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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
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◆憑欲体セアレド・シード

VS 憑欲体ひょうよくたいセアレド・シード


シードに憑りついたセアレド・エゴが牙を剥く!

「そ、そういえば、リースト司祭も『女神エステナの片割れ』がどうとか……?」

【今は気にしてる場合でもない! 来るぞ! 構えろ!】


 憑依した何者かにより、おでこから黒い二本の触角が生えたシード卿。禍々しさは感じつつも、まるでエスターシャでフューティ姉ちゃんに見せてもらった女神エステナの像みたいな姿だ。

 これってどういうこと? 本当に訳が分からない。でも、悩んでる場合じゃないのも事実。


「肉体ヲ手ニシタワタシニ敵ハナイ! マズハコノ地ニワタシノ憎悪ヲ植エ付ケテクレルゾォォオオ!!」

「な、なんだ!? あれはシード卿なのか!? よ、様子がおかしいぞ!?」

「と、とにかく逃げましょう! あの女の子が言ってた通り、これはただ事じゃないわよ!?」


 あまりに豹変したシード卿の姿を見て、周囲の人達もようやく逃げ出し始める。あまりの事態の連続で足が止まってたっぽいけど、流石に危機を感じたようだ。

 私だって本当は逃げた方がいい相手だ。お社の地下で戦った時、私とツギル兄ちゃんの二人がかりでも仕留めきれなかった強敵で、あの時よりもパワーアップした気迫をヒシヒシと感じる。


 ――でも、ここで私が逃げたらシード卿は救えない。救い方なんて分からないけど、ここで逃げた後の方が怖い。


「ツギル兄ちゃん! お願いだから、今だけは相手がシード卿とか関係なく力を貸して! 私、どうしてもシード卿を救いたい!」

【俺もそこまで腐ってない! いくらシード卿がミラリアの相手として気に食わなくても、人を助けない理由なんてないだろ!】

「な、なら、どうすればシード卿を助けられる!?」

【あいつから感じる気配は闇瘴に限りなく近い! ユーメイトさんの時と同じく、まずは聖天理閃といった対抗できる技で攻めろ! ひとまずおとなしくさせるんだ!】


 人々も逃げ出し、場に残ったのは私とツギル兄ちゃんに操られたシード卿のみ。

 今回ばかりはツギル兄ちゃんの意見なんて関係ない。もっとも、流石にこの状況ではツギル兄ちゃんもとやかく文句は言ってこない。

 すぐさま講じるべき手段を教えてくれたし、私も迷ってばかりはいられない。ツギル兄ちゃんの方が魔力や気配に敏感だから、今は信じて言われた通りにするしかない。


「シード卿! ちょっと痛いかもだけど……今は許して!」

「ムッ!? 以前ト同ジ斬撃カ!?」


 シード卿に刃を向けるのは、ユーメイトさんの時とは違う怖さがある。

 元々の肉体は魔王軍なんかじゃない普通の人間。下手に斬りすぎて命を奪ってしまわないかという恐怖もある。

 それでもやるしかない。理刀流は『(ことわり)を表現せし剣技』とも呼ばれ、(ことわり)に背く力へ対抗できる技。

 人の体を乗っ取るなんて、それこそ(ことわり)に背いてる。集中して居合の太刀筋を研ぎ澄ませば、背かれた(ことわり)だけを斬ることだってできる。


 ――そう信じて、魔剣の一閃に賭けるしかない。



 キン――グンッ!



