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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
163/503

{シードとアキントのその後}

三人称での章終わり編。その1。

今回はシードとアキントの貴族二人。

◇ ◇ ◇



「本当に引き止めなくてよかったのかな? シード卿よ?」

「アキント卿か……。まずは色々と世話になっちまったことには感謝させてもらう。……ただ、あんたも色々と人が悪い」

「ほう? 読心術が使えなくなったのに、吾輩の何かを知ってるような口ぶりだな?」


 ミラリアとツギルが夜中のカムアーチを発った後、アキント卿はシード卿と二人で話をしていた。

 アキント卿もまた、シード卿に密かな期待を抱く者。それ故に、二人で話せる機会をずっと欲していた。


「……あんた、俺に突っかかってはくるけど、本気で目障りだとは思ってねえだろ? むしろ、何かしら利用――いや、期待みてえなのをしてたんじゃねえか?」

「それは貴様が読心術で読んだのか? 吾輩も警戒し、貴様に直接触れる機会は控えていたのだがな?」

「別に読心術なんて使わねえでも、あんたの動きを見てれば嫌でも分かる。……ただ、今後はその期待に応えられるかは分かんねえけどよ」


 そしてシード卿もまた、アキント卿が内に抱く期待には気付いていた。読心術を介さずとも、シード卿にはアキント卿を始めとした周囲の期待は伝わっていた。

 それでも言及しなかったのは、ひとえに自らが本当に人々を牽引するに足る器かどうかを見極めるため。期待されて浮足立つことを、シード卿自身も恐れてのこと。

 ただ、今後のことを考えるとその口調はどこか重苦しい。


「俺にはもう読心術なんて力はねえ。人の悩みを聞いて名を上げれたのもここまでさ。……やっぱ、そう簡単に運命なんてなびかねえか。偶然手にした力なんかで道を切り開くより、ミラリアみてえに戸惑いながらも経験して進まねえとな」

「その点については、吾輩も妙な期待を抱き過ぎたと反省しよう。だが同時に、今の貴様の想いもまた経験だ。……吾輩は信じたい。力などなくとも、貴様の心がしっかり先を見据えていることをな」

「……やれやれ。やっぱ、アキント卿は上流貴族でも一番の食わせ者か。まあ、俺もここで挫けて折れたりはしねえさ。ミラリアとも約束したからな」


 大きな事態を乗り越えたからか、双方に隠し立てをする壁はなくなっていた。

 読心術という力は失っても、目指すべき未来はまだ先にある。これまでの歴史を塗り替えることを望む二人の貴族の心は、確かに同じ場所を見据えていた。


「今後は吾輩もやり方を変えようか。貴様を見計るのはもう十分にできた。これまでとは違い、身分に関係なく語り合っての改革こそカムアーチには必要なのかもな」

「ああ、そうだな。いがみ合ってばかりもいられねえ。人は語り合って理解する道もある」


 両者は口にせずとも、今後の在り方についてはミラリアの行動が頭に浮かんでいた。

 朧気で未熟な知識ながらも、人のために何かをしようとする姿。未熟であることを誰よりも理解しているが故に、他者と関わって補おうとする姿。

 そんな姿に心打たれるものがあったのは、口にするまでもない話。ミラリア自身だけでなく、そこで関わった人々もまた成長していた。


 ――それはミラリア自身も理解していないものの、少しずつ世界を動かしている。


「結局のところ、俺もミラリアと関わったことでエステナ教団とは手切れになっちまったな。そこについてもあんたの計算通りだったりするのか?」

「いや、流石の吾輩もそこまで先は読めぬ。とはいえ、エステナ教団と手を切れたのは幸いか。吾輩も貴様が連中とつるむことだけは遺憾があったからな」

「……そういや、俺も少し気になってたことがある。なんであんたを含むカムアーチの貴族は、エステナ教団との関与を避けてたんだ? かなり昔からだったろ?」


 結果として、カムアーチの未来はまた一歩先へと進んだ。エステナ教団という部外者の力を借りずとも、カムアーチの中でさらなる発展を目指す志はまとまりつつある。

 ただシード卿が疑問に思うのは、これまでの歴史がエステナ教団を拒んできた理由。そこについては若い下流貴族であるシード卿では推し測れず、真意は古くからの上流貴族であるアキント卿に尋ねる他ない。


「……そこについては、吾輩も先祖の代から『予言』として伝えられたばかりだ。下手な混乱を招きたくないが故、カムアーチでも口にするのは避けておった。無論、楽園を目指すミラリアにも語ってはおらぬ」

「なんだ? 古来からの変革を望むあんたが代々伝わる予言を信じるなんて、随分と奇妙な話じゃねえか? ……そんだけ重大な話ってことか?」

「まあな。そもそもカムアーチの貴族制度は、エステナ教団からの干渉を避けるために作られたと歴史に記されている。もういつ頃からかは分からぬが、その予言が起因となっているのは確かだ」

「そう焦らさねえでくれるか? もうこの際だから、俺にも予言ってやつを教えてくれよ? ……こっちも今度はエステナ教団から睨まれる身だ。情報材料は揃えておきてえ」


 カムアーチの貴族制度とエステナ教団。そこには古くから伝わるとある理由が関与している。

 シード卿としても、ここまで聞かされれば引き下がることもできない。ミラリアのことを想えば、なおのこと知るべき情報とも考える。


 ――その意志をアキント卿も汲み取ったのか、ゆっくりと口を開いてシード卿へと語った。




「かつて、この世界で『三賢者』と呼ばれる者達が語った予言だ。『いずれ女神エステナは世界を滅ぼす』……とな」



◇ ◇ ◇

三賢者って、かなり前に一回出したきりだったか。

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