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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
雪山に眠る古代の指令
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その剣士、再び少女の面倒を見る

再登場、二刀流剣士スアリおじさん。

「久しぶりに会ったと思ったら、またおかしな窮地に晒されていたか……。ともかく、今はここで休め」

「う、うん。何度もありがとう、スアリさん」


 スアリさんにリュックごと抱きかかえられ、連れてこられたのは近くにあった洞穴の中。ここなら雪も入ってこない。火も焚いてもらい、ようやく寒さから逃れられた。

 まだ手足がジンジンして感覚が乏しいけど、焚火の暖かさで少しずつほぐれていく。九死に一生とはこのことか。

 焚火の上にはお鍋が置かれ、何やらグツグツ煮られてる。以前もそうだったけど、スアリさんってお鍋グツグツが好きみたい。


【まさか、スアリさんが助けてくれるとは……。本当に何度もすみません】

「悪いと思うなら、お前ももっと妹にしっかりアドバイスしてやれ。魔剣の兄貴の方が、多少は知識も豊富だろう?」

【そ、そうですね……。俺も初めての雪山だったので、少し甘く見てました……】

「まったく……。そもそも、こんな吹雪の中を進もうとすることも問題だ。こういう時はまず吹雪を凌ぐことを考えろ。……それ以上に意味不明な準備ばかりしおって」


 私もツギル兄ちゃんも、今回のことは大いに反省。なんだかスアリさんがいる時って、いつも何か怒られてる気がする。

 でも、言い分はもっともだ。グウの音も出ない。

 焚火の近くで震える私を他所に、スアリさんはリュックの中の荷物を確認し始める。


「なんでリュックの中に飯の類しか入ってないんだ? 雪山用の装備はどうした? まさか、その毛布だけか?」

「うん、後はご飯だけ。だって過酷な道中って聞いてたから、ご飯もたくさん必要だと思った」

「その飯が重すぎて身動きもとれなかったのにか? 頑張って準備したらしいが、努力の方向性を間違えてる。雪山を超えるには、もっと必要な装備がある」


 私の荷物を確認したかと思うと、スアリさんは自分の持ってるアイテムポーチから色々と取り出し始める。

 食べ物とかじゃなくて、何かの道具っぽい。思えば、スアリさんは私と違ってそこまで荷物も多くない。

 見たことない道具だけど、こういうものが本当は必要だったってこと?


「このユキグモという道具を靴底に取り付けろ。これだけでも雪に埋もれたり足を滑らせる心配は減る。後、ピックステッキも持っておけ。ユキグモがあっても、雪山はどこに危険が潜むか分からない。ピックステッキがあれば、少し見づらい場所でも確認しながら前へ進める」

「ふえ? これ、私にくれるの?」

「ああ、そうだ。俺はもうとっくに装備してる。予備がいくつかあったし、あんなアホ毛だけ出して雪に埋もれるような小娘を放ってもおけまい。遠慮なく使え。それと、このスミビタケがあれば火を起こすのにも便利で――」

「……スアリさん、準備がいい。至れり尽くせりだし、毎度のことながらありがとう」


 取り出した道具についての説明を交え、予備を私に授けてくれるスアリさん。以前に街道で倒れた時もだけど、この人にはお世話になりっぱなしだ。

 今回にしたって、本当にタイミングよく助けてくれた。もしかして、こっそり私の様子を伺ってたりするのかな?


 ――それは流石にないか。何より、スアリさんをあてにしてはいけない。これは私達の旅だ。


「後は体が温まるような飯が必要だな。無駄に肉や野菜にパンを量だけ用意しても重いだけだ。雪山に応じた栄養を取れる食材を用意しろ」

「それって……例えば?」

「少し待ってろ。今試しに作ってやる」


 とはいえ、スアリさんの方はトントン拍子で私のために何かしてくれる。

 焚火の上でグツグツさせてたお鍋をかき混ぜ、お肉や野菜といった具材を混ぜ合わせていく。

 もしかして、またお鍋を振舞ってくれるってこと? でも、なんだか匂いが前のと違う。


「この匂い……ちょっと臭いかも。でもなんだか、癖になるような……?」

「ホークネイルという辛みの強い野菜にガリクーという滋養強壮効果の高い野菜を混ぜたスープだ。他の肉といった具材はお前達が持っていたものを使わせてもらう。あそこまで大量に持っていても、この先の道中では邪魔になるだけだ」


 少し鼻にツンとくる香りが漂うけど、そこまで悪い気はしない。むしろ、どこか食欲をそそる香り。

 私が持ってたお肉やお野菜をそのまま具材に使われちゃうけど、これについては量を減らすためにも必要だ。今はスアリさんにおまかせしよう。

 具材も鍋に入ったことだし、後は出来上がるのを待つだけだ。


「……おい、ミラリア。カムアーチでは楽園に関する収穫はあったのか?」

「うん、あった。そのために今はタタラエッジを目指してる。そこにイルフ人って人がいるかもしれなくて、楽園のことを聞けるかもしれない」

「全部『かもしれない』というのは曖昧だが、手掛かりが見つかったならそれでいい。とやかく問い詰めはしないが、俺もお前達兄妹の旅は陰ながら応援しておく」


 そうやってお鍋が出来上がるのを待つ間、スアリさんとのちょっとしたお話タイム。どこか素っ気ないのは以前同様だけど、応援してくれるのは嬉しい。

 この人にはお世話になってばかりだし、私としてもお話の中で色々と知りたい。シード卿に対するものとは違うけど、人に対する興味も大事。

 こうした体験が成長に繋がるってことは、これまでの経験で十分理解できた。


「楽園以外にも、カムアーチではいろんな経験ができた」

【そうだな。思い返してみれば、カムアーチに滞在したのは短い期間だったのに、随分と濃い体験ばかりだったか】

「うん。フルコースを食べ損ねたり、パンティー怪盗が海賊だったり、モヤモヤの怪物を倒したり、一目惚れされて恋を知ったり」

【全部いっぺんに羅列するな。意味が分からなくなる。……にしても、ミラリアが恋に興味を持つとはな。幼い頃から知ってる身としては、感慨深くもやはり複雑か……】


 スアリさんのことを聞きたいのもあるけど、逆にスアリさんに話したい気持ちだってある。お世話になった人にこそ、自分のことをもっと知ってもらいたい。

 そんなわけで、カムアーチで起こったことをついつい口に出してしまう。ツギル兄ちゃんも交え、一緒になっての思い出話。

 でも、ちょっと一人で喋りすぎちゃったかな? スアリさんからすると、面白くなかったりするのかな?

 寒さでかじかんでたアホ毛の調子も戻ってきたし、ソローっと目を向けながら様子を伺ってみると――




「……ちょっと待て。ミラリアが恋をしただと? それはどういうことだ? 相手はどこの馬の骨だ?」

なんでそこにまず反応した?

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