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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
雪山に眠る古代の指令
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その少女、落とし穴に落ちる

ミラリアに突如訪れた最大のピンチ。

「お、落ちる!? ス、スアリさん!?」

「クソッ!? ミラリア! すぐに体を丸め――」


 少しスアリさんと言い争ってたら、当然崩れ出す私の足元。雪ごと飲み込むような穴が開き、私の体はその下へと落ちてしまう。

 スアリさんは上から必死に声をかけてくれるけど、すぐに見えなくなるほど穴に吸い込まれる。もしかして、スアリさんと喧嘩になりかけた罰が当たったのかな?


【ミラリア! 今は自分の身を優先しろ!】

「う、うん! とにかく、体を丸めて守って……!」


 でも、今は罰とか後悔とか気にしてる場合でもない。穴の深さも分かんないし、スアリさんが言ってくれたように体を丸めて身を守る。

 かなり深い穴の中へ、雪と一緒にドンドンと落ちていく。まさかこんな落とし穴があっただなんて、雪山は本当に危険。



 ズドンッ!



「むむむ~……プハァ! 助かった。雪がクッションになったみたい」

【一応は助かったか……。とはいえ、ここからじゃ落ちた穴も見えないほど深いな】


 しばらく体を丸めて落っこちてたけど、ようやく地面に着地。私もツギル兄ちゃんも無事で、どこも怪我はしていない。

 かなりの深さだったけど、咄嗟にスアリさんがアドバイスしてくれたおかげもある。あのまま体勢を整えなかったら、いくら私でも危なかったかも。


「それにしても、ここはどこ? よく見ると洞窟みたいになってる」

【気にはなるが、今はスアリさんと合流するか。転移魔法を使えば、さっきいた真上までは飛んでいけるだろ】

「うん、それぐらいなら問題ない。まずはスアリさんにもごめんなさいしよう」


 私が落ちた穴の中だけど、暗い中で目を凝らすと結構不思議な場所だ。奥の方からはわずかに灯りも見えるし、ただの落とし穴とは違うっぽい。

 とはいえ、場所の考察は後でもできること。なんだったら、スアリさんと合流した後にまた来ればいい。

 そんなわけで、魔剣の居合でいつもの如く転移魔法を発動させ――



 キンッ――ヒュンッ



「……あれ? ツ、ツギル兄ちゃん? 私、転移してない――って、ツギル兄ちゃんがいない!?」


 ――たんだけど、何故か上手く発動できなかった。一応魔法陣は描かれたけど、私は相変わらず穴の下。

 ただ、発動に使った魔剣ことツギル兄ちゃんだけは何故か手元から鞘ごとなくなってる。まさか、ツギル兄ちゃんだけ転移したってこと?

 こんなこと、今まで一度だってなかった。転移魔法自体が使うのも久しぶりだったから失敗しちゃったとか?


 でも、ちょっと待ってほしい。今のこの状況はつまり、私が穴の下で一人ぼっちということだ。

 魔剣がないと私は魔法も何も使えない。剣技さえも使えない。つまり、何にもできない。

 そんな状況で雪の下にあった落とし穴の底で一人ぼっち。これってどうすればいいの? スアリさんもこの深さまでは簡単に降りられないよね?


「そ、そうだ! シード卿のブレスレットで魔剣を引き寄せて……! う、嘘!? これもダメなの!? この場所、何かがおかしい!?」


 どうにか打開策を考えてみるも、どれも上手くいかない。

 とても素手で登れるような壁ではなく、ユキグモやピックステッキがあっても関係ない。壁自体の冷たさで私を閉じ込めてるみたい。

 ブレスレットで魔剣を引き戻すこともできない。さっきの転移魔法失敗にしてもそうだけど、この場所自体が何か魔法を拒んでるような気さえする。

 いずれにせよ打開策はなし。ここから抜け出す手段がない。周囲の冷気がおぞましく感じる。


 ――もしかして私、ここで一人で死んじゃうの?


「うぅ……うわぁぁあん! ツギル兄ちゃぁぁん! スアリさぁぁん! どこぉぉお!? 私、一人で寂しいのは嫌ぁぁあ!!」


 その事実を認識すると、怖さと寂しさで泣き出さずにはいられない。

 よく考えてみれば、私がここまで旅してこれたのは傍で誰かが支えてくれたからだ。特に魔剣となったツギル兄ちゃんとはいつも一緒だった。

 魔法も剣技もツギル兄ちゃんがいないと使えない。それどころか、私の乏しい知識もツギル兄ちゃんが補ってくれた。

 そういうものが今は何もない。ディストールの時以来――いや、それ以上の孤独感が押し寄せてくる。


 ――この孤独な寂しさ。あの影の怪物も同じように感じてたのかもしれない。




【……ルーンスクリプト『ᚾᛁᚾᚷᛖᚾ』を認証しました。施設内へ招待します】

「ふ、ふえ? だ、誰かいるの?」




 どうしようもなくて泣きながら嘆いてると、洞窟になってる奥の方から誰かの声が聞こえてきた。ツギル兄ちゃんやフューティ姉ちゃんが使ってた呪文のような言葉も混じってる。

 その声と同時に暗かった周囲にポツポツと灯りが点き、まるで私を導くように照らしていく。

 この光もなんだか不思議。カムアーチにあったネオンとかと同じなのかな? あれより小規模だけど、近いものを感じる。


「ね、ねえ? 誰かいるの? いるなら返事して? ひ、一人は……寂しいから……」


 洞窟や声の正体なんて分からない。でも、一人ぼっちよりはマシ。

 魔剣もなく、武器になりそうなのはピックステッキぐらい。それでも先へ進んで、誰かいるのなら会いたい。


 ――それぐらい一人ぼっちが怖い。この先に潜む未知より、隣に誰もいないのが辛い。


【そのまま先へお進みください。システムを再稼働します】

「し、しすてむ? さいかーどー? な、何を言ってるの?」

【そのまま先へお進みください。システムを再稼働します】

「し、質問に答えてほしい……」


 声は周囲から聞こえるけど、まともに対話もしてくれない。これはこれで怖いけど、今は言われた通り先へ進むしかない。

 まだ誰の姿も見えないし、今は早く誰かに会いたい。誰かに会って、私が一人ぼっちじゃないってことを確認したい。




【ルーンスクリプト『ᛞᛖᛈᚢᛏᛟᚱᛟᛁᛞᛟ』を実行します。ここから先は管理人に従ってください】

「か、管理人?」




 そうして奥へ進んでいくと、一際広くて明るい空間に出た。周囲が崩れてるけど、さっきまでの洞窟よりは整ってる。

 私を案内していた声もここがゴールみたいに言ってるけど、そもそもどういう場所なのだろう?

 管理してる人がいるらしいけど――




「こ、この人……? 鎧みたいにゴツゴツした体の……人間?」

魔剣さえもない状況で出くわすのは、ファンタジーという世界には不釣り合いな洞窟。

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