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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
雪山に眠る古代の指令
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その楽園、謎が残る

無事にエデンブレイカの脅威からは逃れたが、謎は深まるばかり。

「た、倒せた……? もしかして……死んじゃった? そもそも、これって死んでるの?」

「いや、こいつに死ぬという概念はない。『死んだ』と言うより『壊れた』と言った方が正しい」


 真っ二つになった管理人さんはバチバチと雷のようなものを放ちながら微動だにせず倒れ込んでいる。無我夢中だったとはいえ、結構派手にやっちゃったものだ。

 スアリさんから借りてた刀を返し、こっちも魔剣を返してもらいながら倒れた管理人さんのことを尋ねれば、どこか予想通りの返答。私も薄々そんな気はしてた。


 管理人さんはそもそも生物じゃないから、死ぬということもない。生きてすらいない。

 どれだけ一緒にお話ができても、あくまで『話せるように見えるだけ』といったところか。結局はレパス王子が使ってたデプトロイドと同じでしかない。

 同様にアテハルコンという金属で作られた体でも、レオパルさんやトラキロさんとは存在の定義が違う。行動に目的はあっても、心という中身がない。


 ――今の私になら少し理解できる。命という形の見えないものの意味と大切さを。


「……結局、管理人さんのことは謎のままだった。楽園のことは知ってたけど、凄く恨んでたみたいな……?」

「恨んでいるというより『恨むように命じられていた』だけだな。デプトロイドとは本来『代理人形』と呼ばれ、命じられた意志を代行する存在だ。……ともかく、これで脅威は去った。ミラリアも最後の居合は見事だったぞ。魔法の阻害もなくなったようだし、これなら脱出も問題ない」


 管理人さんが再び動くことはなく、この場所もようやく安全になった。一息つけるようになると、スアリさんは私の頭をアホ毛ごとクシャクシャして褒めてくれる。

 前にもこんな感じで撫でられてたっけ。くすぐったいけど、悪い気はしない。

 ただ、この場所も含めて楽園に関する謎は残ってしまった。


 レパス王子が使ってたデプトロイドとは別のデプトロイド。アテハルコンとかいう金属で作られたカラクリの人形。

 エデン文明に触れられたけど、不思議なことばっかりだ。魔法がゲンソウなんて呼ばれてたのも気になる。


「……ねえねえ。スアリさんって、本当は楽園のことを色々と知ってるんだよね? デプトロイドのことも知ってるし、この場所や目的についても知ってそう。どうして教えてくれないの?」

「…………」

「私はスアリさんのことが好き。お世話になってるし、奥底にある優しさも感じる。だから疑ったり嫌いになったりしたくない。……このモヤモヤした気持ちが辛い。できるなら、本当のことを教えてほしい」


 そして、これら今回の出来事について、今でもずっと引っかかってること。それは『スアリさんが何かを知ってる』気配についてだ。

 落とし穴に落ちる前にしても、私がカムアーチで影の怪物と戦ったことを知ってた。あいつにしたって、元々はエスカぺ村に封印されており、楽園との関りを匂わせる存在だ。

 二刀による理刀流を使えることといい、デプトロイドを知ってることといい、エデン文明について博識なのも気になるポイント。

 喧嘩をしたいわけじゃない。ただ、隠し事をされてモヤモヤするのが嫌なだけ。


 ――スアリさんのことを疑いたくないからこそ、どうしても本当のことを聞きたい。この人が隠してることを知りたい。




【……ミラリア、お前が知りたがる気持ちは分かる。ただ、スアリさんだって何も意地悪をしてるわけじゃない。……ここは俺の言葉にも免じて、あまりスアリさんを責めないでくれるか?】

「ツ、ツギル兄ちゃん……?」




 ちょっと涙目になりながら詰め寄っても、スアリさんは黙ったまま。緊張した空気が流れてたけど、代わりに口を開いたのはツギル兄ちゃん。

 なんだか、スアリさんのことを擁護している感じ。ツギル兄ちゃんだって、楽園のことは知りたいはずなのにだ。


【お前と離れ離れになった後、俺はスアリさんと二人で少しだけ話をしてな。その……この人はミラリアのことを想ってくれてるのは事実だ。俺にも上手く言えないが……】

「だから、これ以上は尋ねちゃダメってこと?」

【……そういうことになる。お前にとっては不服な話だろうが……聞き入れてはもらないか?】


 どうやら、ツギル兄ちゃんはスアリさんと二人だけで何か話をしたみたい。その話があるからこそ、私に言及を控えるよう求めてくる。

 ツギル兄ちゃんの言葉なら、信じるに値する。とはいえ、素直に聞き入れられるかってなると別。

 ツギル兄ちゃんの言葉だって尊重したい。でも、今の私が聞きたいのはスアリさんの言葉。


「……ねえ、スアリさん。なら、一つだけ教えてほしいことがある。これに答えてくれたら、それ以上のことは聞かない」

「……なんだ? 言ってみろ」


 このままでは埒が明かないし、私もどこかで妥協しないといけない。たとえスアリさんが本当は何か知ってても、理由があって語れないならそこまでとするしかない。

 私はスアリさんを困らせたいわけじゃない。私自身が納得したいだけ。


 ――だから、この質問の返答で今は妥協する。




「スアリさんは……私のこと、好き?」

「……ああ、好きだ。でなきゃ、ここまで助けにも来ない」

「……そっか、よかった。なら、これ以上は私も聞かない。ワガママ言ってごめんなさい」




 楽園のことは知りたいけど、同時にスアリさんにも嫌われたくない。二つのことをいっぺんに叶えようとするのもワガママだ。

 私とスアリさんの『好き』は、多分シード卿の言ってた『好き』とは別物。私がスペリアス様に抱く感情に近い。


 この人と触れ合ってると、会ったことのないお父さんの存在が頭に浮かぶ。それぐらいに『家族としての好き』みたいなのを感じる。

 言葉で表現できなくても、心でそんな理解が生まれる。これまでの旅を通して、私も変わってきたってことなのかな。


「……ミラリア。お前にそこまで言われても、俺は余計なことを喋れない。俺にも立場があり、下手に口は開けない。……ただ、お前のことを好きでいて、楽園への旅を応援してるのは事実だ」

「私もそれで構わない。スアリさんが言いたくないことを、これ以上は尋ねないってもう決めた。……ただ、アホ毛クシャクシャはやめてほしい。くすぐったい」

「すまんな。お前を見てると、どうしてもこうしたくなる。……ただせめて、今から俺が言うことだけは胸に抱いておけ」


 ひとまずこの場でのお話はおしまい。『水に流す』という例えはこういうことを言うのだろう。

 そろそろここを抜け出すことも考えたい。スアリさんから応援メッセージみたいなのがあるらしいけど、それを聞いたらまずは元の場所に戻って――




「スペリアスは……今でもお前達兄妹との再会を待ち望んでいる。その日が来るまで、これまで通りより多くを経験し……成長しろ。誰よりも『立派な人間』になってな」

スアリはスペリアスを知っている――だけなのか?

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