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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
157/503

その少女、惚れられた男を救う

苦しい戦いの果てに勝利こそしたが、謎だけは残った。

「わ、私が……何って……?」

【あいつ、やけに気になることばかり言ってたな……。そのまま消えたみたいだが……】


 シード卿から元凶が黒いモヤモヤとなって消え去る間際、どうにも気になることを語っていた。

 私に何かあるの? あのモヤモヤと私が同じってどういうこと? 意味が分かんない。

 エスカぺ村のお社に封印されてたことから始まり、不思議なことばっかりの相手だった。


「そ、そうだ! シード卿は!? シード卿は無事なの!?」

【安心しろ。気を失ってるだけだ。こいつもミラリアの前では見栄を張ってたのに、まさかそのミラリアに助けられるとは思わなかっただろうな】

「見栄とか立場とかはどうでもいい。シード卿が助かったのは素直に嬉しい」

【……なんだ? 俺の知らないところで、いい雰囲気にでもなってたんじゃないだろうな?】

「……秘密」

【ぐぬぬぬ……! き、気になる……!】


 とはいえ、今は騒動が解決したことを喜ぼう。気を失ってはいるけど、シード卿の体に異常はない。

 私の居合による傷もなく、今は静かに寝息を立てている。唐突な出来事だったけど、この人が無事で何より。


 ――これが『人を愛する』って感覚なのかな? カムアーチでの体験って、不思議なものばかりだ。


「ミラリア! シード卿は無事か!?」

「あっ、アキント卿。とりあえずは大丈夫。今は気を失ってる」

「そ、そうか……! ありがとう……! 貴様がいなければ、カムアーチはシード卿という大切な未来を失うところであった! 吾輩からカムアーチの代表として、せめてもの礼を言わせてくれ!」

「そのお礼、私もしっかり受け取る。でも、今はシード卿をゆっくりさせてあげたい。休める場所に連れて行ってあげて」

「ああ、そうだな。ならば、吾輩の屋敷に連れて行こう。……あまりここに長く留まること自体、よろしくもないだろう」

「むう? それって、どういうこと?」


 駆け付けたアキント卿もシード卿の無事を確認し、ひとまずは安堵している。ただ、まだ全部が終わったって雰囲気じゃない。

 シード卿を休めたいって気持ちは私もあるけど、それとは別の何かもあるっぽい。


「この騒動でシード卿が暴れる姿は多くの人間に見られてしまった。このような場面を見られては、せっかくシード卿が築き上げた地位も崩れてしまう。今ここにいるだけでも、いずれ非難のマトにされてしまうだろう」

「そっか。みんなはシード卿が操られてたことを知らないんだ。……私もそれは嫌」

【とはいえ、そこは俺達でどうにかできる話でもないか……。その辺りはカムアーチでなんとか――って、ミラリア? どこ行くんだ?】


 話を聞けば確かにその通りだ。事実、今でも逃げ惑っていた人達は恐る恐るこちらを伺い、シード卿を怖がってるように見える。

 本当はシード卿の意志でこんな騒動に発展したんじゃない。シード卿だって操られてた被害者だ。

 それなのに勘違いされたままなんて嫌。だから、私はこの場で言いたいことがある。


「き、君は……シード卿と戦ってくれた少女だよね?」

「だ、大丈夫だったの? まさか、シード卿がカムアーチを襲うだなんて……」

「これまで見せてた態度も、嘘だったってことか……?」

「みんな、落ち着いて聞いて。シード卿の『カムアーチを変えたい』って気持ちは嘘じゃない」


 怯える人達の前に立ち、私はどうしても弁明したい。シード卿の築いた道を、勘違いで壊されたくない。

 シード卿がカムアーチに必要な人ってことは、アキント卿を含めたこれまでの様子から自ずと感じ取れる。

 深くなんか考えてない。私はただ、言いたいことを口にするだけ。


「シード卿は操られてただけ。カムアーチに対する気持ちは本物。私の願いはシード卿の目が覚めた時、もう一度『カムアーチを変える』って道を歩み続けること。だから、カムアーチのみんなに勘違いしてほしくない」

「あ、操られてたって……いきなりそんなこと言われても……」

「唐突な話だとは思う。でも、私の言葉を信じてほしい。どうかこれからも、シード卿には変わらず接してほしい。……私からのお願い」

「あ、頭を下げてまで……。確かにあなたはシード卿を止めてくれた人だから、耳を傾ける価値はあるけど……」


 みんなの前でお辞儀して、誠心誠意シード卿のことを理解してもらうように努める。今の私にはそれしかできない。

 少しは心が揺らいでくれたっぽいけど、まだ少し足りない感じ。ここでしっかり理解してもらえないと、シード卿が誤解されたままになりそうで怖い。


 ――それだけは嫌。ならば、私はもっと胸の内を思うがままにさらけ出すのみ。


「私はシード卿に一目惚れされた。最初は何のことか分からなかったけど、今は前向きに嬉しく受け止めてる。そんな人が勘違いされたままってのは嫌。今回の騒動で、私は偶然この場に居合わせただけ。……ワガママなことを言ってるのは分かる。でも、私に感謝してくれてるのなら、その気持ちをシード卿に向けてほしい。シード卿を信じてあげてほしい。カムアーチの未来は私じゃなく、ここにいるみんなが作るもの。……どうかお願い」

「そ、そういえば、君はダンスの場でもシード卿と一緒にいたな……」

「まだ飲み込めないけど、ここで全部決めちゃうのは横暴な気もしてきたわ……」


 凄く拙い言い方で、あやふやな説明なのは百も承知。それでも、必死に弁明しないと私の気が済まない。

 きっちりとした流れで話せてなどいない。ただ思う限りのことを口にし、頭を下げて理解を求めるだけ。どれだけ稚拙でも構わない。


 ――私のことを好きになってくれた人を、勘違いで悪者にはしたくない。


「……ミラリア。今はそれで十分だ。貴様も吾輩と一緒に屋敷へ来てくれ。シード卿のことも含め、話したいことだってある」


 そうしてずっと頭を下げながらみんなに弁明してたけど、途中でアキント卿からストップが入ってしまった。

 確かにシード卿自身のことも心配だし、私も出しゃばりすぎたかも。これまでのことで振り返りたいことだってある。


【シード卿は先に連れて行ってくれたのか。……ミラリア。思うところはあるだろうが、ここはひとまず下がろう。お前だって、シード卿のことは心配だろ?】

「……これまでシード卿のことは毛嫌いしてたのに、ツギル兄ちゃんも急に心配性になった」

【まあ、妹の態度を見てれば、気が変わることだってあるさ。疲れてもいるだろうし、ここはアキント卿の言う通りにしよう】


 結局、私の言葉がどれぐらい届いたのかは分からない。でも、ツギル兄ちゃんはどこか感じるものがあったらしい。その言葉を聞くとちょっと安心もしてくる。

 私もまだ断言はできない。恋というものを明確には述べられない。


 ――ただ、シード卿が無事だったことが嬉しいのは事実だ。

それは、一人の少女がいまだに戸惑う感情。

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