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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
164/503

{エステナ教団のその後}

三人称の小話。

カムアーチを訪れていたエステナ教団もまた、裏で暗躍を続けていた。

◇ ◇ ◇



「ホホホ。こんなところに逃げ込んでいましたか。予想外の事態はありましたが、結果としては良好と言えましょう」

「ヤ、ヤメロ……! ワ、ワタシヲココカラ出セ……!」


 カムアーチは真夜中でも眠らない町。だが、目立つ光の中には人知れぬ影が生まれる。

 そんな誰も寄り付くことのない路地で、エステナ教団のリースト司祭といった面々は目を光らせてほくそ笑んでいた。

 手に持ったのは黒い霧のようなものが収まった瓶。その中から聞こえるのは、恐怖に怯えて助けを求める声。


 ――シード卿に憑りつき、ミラリアが斬り払った封怨魂(ふうおんこん)セアレド・エゴ。大きく弱りながらも、このカムアーチの影へ逃げ延びていた。


「憑りつく人間もいなければ、瓶の中から抜け出すこともできません。これならば、私もあなたに怯える必要はありませんからね」

「ダ、出シテクレ……! ワタシハ自由ニナッタンダ……! モ、モウ誰カニ利用サレタクハナイ……!」

「おかしなことを言うものです。あなたは本来、恐怖も苦痛も感じない存在ではありませんか? なのに、何故恐れなど抱くのですか? おとなしく元の道理に従い、我々エステナ教団の力となればよいのです」


 ただ、逃げ延びた先に待ち受けていたのはエステナ教団。元々シード卿から抜け出たセアレド・エゴを捕らえるのが目的だったらしく、ミラリアが大きく弱らせたタイミングで仕留めるために暗躍していた。

 結果、エステナ教団としての目的は達成。リースト司祭も不気味な笑みをいつものように浮かべ、手に取った瓶の中で怯える成果を眺めていた。


「リ、リースト司祭。本当にこのような怪物が、我らエステナ教団の救いになると?」

「私共からすれば、苦痛や怨嗟が入り混じった邪悪な魔力にしか見えないのですが? それこそ、闇瘴よりも遥かに恐ろしいと言いますか……」

「大丈夫ですよ。こんな怪物でも、使い方次第で役に立ちます。そのためにはまず、余計な感情など取り除かないといけませんね」

「ヤ……ヤメテクレ! ワ、ワタシハ自我ヲ手ニ入レタンダ! モ、モウ、楽園ダノ人間ダノニ利用サレ――アガァア!?」


 ミラリアを散々苦しめたセアレド・エゴでさえも、リースト司祭を始めとしたエステナ教団にとっては道具に過ぎない。

 脅威と言えるほどの力を失い捕らえられたセアレド・エゴは、リースト司祭によってその精神さえも奪われていく。

 エステナ教団の狙いはセアレド・エゴという存在そのもののみ。余計な思考や自我といった感情など、セアレド・エゴに求めてはいない。


「まったく、困ったものです。所詮は創世装置の一部に過ぎないのに、どうして余計な自我など芽生えたのでしょうね? 苦痛や恐れを蓄えるだけで、知能といったものは搭載してないのですがね?」

「リースト司祭? いったい、何の話を……?」

「ホホホ、こちらの話です。ともあれ、これで材料は揃いました。予定通り魔法学都スーサイドへ向かい、用意しているご神体へこの力を植え付けましょう。それで我々エステナ教団やレパス王子の求める力が手に入ります」


 エステナ教団にとってはカムアーチの改革など関係ない。ミラリアについても、手にした力があれば恐れるに足らない。

 そんな思惑のもとで進みつつある計画。先だって手にした聖女フューティの遺体も含め、さらなる悪意が芽生えようとしていた。


 ――それこそ、アキント卿といったカムアーチの貴族も古くから危惧していた、とある驚異の可能性である。




「これにて、女神エステナをこの世界に再現できます。エステナ教団の権威を――かつて世界を支配した楽園の象徴を、形として顕在させるとしましょう」



◇ ◇ ◇

これにて、本章は幕引きとなります。

次章はタタラエッジを目指すミラリア達の道中編です。

よろしければ応援願います。

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