◆幻想壊機エデンブレイカ
VS 幻想壊機エデンブレイカ
楽園とエステナ、ゲンソウという魔法を忌む自立型デプトロイドとの戦いへ。
「攻撃対象……高レベルゲンソウ2体。ターゲットロック。攻撃を開始します」
ズガガガガッ!!
「ふえっ!? こ、攻撃の回数が多すぎる!? あの両腕、どうなってるの!?」
【ロードレオのライフルも、あそこまで連射はしてなかっただろ!? 同じカラクリみたいだが、機能は奴らの上位互換か!?】
いざ戦闘となってまず飛んで来るのは、管理人さんの両腕から放たれる無数の弾。マシンガンってスアリさんは言ってたけど、ライフルとはまた違う。
必死に居合で弾こうにも弾の数が多すぎる。一発一発を弾く感触はライフルより弱そうだけど、数の暴力は厳しすぎる。
今は魔剣に魔法効果も付与できない。試しに念じてみても、やっぱりこの場所では発動する気配がない。
刃界理閃ならこの弾数に対抗できる斬撃の盾を作れるけど、あれも魔剣に衝撃魔法を付与できてこそ。魔剣の強みである魔法効果が使えないのは辛い。
「ミラリア! 一ヶ所に留まるな! 縮地で動き、かく乱するんだ!」
「わ、分かった!」
スアリさんも私と同じように、二刀を使って弾を弾きながら回避と防御に専念してる。確か魔法も使えたのに、スアリさんも同じように魔法を使う気配はない。
でも、それは向こうも同じこと。今のところ、管理人さんの攻撃はこのマシンガンしか――
「ルーンスクリプト『ᚺᛟᚾᛟᛟ』」
ボォオウッ!!
「えっ!? い、今のってまさか、火炎魔法!?」
【なんでだよ!? ここで魔法は使えないはずじゃ!?】
――ないと思ってたのに、どういうわけか管理人さんは火炎魔法を唱えてきた。
これはおかしい。私達は魔法が使えないのに、どうして管理人さんは使えるの? そもそも、管理人さんは魔法を毛嫌いしていたはず。
なのに魔法を使うだなんて、いったい何を考えてるのだろうか?
「あいつの目的はあくまで『ゲンソウという力の破壊』だ。そのためならば、自身がゲンソウの力を使うのも躊躇しない。ルーンスクリプトを直接詠唱することで、自分だけは魔法を使えるようにしてるようだ」
「詳細は分かんないけど、なんだかズルい! あの人、何を考えてここまでするの!?」
「いや、あのデプトロイドは何も考えてない。自我などない。ただ与えられた命令を遂行するだけで、その行動の意味も善悪も選択の範囲外だ」
「え……? か、考えてないの……?」
そのチグハグな思想と行動に文句を述べるも、スアリさんの話を聞いてちょっとゾッとした。
確かに管理人さんは人間でも魔物でもないけど、さっきまでは私とお喋りできていた。だからてっきり、思考能力に関しては私達と同じぐらいあるものだと思ってた。
なのに本当は自我もなく、ただ命令を遂行してるだけ。思い返せば、私との会話もどこか融通が効いてないところがあった。
魔法を嫌う理由も襲いかかってくる理由も、自分の意志じゃない。そう考えると、苦しみ恐れていた影の怪物の方がまだ怖くない。
――自我も感情もない相手となると、まるでリースト司祭を思い出す。
「……でも、考えてないならこっちの攻撃を読むことだってできないはず。向こうの攻撃にも慣れてきた。……一気に決める!」
【ああ! 俺を全力で振り抜き、あの人形野郎をぶった斬れ! 魔法効果がなくても、ミラリアならできるはずだ!】
ただ、そこに活路を見出すことはできる。マシンガンを弾きながら火炎魔法も回避し、間合いを詰められる道筋は見えた。
自分で考えるってことは、こういった戦いの中でも活きる。それができないと分かれば、懐に潜り込むのは簡単だ。
魔法は使えなくても、学び続けた居合術は健在。
初志貫徹。縮地のスピードも乗せ、管理人さんに居合を――
ガチィインッ!
「えっ!? か、硬い! 硬すぎる!?」
【この感触……トラキロやレオパルと同じか!?】
――放ったんだけど、物の見事に金属の体で弾かれてしまった。ちょっと傷がついた程度で、ダメージなんてまるで通ってない。
ツギル兄ちゃんも刀身で感じ取ってるけど、この硬さはトラキロさんやレオパルさんと同じもの。私の居合も通らない。
「あいつの装甲……おそらく、アテハルコンのボディだな」
「ア、アテハルコン? そういえば、レオパルさんもそんなこと言ってた。それって何?」
「『神の金属』とも呼ばれるものだ。強度はどんな金属をも上回り、並大抵の攻撃ではビクともしない」
「そ、それじゃ、どうやって斬れば……!?」
ひとまずは私の居合も牽制程度にはなった。一度距離を置き、スアリさんと並んで状況確認。
管理人さんの強度についてもスアリさんは覚えがあるらしい。本当に博識な人だ。
にしても、神の金属なんてあったのか。それを女神エステナを敵視する管理人さんが使ってるのも不思議な話。
もっとも、管理人さんはどんな手を使ってでも『楽園を破壊する』『ゲンソウを敵視する』って目的なのは理解できてる。自分だけルーンスクリプトというゲンソウで魔法を使い、意地でもこちらを倒すつもりだ。
――後ついでだけど、ロードレオ海賊団ってこんなところの技術を使ってたんだ。ふざけた集団なのに無駄に凄い。
「一時反応阻害有。再認識完了。ゲンソウ抹消、ゲンソウ抹消」
一度はこっちを見失ってた管理人さんだけど、再度目元を赤く光らせながら向き直ってくる。
両腕のマシンガンとやらもまだ健在だし、ルーンスクリプトによる魔法だってある。
――正直、人数で勝っても勝ち目が見えない。
「……仕方ない。俺が思いついた作戦を試してみるか」
【な、何かあるんですか!?】
「今は藁にもすがるしかない。スアリさん、作戦があるなら教えて」
向かい合うと緊張で汗が滴ってくる。ここが雪の下だとか関係なく、擦り減る神経と疲弊は尋常ではない。
あらゆる情勢が敵に傾いている以上、今は奇策でも何でも突破口がほしい。その可能性について、スアリさんも一つ用意があるらしい。
「ミラリア。ツギルを――魔剣を俺に貸せ。代わりにお前は俺の刀を一本持ち、チャンスを伺うんだ」
「ふえ!? そ、それって、どういう作戦!?」
エデンブレイカの狙いを考えれば……。




