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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
152/503

その魂、貴族の体を乗っ取る

一番最初に戦った強敵、再び。

「意識が戻ったの!? が、頑張って!」

「い、いや……一時的なもんだ……! こ、このままじゃ、ミラリアにも手を出して……!?」


 内なる何かに意識を乗っ取られてたシード卿だけど、わずかに意識を取り戻してくれた。でも、まだまだ苦しそう。

 体から溢れる闇瘴に似たモヤモヤも収まらないし、危険な状態には変わりない。早くなんとかして助けないと――




「し……仕方ねえ! ミラリア! このまま逃げろぉお! カムアーチからも離れて……どうか生き延びてくれぇぇええ!!」



 ドンッ



「えっ……? シ、シード卿!?」




 ――そうして助ける方法を考えてると、突然シード卿に高台の上から突き飛ばされる。

 結構な高さだけど、これぐらいなら海で親方さんの船に着地した時ほどではない。無防備な体勢だけど、受け身を取れば十分助かる。


 シード卿の狙いは私を助けること。自身から私を遠ざけ、逃げてもらうこと。それぐらいは落下しながらでも理解できる。

 ただ、シード卿を苦しませたまま一人にするのが辛い。高台から落ちながらも、上を見上げて様子を伺ってしまう。


「ミ、ミラリア……どうか逃げ――エエイ! 邪魔ヲスルナ! コレカラワタシハ自由トナルノダ! モウ誰ニモ縛ラレズ、誰ノ声モ聞カナイ! 忌々シイ人間ドモノ世界ヲ……今度ハワタシノ手中ニ収メテヤルンダァァアア!!」


 かすかに映りこんだのは、シード卿の意識が再び飲み込まれてしまう姿。私のことを庇ってくれたんだろうけど、こんな状態のシード卿を一人にしてしまう方が辛い。


 ――ここからやるべきことなんて一つしかない。



 ダンッ!!



「ふぎゅっ!? ちょ、ちょっと痛い……! でも、シード卿はもっと辛い目に遭ってる……!」

「な、なんだ!? 女の子が落ちてきたぞ!?」

「まさか、あの高台から落ちてきたの!? 大丈夫!?」

「私は大丈夫だから、みんなは早く逃げて! 説明してる暇もない!」


 どうにか地面に着地すれば、まずは周囲の人々へ避難の呼びかけ。このままだと、シード卿も望まない被害が拡大してしまう。

 あの人は操られてるだけ。倒すべきは内側に潜んでいる元凶。


 ――どうすれば対処できるか分かんないけど、それでも立ち向かう以外の選択肢はない。


「ツギル兄ちゃん! 戻って来て!」



 ヒュン――パシン!



【うおおぉ!? きゅ、急に俺を呼び戻したな!? まさか、シード卿に何かされたのか――って、周囲がやけに騒がしいな?】


 急な事態となったので、まだ周囲の人達も逃げればいいのかどうすればいいのか分からず戸惑ってる。

 そんな中でも、私の方では準備を進めるしかない。服装はデートの時のままだけど、ブレスレットを使って魔剣を引き戻す。

 本当に一瞬で手元に戻ってきてくれた。建物の間を掻い潜って飛んできて、私の左手へ鞘ごと握られる。

 ツギル兄ちゃんも状況が読めてないみたいだけど、こっちだって急いでる。とりあえずはスカートのベルトに差し込み、いつもと近い状態で準備する。


【な、なあ、ミラリア? 本当に何があった? 俺は俺でゆっくりしてたんだが――】

「ごめん。ゆっくりの時間はおしまい! すぐにでもシード卿がこっちに来る!」

【シード卿が!? まさか、本当に襲われたのか!? だったら俺もお前の兄貴として、ぶった斬って成敗――】

「そんな冗談を言ってる場合じゃない! シード卿は操られてる! それを助けるのが目的!」

【ミ、ミラリア!? ど、どうしたって言うんだ!? 焦り方が尋常じゃないぞ!?】


 ツギル兄ちゃんは相変わらずシード卿に対してゴタゴタ言うけど、もうそんな戯言に付き合ってる場合でもない。

 私だってどう対処すればいいのか分からない。だけど、目指すべきものは一つだけ。


 ――シード卿を止めて、被害が出るのを食い止めることだけだ。




「マダソコニイタノカ!? ヨク見レバ、イツゾヤニワタシヲ消ソウトシタ小娘カ!? ナラバ敵ダ! ワタシノ自由ヘノ望ミノタメ、ココデ消エテモラウゾォオオ!!」

【なっ……!? あ、あれってシード卿なのか!? だが、この気配……それに、あの魔力と姿は……!?】

「マズい……! どんどんシード卿の体が乗っ取られてる……! は、早くなんとかしないと……!?」




 そうこうしているうちに、操られたシード卿は私を追って下まで降りてきてしまった。魔力で宙を舞いながら、相変わらず体から溢れる闇瘴のような黒いモヤモヤ。

 まだ人々も逃げ出せてないし、私だって状況を掴み切れてない。ただ、ツギル兄ちゃんだけは私と同じように何かを感じ取った模様。


【な、なあ、あいつってまさか……エスカぺ村に封印されてた影の怪物が……!?】

「……やっぱり、ツギル兄ちゃんもそう思うよね。でも、あの姿は……!?」

【あ、ああ。ミラリアも理解できてないだろうが、俺も戸惑ってる……!】


 あの時の影の怪物がシード卿に憑りついてることも気になる。でも、眼前に降り立ったシード卿の姿を見て、さらに異様な感覚に襲われる。

 基本的な肉体はシード卿のままだけど、さっきとは大きく見た目が異なる部分がある。その身を覆う黒いモヤモヤが、形となって新たな部位を作り出したような姿。


 ――それはエスターシャでも見た、女神エステナ様と同じような二本の触角だ。

多くの疑問を残しながらも、いざ対決の時へ。

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