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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
始まりの村と追及の王国
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その少女、本当の気持ち気付く

それがミラリアの本当の願い。

「ミラリア様? 何か辛いことでもあおりなのですか?」

「そ、そんなこと……ない。つ、辛くなんか……!」

「無理はしないでください。レパス王子といったディストール王国の方々にも話しづらいのなら、私が個人として伺いましょう」


 フューティ様と家族の様子を眺めてると、思わず溢れ出した涙。どれだけ否定しようとしても、止まることなく流れ続ける。

 瞼を抑えても意味がない。心が涙を拒絶できない。ただ、こうなった理由はもう受け入れるしかない。


 確かに私は憧れの外の世界へやって来た。ディストール王国では勇者として崇められた。

 まだ見ぬ神秘は求めたい。美味しいものを食べて、さらなる世界を夢見て、楽園も目指して。

 だけどそれらを実際に天秤にかけても、私には偽れないものがある。




「帰りたい……! エスカぺ村に……帰りたい……!」




 私だって、本当は気付いていたはずだ。でも、気付かないフリをしてただけ。

 外の世界への興味で意気地になって、どうしても自分の気持ちさえ否定してた。いつも頭の中ではエスカぺ村のことがよぎってたのに、それをワガママで拒絶してた。

 今こうしてディストール王国で勇者と称されるのも、エスカぺ村での日々があったからこそ。あの日々がなければ、強大な剣術など身につかなかった。


 苦しい修行に明け暮れた日々も、村のみんなとガヤガヤやってた日々も、スペリアス様に叱られた日々も、ツギル兄ちゃんと追いかけっこした日々も、全部が全部『嫌な思い出』で仕切れるものじゃない。

 あれらの日々が懐かしい。もう一度あの日々へと戻りたい。そこに深い理由なんていらない。




 ――私はただ、本当は寂しいことを誤魔化してただけ。家族と離れ離れが嫌だっただけだ。




「帰りたいよぉ……! スペリアス様ぁ……ツギル兄ちゃぁん……!」

「……ミラリア様は故郷へ帰られたいのですね。その方法は私では分かりかねますが、今はただ心の内を吐き出してください。そのぐらいならば、私が傍でお聞きしましょう」


 気がつけば、私は泣きながら家族の名前を呼んでいる。隣にはフューティ様がいるのに我慢できない。

 この人を案内するのが役目だったのに、むしろその胸元に顔をうずめて泣き続ける私。凄く迷惑なことをしてるのに、フューティ様は嫌な顔をせずに私の頭を優しく撫でてくれる。

 自慢のアホ毛越しにも感じるのは、私にはない優しさのようなもの。言葉で説明できずとも、これが『受け入れる大人の優しさ』なんだって思える。


 ――それに対して、私はまだまだ子供だ。外の世界に出て『大人になった気になっただけ』の子供だった。





「……成程。ミラリア様にはそのような事情があったのですね。おそらく、あなたのお母様とお兄様も本心で良いとは思ってないでしょう」

「ほ、本当に……そうなのかな……?」


 私はフューティ様と一緒に人のいない路地に移り、そこにある木箱に腰かけながら話を聞いてもらった。

 本当は私が案内する側の役目なのに申し訳ない。でも、この人には私も不思議と話すことができる。


 この人が聖女だからなのかな? その優しさに一切の曇りを感じない。レパス王子のように事情を知らないのもかえって楽。

 しどろもどろになりながらも、私はこれまでにあったことをフューティ様に話した。突如ディストール王国にやって来てしまったことから、昨晩家族とも決別してしまったことまで。


「私のような者に語っていただき、恐縮の至りです。ただ私が思うに、レパス王子を始めとしたディストール王国の皆様は少々ミラリア様を束縛してるようにも感じます」

「束縛なら、エスカぺ村でもそうだった……」

「心の在り方とでも言いましょうか。私の観点ですと、エスカぺ村の方々は『ミラリア様がより良い形で成長するため』に尽くしていたのでしょう。逆にディストール王国では『ミラリア様の機嫌を取って成長はどうでもいい』といったように視えます。もちろん、これらは私の第三者的な感想でしかなく、実際にそうだとは言えません」

「……確かにスペリアス様も、私がいずれ外の世界へ出れるように修行してくれた」


 フューティ様の語り口は自然と耳に入ってくる。これまで私は『エスカぺ村が意地悪で、ディストール王国がいいところ』とばかり考えていた。

 でも話を続けていけば、それは私が『そう考えたかっただけ』のような気がしてくる。自分の気持ちに嘘をつき、本当は村のみんなに会いたい気持ちを押し殺してまで、解釈を捻じ曲げてた。


 ――そんな私に対して、フューティ様は凄く大人に見える。どっちか一方に寄りすぎず、キチンと双方の視野を含めてる気がする。


「……私、子供だった。大人になった気で、外の世界でもやっていけると思い上がってた」

「それが事実かどうかまでは、私にも断言できません。ですがそのように考えられるのは、人が人として成長できた証とも考えられます」

「フューティ様にそう言ってもらえると、なんだか気持ちも安らいでくる。ありがとう。……でも、これからどうしよう?」


 ようやく私の気持ちも落ち着き、涙も収まってくれた。私が『今どうしてもやりたいこと』も明確に見えてきた。

 私はエスカぺ村に帰りたい。追放された身でも、もう一度みんなに会いたい。

 スペリアス様とツギル兄ちゃんにも、キチンとごめんなさいする。『ワガママ言って帰らなくてごめんなさい』ってハッキリ言う。

 そうしないと、私はいつまで経っても後悔を引きずる。だけど、どうやればいいんだろ?


 エスカぺ村に帰る方法はまだ見つかってないし、このことをレパス王子にどう説明すればいいのか――




「……でしたら、私が橋渡しになりましょう。ミラリア様のお気持ちを、私からレパス王子に代弁いたします」

「フューティ様が……?」

ワガママを言っても、断ち切りたくない絆はある。

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