「えっ!? な、何これ!? ま、魔剣の動きが!?」

「残念ダッタナ! ワタシニ同ジ技ハ通用シナイ!」


 でも、魔剣による居合は無情にも届きすらしなかった。シード卿から放たれた黒い魔力の塊が、まるで腕のように刀身を掴んでくる。

 完全に私の太刀筋を読み、防御する動き。過去に私から受けた攻撃を学習したみたいだ。


「一度受ケタ苦痛ヲ、二度モ味ワッテタマルモノカ! ワタシハモウ、苦痛ヲ味ワウノハコリゴリダ! コレガ『進化』トイウモノダ!」

【こ、こいつ……思ったより学習能力が高いな!?】


 確かに一度痛い思いをすれば、もう一度味わうのは誰だって嫌。苦痛という経験が、シード卿の内に潜む怪物を進化させている。

 ある意味で私と同じだ。私だって、これまでの旅で辛かったことから色々と学んできた。

 エスカぺ村が滅んだこと。フューティ姉ちゃんを救えなかったこと。

 それらの経験から、ランさんやユーメイトさんを『救いたい』と願ったとも言える。あの時の後悔をしたくないから、私は今でも強くあり続けようとしてる。


 ――今にしたって、シード卿を見捨てて後悔したくない。


「なら、この技はどう!? あなたはまだ見たことがない! ……刃界理閃!!」

「ムッ!? 斬撃ノ乱舞カ!? 小癪ナァァアア!!」


 だからどれだけ防がれようと、私が退くことなどない。ただ居合を放つだけでダメならば、理刀流の奥義でさらに苛烈に攻め立てるのみ。

 刃界理閃だけじゃない。ポートファイブで覚えた揚力魔法陣による足場形成も使い、宙を舞う相手と高度も合わせる。

 向こうも黒い魔力を盾のように形成して守りに入ってくる。それさえも突き破る勢いで攻め手を緩めはしない。


「小賢シイ技ダガ、所詮ハ居合トイウ同ジ種類ノ斬撃! ナラバ学習済ダ! ワタシト高サヲ合ワセテモ意味ナドナイ!」

「意味がないかなんて、簡単に決めないでほしい! あなたがシード卿を返してくれるまで、私の攻撃は止まらない!」

「無駄ナ足搔キダ! ソウシテ鞘ヲ眼前ニ構エルノモ、居合ノヒトツデシカナイノダロウ!?」


 空中に移動しての攻防。これまで以上に集中できてるからか、慣れない空中戦でも次から次へ技を繋げられる。

 浮いたままで反衝理閃の構えだって取れる。黒い魔力は強大ではあるものの、見切れないレベルじゃない。



 ガッ――バギャンッ!



「あぐっ!? そ、そんな……!? 反衝理閃が……!?」

【こ、これも破ってくるのか……!? 居合自体が通用しないのか……!?】

「居合トヤラハ完全ニ学習シタ! オマエデハワタシニ勝テナイ! オトナシク消エ失セテ、ワタシノ欲望ヲタダ見テロォオオ!!」


 ただ、敵の学習能力は想像の上を行く。反衝理閃によるカウンターすら見切り、刀身が飛び出たと同時に向こうからさらなるカウンターが飛んでくる。

 私の居合の太刀筋については、簡単に見切れるものでないと自負してる。トラキロさんにしても居合そのものは耐えてたし、効かないだけで読み切れたわけじゃない。レオパルさんのようなスピードがあるわけでもない。


 ――それなのにこいつは居合を完全に見切り、私の体を魔力の衝撃波で大きく吹き飛ばしてくる。


「あっ……ぐぅ……!? か、体が……!?」

【し、しっかりしろ! このままじゃ、地面に叩きつけられるぞ!?】


 そのせいで私は空中から地面へと墜落し、このままだとペシャンコになる状況。敵があまりに圧倒的すぎる。

 このまま終わりなの? 私じゃシード卿は救えないの? このまま憑りついたあいつのいいようにされちゃうの?


 ――悔しい。シード卿との思い出が頭をよぎるのに、私にはどうすることもできないのが悔しすぎる。




「大型の揚力魔法陣を展開しろ! あの少女を絶対に助けるんだ! 全ての責任は吾輩がとる!」

「あ、あれって……アキント卿!?」

ミラリア最大の攻撃手段を潰されるピンチの中も、まだ反撃のチャンスはある!

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