その管理人、楽園を語る
楽園紹介管理人AIさん。
管理人さんがディスクという丸い板を所望するので、とりあえず近くにあったそれっぽいものをかき集める私。探してみれば、そこかしこにポコポコと置かれてる。
アホ毛の感度も最高にすれば、これぐらいの探し物は問題ない。エスカぺ村では『ダウンジングのミラリアちゃん』と呼ばれたぐらいだ。ダウンジングが何かは知らないけど。
「とりあえず、集められるだけのディスクとやらを集めてみた。これで何か思い出せそう?」
「ディスクのデータを読み込みます。ナウローディング、ナウローディング」
「……変な人。デプトロイドだから人間じゃないんだろうけど、意志はある……のかな?」
今はかき集めたディスクを管理人さんのお腹に突っ込み、ゲンソウとやらの情報を探してもらってる。またおかしくなられても困るので、たくさん突っ込んでみた。
どうにもディスクにはお薬みたいな役目もあるらしく、突っ込んでおけば管理人さんの具合が悪くなることもない。放っておけないし、しばらくはお話を聞くついでにお世話もしよう。
それにしてもこの人、一応は言葉も通じるけど、なんだか変な気分。意志があるようでないような感じ。
これまた恋と同じく言葉で言い表せない。ただ、管理人さんの言葉は飾られた絵の額縁だけ……みたいな気がする。
「データベース内にゲンソウの情報が加わりました。早速お聞きになりますか?」
「それはよかった。管理人さんの具合も良さそうだし、ゆっくりでいいから教えてほしい」
「かしこまりました。……ゲーンーソーウーとーはー、ニーンーゲーンーがー持ーつ――」
「待って。ゆっくりでいいとは言ったけど、そういう意味じゃない。話し方はゆっくりしなくていい」
実際、私の意見に対しても妙な勘違いをしている。『落ち着いてゆっくり』と言ったのに『話す速度をゆっくり』で話されても困る。
どうにも管理人さんは融通が利かないらしい。でも、こんなことで怒っちゃいけない。
私もよくツギル兄ちゃんに注意されるし、人には人のテンポがある。教えてもらう立場だし、私だってまずはゲンソウについて聞きたい。
「ゲンソウとは、楽園計画でベースとして使われた技術です。カラクリに代わる次世代の技術として、ルーンスクリプトをベースに開発が進められました」
「ふえっ!? な、なんだか凄いこと聞いちゃった!? カラクリもやっぱり楽園に関わってたんだ……! でも、ルーンスクリプトって何?」
「ルーンスクリプトとは、ゲンソウを発現させるための独自言語です。ワタシの記憶する段階では、高度なゲンソウを使う際に特に用いられているとのことです」
とりあえず、管理人さんも普通のテンポに戻ってくれた。そして話を聞いてみれば、ゲンソウこそ楽園で使われてた技術とのこと。
それどころか、ロードレオ海賊団のカラクリについてもちょっと言及された。管理人さんもどこかサイボーグな感じがするし、これまでの仮説が確信になった気分。
後はもう一つ、ルーンスクリプトなる言語について。これってもしかして、何度か聞いた魔法に使うあの言葉のことかな?
レパス王子がお社の封印を解いた時。ツギル兄ちゃんが魔剣に憑依した時。フューティ姉ちゃんが魔法を使った時。
――これらについても、どこかで楽園との接点がある。
「ピピ。新たなデータを認証しました。現在世界においてゲンソウは『魔法の力』という文化になっています」
「魔法……!? 魔法そのものがゲンソウ……!?」
私の中でもバラバラだった知識が繋がり、一つ納得できる回答が管理人さんから返ってきた。
確かにみんながルーンスクリプトを口にするのは、何かしら強大な魔法を使う時だった。管理人さんの発言とも筋が通る。
これまで私達が何気なく触れていた魔法という力は、楽園で使われたゲンソウという力だったってこと? 楽園は大昔からあるみたいだし、いま世界にある魔法も楽園から伝わったってこと?
「……だとしたら、どうして魔法は伝わってるのに、楽園の場所や存在はきちんと伝わってないのかな? 変な気分」
「ピピ。楽園に関するデータもアップデートされましたが、最新バージョンでも詳細は不明です。ただ、アナタをここまで招き入れたのは『ゲンソウの力が弱いから』であることはプログラムから参照できます」
「それってつまり……私の魔法が下手くそだから? 魔力が貧弱だから?」
「人間の言語に置き換えれば、その認識になります」
この辺りの歴史についてはあやふやなままだ。アキント卿からも教わったけど、歴史を学ぶことって大事。
チグハグでモヤモヤした気持ちも理解が進んでいく。勉強って大事なんだなって、今になって痛感する。
それにしても、私がここに入れたのは魔法が下手くそだからってこと? 管理人さんはそんなつもりじゃないにしても、なんだか馬鹿にされた気分。
こんなことなら、エスカぺ村にいた頃にもっとしっかりお勉強するべきだった。魔法については下手くそで才能がないのは事実にしても、頑張れば多少はマシだったはず。
でもまあ、魔法が下手くそだからここで手掛かりを得られたと考えれば――
「ピピピ! ゲンソウ……楽園……任務……! メインのデータベースが復旧し、結合を開始。楽園に関する重大な情報が検索ヒットしました」
「むう? 何か大事なことを思い出したのかな?」
――と、少し一人でポヤポヤしてると、また管理人さんの様子が変化した。
相変わらず聞き取りにくい喋り方だけど、何か分かったことがあるってのは理解できる。そこを汲み取れるぐらいには読めてきた。
そろそろ帰りのことも考えないといけないけど、ついつい気になることを優先してしまう。
この話を聞いたら一度管理人さんともお別れして、スアリさんやツギル兄ちゃんとも一緒に来よう。これらの話はみんなで聞いた方が良さそうだ。
で、肝心の管理人さんの新情報だけど――
「ワタシの任務は……楽園の……創世装置エステナの破壊……! セセ世界崩壊を防ぐため、エエエエステナををを……!」
なお、この管理人自体は楽園のために作られていない。




