が街になってるみたい。
街が見えれば興味もそっちに移っていく。道中での不思議な体験も胸にしまいつつ、私達は再び二人での旅路へと戻る。
スアリさんにはまた会える気がする。人間は生きていればどこかで繋がってる。
管理人さんとは違い、人には心がある。誰かを心配する気持ちも、心があるからこそ。今度会えた時こそ、ピンチを助けられるのではなくこっちからお礼をしたい。
【……なあ、ミラリア。唐突に聞くが、お前にとって俺は……人間か?】
「ふえ? 本当に唐突な話?」
そうこう思いながら歩いてると、急にツギル兄ちゃんから謎の質問。ただでさえこれまでの不思議体験で少し混乱気味なのに、変な質問はしないでほしい。
第一、そんな質問の答えは決まってる。逐一尋ねることでもない。
「ツギル兄ちゃんは人間。管理人さんみたいなデプトロイドでもなく、姿が魔剣に変わっても人間。当たり前のことを聞かないで」
【……いや、悪かった。俺もその答えを聞けて安心した】
どれだけツギル兄ちゃんの姿が変わっても、私のお兄ちゃんである以上は人間で当然。受け答えもしっかりできるし、自我というものがしっかりしてる。
時に指摘することもあれば、こっちの気持ちを理解だってしてくれる。どう考えたって人間。
姿が魔剣だから、管理人さんを見て急に不安になっちゃったのかな?
「むしろ、ツギル兄ちゃんよりも私の方が人間として不思議。普通の人間より魔力が乏しいし、管理人さんみたいなのにも目をつけられた」
【安心しろ。ミラリアは間違いなく人間だ。……たとえ、普通の人間と違っていてもな。お前は誰よりも人間だ】
「むう? 何か言いたげ? ……あっ、ただ最近気づいたことで、他にも私が普通の人と違うところがあった」
【ミラリアが普通の人と違うところは腐るほどあるが、特にどこが違うって言うんだ?】
「アホ毛。この自慢のアホ毛は他の人と違って、ピョコピョコ動かせる。これは違うと言うより自慢」
【……確かにそのアホ毛、昔から不思議だもんな】
細かいことを考え出したらキリがない。ここは私のアホ毛に免じて『人間とは何か?』という話題も切り上げさせてもらおう。
難しいことなんていらない。私には望む目的があり、自らの意志で歩みを進めてる。それこそが何よりも人間って証ってことでいいだろう。
スアリさんだって『これまでのように経験して立派な人間になれ』って言ってた気がするし、それがスペリアス様との再会にも繋がるって信じてる。
――難しいことなんて分からない。胸に抱く気持ちが本物だってことを理解できればそれでいい。
再び二人旅に戻り、いよいよ次なる目的地、鉱山街タタラエッジへ。




