その鍛冶屋、楽園の手掛かりとなる
次なる目的地が見えてきた。
「魔剣と同じ刀を打てる鍛冶屋さんがいるの?」
「ああ。ただ、吾輩が子供の頃の話だ。今でもあの時の通りだとは限らぬ」
【だとしても、何か手掛かりにはなりそうですね。もう少し詳しく教えてもらえませんか?】
アキント卿の心当たりとは、私の持つ魔剣と同じような刀を作れる鍛冶屋さんの存在だった。確かにそれは気になる。
外の世界はエスカぺ村と違い、片刃の刀のような剣はあまり出回ってない。刀自体がエスカぺ村にあったことから、エデン文明の一つと考えられる。
そんなものを作れる人が外の世界にもいたのか。これは実に重大なヒントと言えよう。
「カムアーチをさらに北東へ進んだ先に雪山がある。そこを超えた先に鉱山街タタラエッジという場所があってな。あそこは様々な鉱石が採取できることもあり、鍛冶の街として発展してきた」
「鍛冶の街……なおさら刀とかもありそう。アキント卿が知ってる鍛冶屋さんって、どんな人?」
「吾輩が子供時代に会った時点で、そこそこ高齢で豪気な男だったな。……ああそれと、少々不思議な見た目をしていたか?」
この話は突き詰める必要があるっぽい。アキント卿にも思い出せる限りのことを思い出してもらおう。
タタラエッジという場所に住んでる刀を作れる鍛冶屋さん。そんな人に会えれば、何かしらの道筋は見えてくる。
そのためにも、どんな見た目の人だったかが重要なんだけど――
「確か……耳の長い男だったな。どこか普通の人間とは違うものを感じたのを覚えておる」
「み、耳の長い……!? それってもしかして……!?」
【楽園に住んでると言われるイルフ人のことか……!?】
――ここでもまた、楽園に繋がる重大な手掛かりを見つけたっぽい。
エスカぺ村の鍛冶屋さんや巫女さんと同じく、耳の長い変わった外見。もしそれが本当なら、その鍛冶屋さんもきっとイルフ人だ。
イルフ人は楽園に住んでると言われる種族。これまで探してきたけど、ようやくその片鱗を捉えることができた。
「イルフ人? 楽園の原住民族ということか? そうだとしても、吾輩の話も50年近く昔のものだ。あの鍛冶屋とて、生きていれば100歳を超えてるであろうな。今も存命しているとは考えづらいか」
【だとしても、家族や知人といった情報はあるはずです。これは楽園を目指すうえで、かなり大きな手掛かりかもな……!】
「うん。アキント卿、ありがとう。私達、そのタタラエッジって場所を目指そうと思う」
これは本当に大きな一歩だ。エスカぺ村があった大陸を出た後、目ぼしい情報なんてなかった中での光明だ。
実際にイルフ人と会えるかは分かんないけど、もし会うことができれば楽園のことだって聞けるかもしれない。
ようやく掴んだ糸なんだ。すぐにでもタタラエッジへ向かいたい。
「今の話を聞き、タタラエッジに向かうというならば吾輩も止めはしない。ただ、あそこに辿り着くまでにある雪山は過酷な道中となる。麓に登山用の集落もあるし、そこでしっかり準備を整えることだ」
「大丈夫。私は冬に『エスカぺ村雪合戦大会』で準優勝した。雪は得意」
【いや、そんな甘いものじゃないと思うぞ? 雪合戦と雪山登山は違うからな? ……そもそもあの大会の優勝者は俺で、ミラリアは雪で転んで優勝を逃したんだろ?】
「……そうだった。油断禁物、用意周到に行こう」
道が決まればすぐにでも出発したい。雪山というのは過酷らしいし、準備のための時間も欲しい。
以前は海のことを何も知らずに無謀なことをして、挙句遭難までしてしまった。今回の雪山ではそんなことがないよう、麓の集落とやらしっかりと準備したい。
これぞ『失敗は成功の母』というもの。苦い経験も力とするのが成長だ。
「もうカムアーチを発つつもりか? まあ、貴様も色々と目立つ動きはしたからな。あまり長居するのも得策ではないだろう」
「私もそう思う。エステナ教団もまだどこかにいるかもしれないし、できる限り人目につかないように出発したい」
「そういえば、エステナ教団には苦手意識があるとか言っておったな。ならば、吾輩の屋敷の地下道を使え。そこからならば、人目を避けてカムアーチ北方出口へ向かえる」
「そこまで配慮してくれてありがとう。またカムアーチへ来ることがあったら――あっ、待って。私、最後に一つだけやりたいことがある」
「やりたいことだと? 何を望む?」
先行く気持ちを抑えられないのもあるし、エステナ教団のことだってある。まだ夜中だけど、もう早いうちにカムアーチから離れた方がいいと思う。
だけど、どうしても私には心残りがある。まだモヤモヤしてハッキリしないままだけど、もう一度あの人には会っておきたい。
「ツギル兄ちゃんは少し待っててもらえる?」
【……まさか、あいつに会うつもりか?】
「嫌? ダメ?」
【……いや、もう俺から余計な口出しはしない。俺も少し過保護が過ぎたのかもな。ミラリアの思う通りに動いて大丈夫だ】
この件についてはたとえツギル兄ちゃんであっても邪魔されたくない。また否定されると思ったけど、渋々ながらも承諾してくれた。
私が何をしたいのかについても、ツギル兄ちゃんは察してくれてる。私もまだ自分の気持ちを理解しきれてないけど、旅立つ前に話をしなきゃいけない人がいる。
――改めて無事を確認し、旅立つ前に言葉を交わしたい人がいる。
「アキント卿。シード卿の部屋へ案内してほしい。……できることなら、最後にお話もしたい」
次を目指す前に会いたい人がいる。




