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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
154/503

◆憑欲体セアレド・シードⅡ

万事休すの中で、全員が望む結末。

「この魔法陣は――ふぎゅ!?」

「おい、無事か!? 騒ぎを聞いて駆けつけたが、いったい何があったのだ!? どうして貴様とシード卿が戦ってる!? そもそも、あの禍々しいシード卿の姿は……!?」


 地面に激突する直前、アキント卿達が私の真下に用意してくれたのは大きな揚力魔法陣。それがネットのように私の体を包み、地面へ激突しそうなピンチから救ってくれた。

 アキント卿がすぐさま駆け寄ってくると、理解が追い付かない故の質問攻め。気持ちは分かるけど、私だってまだまだ困惑してる。

 でも、私一人では勝てそうにない。少しでも事情を理解してもらい、味方してもらわないと止められない。そんなことは考えずとも分かる。


「シ、シード卿は何かに操られてる……! かなり危険な力で、それがシード卿に読心術って力を与えてた……!」

「なんだと!? ならば、今のシード卿はその力が暴走してるとでも言えばいいのか!?」

「そ、その認識で問題ない……!」


 アキント卿は陰でシード卿に期待してた故か、こういう場面でも頭を回して素早く理解してくれる。

 悪いのはシード卿じゃなくて、それに憑りついた邪悪な魂。今はそのことだけ理解してほしい。


「私なら、シード卿に憑りついた相手だけ斬れる……! ハァ、ハァ……! だ、だけど……体が……!?」

「あの高度から叩き落されたのだ! 無理もない! まずは貴様も傷を癒し――」

「た、大変です! アキント卿! シード卿が宙を舞いながら、禍々しい魔力で市街地へ攻撃を!?」

「な、何!? ともかく、動かせる人員を使って避難を優先しろ! 今はこちらからシード卿にも手を出すな!」


 そして成し得るべき目的は、操られたシード卿を止めること。私の理刀流でないと対抗できない。

 なのに、体が言うことを聞いてくれない。さっきの一撃が体中に響いてくる。アキント卿達がいなければ死んでたぐらいだから、これでもまだマシな方だ。


 ただ、事態は待ってはくれない。私を吹き飛ばしたシード卿は、そのまま宙に浮きながら全身に黒い魔力を滾らせている。

 そこを中心に爆発四散でもするかのように、カムアーチの町中へ放たれる邪悪な魔力の球体。アキント卿や部下の人達も慌てふためき、カムアーチ全体がパニックへ陥りつつある。


「な、なんでシード卿が街に攻撃を!?」

「カムアーチのために動いてくれてるんじゃなかったのか!? あれは嘘だったのか!?」

「だ、誰か助けてぇえ! シード卿を止めてよぉお!」

「苦シメ! 人間風情ガ! ワタシニ与エ続ケテキタ苦痛、何倍ニモシテ返シテクレルゾォオオ!!」


 逃げ惑う人達の眼に映るのは、上空から攻撃してくるシード卿の姿。操られているなんて状況を知る由もなく、勘違いしてシード卿を敵視する人まで出てきてる。

 本当は違う。そう声を大にして言いたいのに、声を出す気力すら戻ってこない。


 ――シード卿が勘違いされるのは嫌。あの人はこんな横暴を働く人じゃない。それぐらいは今日一日一緒にいて理解できた。


「ぐううぅ……!? ミ、ミラリア! 貴様ならば、シード卿を元に戻せるのだな!? 嘘ではないな!?」

「ほ、保証まではできない……けど、私だってそうしたい。そのためにも、すぐに立ち上がりたい……!」

「分かった! 今はそれに賭ける! おい! 回復魔法が使える者は、急いでこの少女を治療しろ!」

「で、ですが、シード卿が暴れ回っている状況で、この少女ばかりに――」

「そんなことを言ってる場合でもない! 責任は吾輩がとると言っただろう!? 上流貴族の命令に逆らうのか!?」

「す、すみません! すぐに!」


 アキント卿も事態の要点は見えてるのか、私の回復を優先してくれる。現状、私でしかシード卿を止めることはできなさそうだ。

 操られたシード卿を助けたいと願う気持ちはアキント卿も同じ。この人だって心の奥底で、ずっとシード卿に期待してたんだ。


「吾輩も算段が甘く、浮かれていたと自省するしかあるまい……! シード卿が手にした力と志ばかりに目が眩み、本質が見えていなかったか……!」

「あんな恐ろしい力が眠ってたなんて、想定できた話じゃない。盲目になってたのも、それだけシード卿に期待してたことの現れだと思う」

「……ああ。シード卿は読心術を手にしてからも、あくまで『人々の悩みを救う』ことに力を使っていた。その気になれば上流貴族の弱みを握り、蹴落とすことだってできたのにだ。あやつには『手にした力を正しく使う』気概もある! そのような者をこんなところで無駄にしたくない!」


 回復魔法で手当てを受ける私に対し、アキント卿は想いの丈を吐露してくる。

 眼前ではいまだに操られたシード卿が暴れ、カムアーチ内を混乱の渦に巻き込んでる。こんなことは一刻も早く止めないといけない。

 私もアキント卿もカムアーチのみんなも、果てはシード卿自身もこんな結末は望んでない。

 エステナ教団がどうしてこんな事態を巻き起こしたかなんて今はどうだっていい。やるべきことは一つだけ。


 ――私の手でシード卿を止める。私に惚れてくれた男の人は、私の手で救い出さないと気が済まない。


「……だいぶ体力も戻った。回復魔法、ありがとう」

【行けそうか? ミラリア?】

「正直『行くしかない』って状況。とにかく立ち向かうことしか、今の私には考えられない」


 相手の事情がこれまでと違うし、服装だっていつもと違う。でも、気持ちとしては何かせずにはいられない。

 こっちにだって魔剣がある。シード卿に憑りついた力がどれだけ強大でも、私達兄妹なら挑めるはず。


【……なら、俺からも少し作戦を話そう。莫大な魔力で宙を舞うシード卿相手に、空中戦を仕掛けるのは分が悪い。アキント卿にも頼みたいことがあります】

「わ、吾輩にだと? ああ、今は力になれるならなんでもしよう! どうか……シード卿を救ってやってくれ!」


 私の回復を待ってる間、ツギル兄ちゃんなりに作戦も考えてくれたみたい。もう好き嫌いも立場も関係ない。

 ここにいる全員の願いは一緒。もうこれ以上、シード卿に乱暴な真似はさせない。


 ――そのための作戦を、ツギル兄ちゃんも語ってくれる。




【できる限り強力な剣を一本、ミラリアに貸してやってください。……それと、魔法が使える人間を集められる限り】

シードを救うため、ツギルもまた知略を動かす。

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