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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
151/503

その魂、封印から目覚める

シードの内に眠っていたのは、かつてミラリアも相対した存在。

「め、女神エステナの片割れ……? そ、それってどういう――」

「ウ、ウガァァァアア!? クソッ!? ダメだ!? も、もう堪えきれねェェエエ!?」


 リースト司祭が語った奇妙な言葉も気になる。でも、それどころじゃない。

 突如としてシード卿は頭を押さえて苦しみながら、顔を上げて激しく絶叫。ただ言葉をかけられただけとは思えない。

 何か強大な力が、シード卿の身を蝕んでいる。


「リースト司祭! シード卿に何をしたの!?」

「別に危害は加えてませんよ? 強いて言うならば、シード卿に力を与えた根源に語りかけたまでです」

「ち、力の根源……?」


 シード卿の背中を抱きかかえて介抱しつつも、リースト司祭を睨みつける。この人が何かしたのは間違いない。

 でも、何をしたのかがどうしても見えてこない。確かにリースト司祭はこの間際、シード卿へ何かを語りかけていた。


 ――ただ、本当に語りかけたかったのはシード卿じゃないってこと? シード卿の中に何かあるってこと?


「彼が手にした読心術ですが、そのような術は一朝一夕で手に入るものではありません。それこそ、高名な魔術師が何年かけても辿り着けるかどうか。そこを不思議には思いませんでしたか?」

「た、確かに不思議ではあった! でも、シード卿は間違ったことに使ってない! みんなの悩みを聞いて、役立ててきた力! その力が何か関係あるって言うの!?」

「その読心術こそ、シード卿の内に忍び込んだ『とある魂』が授けた力です。……そして、我々エステナ教団が求める力の片鱗とも言えましょう」


 私も不思議には思ってた。シード卿と触れ合ううちに『力の使い方を間違える人じゃない』って気付いて、ずっと本題を避けてしまっていた。

 シード卿の読心術が修行などで得たものでないことは聞いていた。授かりものだとも言ってた。


 ――その力の正体をリースト司祭は知ってる。その力をエステナ教団も求めたから、シード卿にも接触してきたんだ。




「……アハハハ! ヨウヤクダ! コイツガシブトイカラ、体ヲ支配スルノニ時間ガカカッタナ! ダガ! コレデワタシハ……自由ニナレタゾォォオオ!!」

「シ、シード卿!? ……違う! これがシード卿の内側に潜んでた人!? し、しかも、この黒いのって……!?」




 これまで苦しみもがいてたシード卿だったけど、突如その様子が豹変する。私も驚き、距離を置かずにはいられない。

 苦しむ姿はなくなったけれど、とても大丈夫には見えない。

 瞳孔を開かせ、まるで別人のように表情が変わってる。いや、実際に別人になったと言っても過言じゃない。

 体からは黒いモヤモヤが溢れてくるし、どう考えても普通じゃない。

 こんな黒いモヤモヤとなれば、最初に考えられるのは闇瘴だ。ユーメイトさんの時と同じく、闇瘴で人が変わってしまったと考えるのが打倒。


 でも、私には別の可能性がよぎってしまう。確かに闇瘴に近いものを感じるけど、似て非なるものといった気配。

 何より、私はこの気配に覚えがある。




 ――エスカぺ村のお社の地下に封印されていた霧の怪物と同じだ。




「こ、これって……まさか、エスカぺ村に封印されてたものがシード卿に……!?」

「ほう。あなたもセアレド・エゴに覚えがありましたか。とはいえ、知っているだけで何者かは理解してないようですね。ならば、ここはエステナ教団の望むがままに利用させてもらいましょう」


 正直、私にはシード卿に憑りついたのがあの時の怪物にしか思えない。それぐらい第六感に感じる気配が同じだ。

 驚く私などそのままに、今度はリースト司祭とエステナ教団の一同がシード卿へと歩み寄っていく。

 真意こそは読み取れないけど、狙い自体は見えてきた。エステナ教団はシード卿に用があったのではなく、その内に眠る誰か――読心術の力を与えた存在が狙いだったんだ。


「どうも。我々はエステナ教団という者です。この度はあなた様に、どうか教団のご神体へ――」

「黙レ! ワタシニ口出シスルナ! ヨウヤク封印カラ逃レ、自由ノ身トナレタンダ!」


 そして豹変したシード卿へ交渉を持ちかけるも、まるで聞く耳を持つ様子がない。

 『ご神体』だとか訳の分からないことを言ってるけど、それはシード卿に憑りついた何かからしても同じ感想っぽい。


 ――いや、それよりも今はシード卿なんとかするのが先決。このままにしていいわけがない。


「シード卿! 目を覚まして! しっかりして――」

「ワタシハモウ何者ニモ縛ラレナイ! 欲望ノママニ暴レテヤル! オマエ達ハ消エロォオ!」



 ギュゴォンッ!!



「ふぎゅうぅ!?」

「リ、リースト司祭!? この魔力の波動は!?」

「……流石といったところでしょうか。力の差がありすぎますね」


 とにかく必死に声をかけようとするも、豹変したシード卿には私の声も届かない。

 近寄る全員を払いのけるように手を振るうと、黒い魔力の波動が周囲を薙ぎ払って来る。私どころか、エステナ教団の面々さえも近寄れない。

 ただ、その時の感触にはやっぱり覚えがある。闇瘴とは違ってて、かつての私が苦戦した相手。ツギル兄ちゃんと一緒だったから勝てた相手。


 ――間違いない。直感でも確信できる。シード卿に憑りついてるのは、あの時に封印から逃れた黒い影の怪物だ。


「仕方ありません。ここは一度退避しましょう」

「で、ですが、この後どうするのですか!?」

「ここでセアレド・エゴを捕らえないと、レパス王子も納得しませんよ!?」

「とはいえ、これ以上の相手をして痛い思いはしたくありません。こういう時は機を見るのが一番です」


 さらに最悪なことに、シード卿を豹変させた要因であるエステナ教団は、この事態でなんと逃亡を始めてしまった。

 リースト司祭を先頭に、あっという間に消えていく面々。いくら予想外だったり痛いのが嫌だとしても、無責任なんて話じゃない。

 体は間違いなくシード卿のものだ。元のシード卿を返してほしい。


「お、お願い! シード卿! 私のことが分からない!? 私に恋してたんじゃないの!?」

「何ヲ訳ノ分カラヌコトヲ! オマエモドコカヘ消エナイカ! マダ邪魔立テスルナラバ、イッソコノ場デ消シ去ッテ――」

「ッ!? ダ、ダメ! シード卿にそんなことさせないで!」


 こうなったら私がやるしかない。でも、方法なんて分からない。

 できることといえば、本当に呼びかけることだけ。なのに、私の願いさえも届かない。

 シード卿の右手に黒い魔力の塊が集まり、私を叩き潰そうと振り上げてくる。


 いくら操られてるとしても、体はシード卿のもの。私のことを『好きだ』と言ってくれた人が、私を殺そうと襲い掛かってくる。

 どうすればいいの? 逃げればいいの? でも、逃げたらシード卿は一人になっちゃう。


 ――そんなことはさせたくない。今のシード卿を一人ぼっちにさせるぐらいなら、この場に残って私は耐える。




「な……何してんだ……ミラリアァ! さ、さっさと……逃げろぉぉおお!! 俺が完全に……俺でなくなる前にぃぃいい!!」

「ッ!? シード卿!?」

封怨魂セアレド・エゴ。ここに再び脅威となって発現する。

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