その貴族、楽園の歴史を語る
次に目指すべきヒントを求めて。
【やっぱり、楽園はすでに滅んでる可能性が高いのか……。フューティ様も同じように語ってたな】
「だとしても構わない。アキント卿、もっと楽園の歴史を教えて」
「無論だ。今回の一件でこちらも世話になったし、吾輩が知る限りのことを語ろう」
最初に語ってくれた楽園の歴史は、かつてフューティ姉ちゃんが語ってくれたものと同じ。とはいえ、そこはやはり大した重要性もない。
私の最大の目的は楽園で待ってくれてると思われるスペリアス様に再会すること。そしてしっかりごめんなさいすること。
たとえ楽園そのものがなくなってても、場所の手掛かりがあるならそれでいい。
「この本は吾輩が楽園の歴史を辿れる限り辿ったものだ。詳細までは無理だったが、おおよその時系列は記されている」
「本当だ。楽園の日記帳みたい」
【中身としては技術とかじゃなく、あくまで楽園の人々の生活についてですか。それにしても、年代が数千年前になってますよ?】
「それだけ昔に楽園は存在したということだろう。年代については吾輩の推測も多いがな」
その手がかかりとなりそうなのは、アキント卿が楽園の歴史をまとめた日記帳のようなもの。『今日はこんなことがあった』『こういった問題を解決した』といった他愛ない内容が、昔の日付から順に記されてる。
アキント卿が独自に記したものだし、ある程度簡潔にまとめられてるのも分かる。それでも数千年前に楽園が存在したことは読み取れる。
大雑把に見ても悩みなどは見受けられず、話に聞く通り楽園は『苦しみのない場所』だったっぽい。
「ただ、吾輩が気にしてるのは年代とも内容とも違う。一番新しいもので1000年程前までの歴史は辿れたが、その直近の流れに吾輩を目をつけておる」
「むう? 見た感じ、新しい方の歴史程少なくなってる? これがどうかしたの?」
「推測になるが、これこそが楽園が滅んだ原因やもしれぬ」
「そうなの? 別に何か危機が迫ってたようにも見えないよ?」
でも、アキント卿はそんな『苦しみがない場所』だからこそ、楽園は滅んだって考えてる語り口だ。
私には理解できない。苦しみがないなら、滅ぶ理由もないんじゃないかな?
「『危機がない』……というよりは、時代が進むごとに『変化が少なくなった』ということだ。危惧すべき問題がなくなることで、先を求める心さえ失ったのかもな。それはすなわち『進化の終点』とも言えよう」
「つまり、怖いものがなくなったから……成長できずに楽園は滅んだ……?」
まだ不思議に思うところはあるけど、なんとなく分からないようで分かる気もする。アキント卿の語る通り、人間って生きてる中で変化を受け入れながら成長してる。
私だって今回の旅を通し、苦しいことも乗り越えてきた。それが成長や進化といったものなんだろう。ある意味、人間が人間たる由縁だ。
身に迫る危機というのは、たとえるなら進化の種。どんどんと豊かな生活を求める中で、楽園は『もうこれ以上変化できない』って状態になっちゃったのかな?
――気の遠くなるような年月の話でも、私自身の経験と照らし合わせればほんのり理解できる。
【……もしかして、アキント卿がシード卿に期待し、カムアーチに変化を求めていたのもこういった楽園の歴史が理由で?】
「まあな。変化を止めた歴史の果てに待つのは、進化さえできない歴史の終点。歴史とは成功談や物語の題材だけでなく、過去の失敗に学ぶ要素ともなる。人の歴史とは繋がるものだ」
「私もそう思う。楽しいことだけじゃなく、苦い経験も大事」
それら歴史と経験の中での変化は、何も楽園に限った話ではない。今を生きる人達にとっても、過去の教訓はとても大事、
アキント卿って最初は怖い人だと思ってたけど、凄く考えてた人だったんだ。こうして交流しなければ、その本質を見極めることもできなかった。
やっぱり、人と関わることって大事。人間ってそうして成長するものなんだと思う。
――でも、レオパルさんだけは苦手。根本的に関わりたい気になれない。
【こうして歴史を学ぶのもいい機会ですが、今のところ俺達が次に目指せそうな心当たりはないですね。他に情報はないのですか?】
「貴様達兄妹が楽園を目指してるのは理解したが、そう急かすでない。時系列の歴史以外にも、吾輩には手掛かりとなる情報がある」
「アキント卿は物知り。頼りになる。そこも教えてほしい」
「当然だ。貴様達はカムアーチの窮地を救った英雄とも言える。吾輩とて駆け引きや出し惜しみをする気などない」
ちょっとレオパルさんのおぞましさが蘇ってブルッとしたけど、こっちとしてはもっと情報が欲しい。現状、次に目指すべき場所も見えてこない。
ただただ世界を回るのも悪くないけど、明確な指標があった方がやる気になれる。その情報についても、アキント卿は何か覚えがあるようだ。
「これは歴史研究とは別に、吾輩の個人的な記憶の話だ。その魔剣についてのな」
【まさか、俺がツクモだとかで知ってることがあるとかですか?】
「何度も言うけど、ツギル兄ちゃんはツクモじゃない。元々はれっきとした人間」
「それは吾輩も理解しておる。重要なのは中身ではなく形状の方だ」
鍵となるのは魔剣。中身であるツギル兄ちゃんではなく、外身である魔剣そのものにヒントがあるとのこと。
そういえば、この魔剣も元々はエスカぺ村の御神刀で、エデン文明の一部かもしれないんだった。
現状、私以外で似たような刀を使ってたのは、二刀流のスアリさんとポン刀使いのレオパルさん。外の世界ではかなり珍しい類だ。
もしかして、アキント卿はこういった刀の類にも詳しいってこと?
「幼い頃の記憶だが、吾輩はそういった魔剣と同じ形状の剣を作る鍛冶屋に覚えがある。あやつにもう一度会えれば、楽園の手掛かりになるかもな」
魔剣といった刀の類を作る鍛冶屋の存在。それが次に目指すべきもの。




