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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
162/503

その少女、想いを胸に次を目指す

ほんのり小話。ミラリアとツギルのその後。

【……納得はできたか?】

「納得……できたと思う。まだモヤモヤするけど、精一杯のことはできたはず」


 シード卿とお別れした後、私とツギル兄ちゃんは約束通り、アキント卿のお屋敷にあった地下通路からカムアーチの北へと出た。

 あんまり長居はしたくなかったけど、同時に離れるのがどこか寂しい。今でもシード卿の顔が頭に浮かんでくるし、恋というのは難儀なものだ。


【……俺もミラリアを子供扱いしすぎたのかもな。お前だって人の子だ。いつの日か巣立つ時はくる】

「むう? 今度は何の話? 私、鳥さんじゃないよ?」

【ああ、気にするな。こういう話もいずれお前は理解するはずだ。……スペリアス様がミラリアに旅を命じたのも、こういった体験と成長を促す意味があったのかもな】

「……? 意味分かんないけど、私はもっと成長したい。楽しいことだけじゃなくても、苦しいことがあっても、もっと人間として前へ進みたい」


 ツギル兄ちゃんも最初の頃と違い、私の気持ちを否定するようなコメントはしてこない。それはそれでありがたいし、私自身も感じるものがある。

 楽園の道標が見えたこととは別に、外の世界での経験は私を成長させてくれる。形はないし、理屈もない。なのに実感させてくれる。

 スペリアス様と再会した時、私も少しは立派な姿になれてるかな? ワガママ言って困らせてた時と違って、キチンと大人になれてるかな?


「きっと、今の私は『恋をする』一歩手前にいる。またシード卿に会えた時、その答えも見える気がする」

【まあ、あいつも悪い奴ではないみたいだからな。……ただ、悪い様子が見えたらすぐに手を引け。レオパルみたいな本性を隠し持ってないとも言い切れない】

「レ、レオパルさんのことは思い出したくない。鳥肌が立ってくる……」


 別に雪なんて降ってないしまだ雪山も遠いのに、レオパルさんの名前が出ると体中に走る妙な悪寒。あの人もあの人で、一応は私に恋してた……のかもしれない。多分。あんまり思いたくないけど。

 恋の形も色々だ。人の心は十人十色と教えられたように、形のない気持ちにも様々な種類がある。


 ――ただ、全部を理解して受け止めるのは無理。特にレオパルさんの変態性。


「気を取り直して、今は先を目指す。楽園に辿り着くためにも、まずはタタラエッジって場所へ行こう」

【そうだな。アキント卿も警告してたが、道中は雪山だそうだ。エスカぺ村の雪とは違い、外の世界の雪山ってのは過酷らしいぞ】

「なら、準備が大事。まずは麓で教えられたとおりに準備する。そのためのお金だってある」


 ちょっと体をプルプルさせて悪寒を振り払い、目指すべきは雪山の先にある鉱山街タタラエッジ。過酷な旅はまだまだ続くし、楽園の手掛かりもまだひと欠片が見えてきただけ。

 ロードレオ海賊団のカラクリとかも気になるし、シード卿を操ってた力の正体も掴めてはいない。だけど、今は手が届く情報から辿っていこう。


「タタラエッジは鍛冶が有名らしいし、ツギル兄ちゃんを鍛え直してもらうのも悪くない」

【あー、それもいいかもな。トリューシートで手入れしてもらってても、一度ぐらいは本格的な鍛冶屋に診てもらいたいな】

「……そういえば、私がシード卿とデートしてる間、ツギル兄ちゃんもメイドさんにヨシヨシされてたんだっけ? 楽しかった?」

【え? あ、ああ。まあ……たまにはいいかなと――】



 ゴンゴン! ジャリジャリ!



【や、やめろ! ミラリア! 俺を引きずるな!?】

「これでも加減してる。いつもよりは優しめ」


 ちょっとしたモヤモヤといつものやりとりを交えながらも、私達はカムアーチをさらに北へと向かう。

 ツギル兄ちゃんのデレデレについても、シード卿との一件で少しは理解もできてきた。とはいえ、ムカムカするのは相変わらず。


 世界の広さだけでなく、人の心の広さもまだまだ未知数。未知への怖さもあるけれど、そんな怖さを乗り越えてこその成長だ。

 楽園にしたってまだまだ未知な部分が多い。本当に滅んだかどうかだって、断言するのはまだ早い。

 私が今目指す先は変わらない。立ち止まって恋を考えるより、求めたい目的がある。

 ここで立ち止まってしまっては、私の方こそシード卿に顔向けできない。




 ――いつか胸を張って再会する時のため、今はまず楽園を目指す。

定まらない気持ちもまた、一つの成長。

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