その管理人、引き金を引く
管理人を名乗る謎のデプトロイド。
分かることはただ一つ。楽園そのものへの敵視のみ。
「え……え? か、管理人さん? な、何を言ってるの? 楽園を……女神エステナを……破壊?」
「そそそうだ。思い出した。ワタシは楽園に――エステナに対抗するために作られたカラクリ兵士。ははは破壊しなければ。エエエステナををを。ゲンソウで歪んだ摂理りりり……!?」
「か、管理人さん!?」
新情報が聞けると思ったら、管理人さんの様子がこれまで以上におかしくなる。目元の光も緑色から赤色に変化してるし、どこか危ないものを感じる。
そもそも、何を言ってるの? 管理人さんにしてもこの場所にしても、楽園のためにあるものじゃなかったの?
だから楽園やゲンソウのことを教えてくれたんじゃないの?
「アナタはゲンソウの影響がううう薄く、歪んだせせ摂理を破壊できる可能性がががります。どうか、ワタシと楽園及びエステナの破壊ををを」
「ダ、ダメ……! 私、楽園を目指してはいるけど、壊すつもりなんてない……! そもそも、楽園はまだあるの!? どうして楽園を壊し、女神エステナを殺そうとするの!?」
「こここの世界ははは、楽園の時代の人間ががが、摂理を曲げてつつ追放……! エステナに蓄えられれれ、苦痛のゲンソウがおおお汚染、危険。そそそ早急な排除ををを……!」
「ヒイィ……!? ど、どうなってるの……!? こ、怖い……!」
豹変した管理人さんに私の言葉は届かない。それこそまるで、管理人さんの方が壊れたような言葉と動きを繰り返している。
内容についても、ただひたすらに楽園と女神エステナを敵視するだけ。私のことまで味方に引き込もうとしてるし、恐怖で体がカチカチになってしまう。
かといって、今の私に武器なんてない。ピックステッキでは魔剣どころか刀の代わりにもならない。
――こんなことなら、やっぱり先にみんなと合流するべきだった。ツギル兄ちゃんとスアリさん、助けて。
ガッシャァァアアン!!
「ここにいるのか!? ミラリア!?」
【スアリさん、あそこ! 無事みたいです!】
「スアリさん!? ツギル兄ちゃん!?」
そう願っていると、天井を突き破って本当に二人が助けに来てくれた。こっちは管理人さんに迫られてピンチだったし、まさにグッドタイミング。
すぐさまスアリさんが私の隣に立って魔剣を手渡し、自身も二刀を抜いて構えてくれる。
その眼前にいるのは狂ったようにカクカク動く管理人さん。眼の光も赤いままだし、最初の頃とは明らかに違う。
――なんとなくだけど『暴走してる』って感じがする。
「こいつは……対エデン文明用のデプトロイドか!? こんな古代の遺物が、まさかこんな場所に眠っていたとは……!?」
「ス、スアリさん、この人のこと知ってるの?」
「話に聞いたことがある程度だ。とはいえ、厄介な相手に出くわしたな……!」
助けに来てくれたスアリさんは私の前に一歩出て、二刀で牽制しながら管理人さんのことを語ってくれる。
やっぱり、何かしらエデン文明に関することは知ってるんだ。私には教えてくれなかったのはちょっとケチ。
でも、今はそんな文句も言ってられない。管理人さんがこっちを敵視してるのは事実だし、相手を知ってるならありがたい。
――もうここで楽園のヒントを探してる場合じゃない。戦わないと生き残れない。
「……高レベルのゲンソウ個体を2体感知。高レベル個体は楽園への関与が考えられるため、排除対象とします。ルーンスクリプト『ᛖᛞᛖᚾᛒᚢᚱᛖᛁᚲᚨ』を実行。戦闘モードに移行します」
「俺も詳細を語っている暇はないが、あいつはゲンソウの力――つまり魔力に敵意を向けてくる。俺とツギルも助けに来たはいいが、かえって敵意を決定づけたか……!?」
【ならばさっき話してくださった通り、転移魔法で俺だけが転移したことにも関係が……!?】
「おそらくな。この場所自体があの自立型デプトロイドのテリトリーだ。ゲンソウを嫌うが故に、魔法を阻害する結界の類もあるようだ」
「それってもしかして、魔剣の魔法も使えないってこと? だとしたら大ピンチ……!?」
どうやら、スアリさんとツギル兄ちゃんの間で何やら話はしてたみたい。私がいなくなってもこうして探し出してくれたし、今は余計な疑心も遮ろう。
ただ、耳にした状況は最悪。管理人さんの実力も分からないのに、魔剣の力をフルに発揮できないのは辛い。
ゲンソウが――魔法が嫌いってだけのことはある。いくらこっちが揃い踏みしても、管理人さんの方が有利な戦いになるのかも。
ガシャンッ! ガシャンッ!
「ルーンスクリプト『ᛖᛞᛖᚾᛒᚢᚱᛖᛁᚲᚨ』を認証。カラクリ戦闘形態『エデンブレイカ』へ移行完了。これより、眼前のゲンソウを鎮圧します」
「な、何あれ!? 体が変化した!?」
【あれが戦闘モードとやらか!? な、なんだか、ロードレオが使ってたライフルみたいな装備が両腕に付いてるぞ!?】
「マシンガンか……! 気をつけろ! 魔法が使えない以上、体術と剣技で挑むんだ!」
その予想通りと言うべきか、管理人さんは全身をゴツゴツガチガチとした姿へと変え、戦う準備を始めてくる。
特に厄介そうなのはライフルみたいな両腕。ちょっと違うらしいけど、あそこから飛んでくる弾は速くて厄介。当たると痛そう。
――でも、やるしかない。
「……不利な感じだけど、ここで心折れたらいけない。勝負は始まってすらいないし、最後まで諦めない」
「いい心がけだ。……それもスペリアスとかいう母親の教えか?」
「うん。私はスペリアス様の教えを信じる。ゲンソウとかカラクリとか、細かいことは分かんないしどうでもいい。今は気持ちだけでも負けない」
「その意気だ。ミラリアとツギルの力もないと、この場を脱することはできない。……集中していくぞ」
【ええ。こんな未知の怪物に出会うとは思いませんでしたが、向かってくるなら挑むまでです】
不利な要素が揃っていても、諦めることだけはしない。だって、私はまだスペリアス様に会えてないもん。
スペリアス様と再会するまで、どんな敵が襲ってきても負けない。スアリさんだっているし、どれだけ未知の強敵でも挫けたりはしない。
――楽園への考察も疑問も頭から取り払った。今はただ生きるために魔剣を振るうのみ。
「ゲンソウも楽園も創世装置エステナも……与する要素は全て排除します。それがががが……ワタシの使命!」
カラクリ戦闘デプトロイド、エデンブレイカ! 出撃!




