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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
149/503

そのカップル、夜景を前に今後を語る

とりあえずのデートだったけど、結果は果たして?

「ふい~……ダンス、疲れた。エスカぺ音頭でもあそこまで踊ったことはない。だけど、いい汗かいた」

「そう言ってもらえるなら、それに越したことはねえよ。まあ、俺としては残念な場面もあったがな」


 なんだかんだでダンスに熱中し、気がつけば陽が暮れ始める夕刻。ダンスの会場を後にして、再びシード卿と二人きりになる。

 そして案内されたのは、カムアーチを一望できる高台の上。夕闇が覆う町にネオンと呼ばれる光が際立ち、自然の中と違う人々の賑わいが見えてとても綺麗。

 この景色だけ見ても、カムアーチがどれだけ発展した町かが伺える。


「この光景は是非ともミラリアと見たかったからな。今日は一日、楽しんでもらえたか?」

「うん、楽しかった。シード卿も私なんかと一緒で楽しかった?」

「ああ、もちろんだ。できることなら、これからも一緒にいてえと思ってる」

「……それはできない。私には目指すべき場所がある。目的のある旅がある。それが終わるまで、一ヶ所に留まることはできない」

「目的のある旅……か。そういえば、ミラリアはどうして旅をしてんだ? よかったら俺にも教えてくれねえか?」


 そんな光景を高台から眺めながら、シード卿は密かに胸中を語ってくる。私だって、どこかでそういう話が出てくる気はしてた。

 でも、ずっと一緒は叶わない話。シード卿のことは嫌いじゃないし、むしろ好き。だけどこの『好き』はシード卿の『好き』とは違う。

 シード卿の『好き』ってのは、きっと私がツギル兄ちゃんやスペリアス様といった家族と一緒にいたいのと近い。私の『好き』はエスカぺ村のみんなに優しくしてもらえた時と同じ。

 優劣をつけるわけじゃない。ただ『好き』の方向性が違う。

 シード卿が言ってた『恋に理屈はいらない』ってのも、もしかするとこれと同じことなのかも。


「私とツギル兄ちゃんは楽園を目指してる。スペリアス様が――私のお母さんがそこで待ってるはず。私はあの人にもう一度会って、しっかりと話をしたい。それが旅の目的」

「……つまり、これからも俺と一緒にはいてくれねえってか?」

「残念だけどそうなる。でも、シード卿のことは嫌いじゃない。……いつか全てが終わったら、またカムアーチにも赴きたい。何より、シード卿にだって私とは別の目的がある」


 どれだけ頼まれても、ずっと一緒にはいられない。今回こうして一緒にデートしたのは、アキント卿の頼みもあってのこと。

 楽園を目指すことは私にとって何よりも優先すべき目的。カムアーチでシード卿と一緒に生活することは叶わない。


「……だったら、俺がミラリアの旅についていくってのはどうだ? 魔剣の兄貴にだって、しっかり納得できるように説得する。ミラリアの母親って人にも会ってみてえ。だから――」

「そんなつもりなら、私はシード卿を軽蔑する。『カムアーチを変えていきたい』って気持ちは嘘になるの? 私、嘘つきさんは嫌い」

「い、いや……それは……」


 もちろん、シード卿が私の旅についてくることも叶わない。この人はカムアーチにとって必要な人。それは今日のデート中でも伺えた。

 仮にツギル兄ちゃんを説得――できるとは思えないけど、できたとしても私が認めない。一度目指したものを安易に投げ出す人は嫌。


 ペイパー警部には感謝してても、所属はエステナ教団。ユーメイトさんにもお世話になったけど、所属は魔王軍。

 それらと同じく、私とシード卿は互いの目的を前提とした場合、重なり合うことはない。


「今日のデートは楽しかった。それはそれで本心。私だって、シード卿のことは好き。でも、それはシード卿の望む形とはきっと違う。……何より、あなたにはまず本来の目的である『カムアーチの未来』を成し遂げてほしい」

「……やれやれ、本当におもしれえ女だぜ。説教されたのなんて久しぶりだ。……だが、これもまた惚れた女の言葉だ。俺も真摯に受け止めねえとな」

「別に今生の別れじゃない。私の旅が終わった時、もしも私への気持ちが変わってないならもう一度伝えてほしい。その時はきっと、私ももっと成長して恋というものを理解できてるはず。一緒になるかどうかは、それからでも遅くないと思う」

「ああ、そうだな。どうやら、俺もまだまだ青いみてえだ。口では大層なことを言って読心術なんて授かりものがあっても、全部欲しがるのは横暴か。……ミラリアがこうやって諭してくれる女だってのも、俺が心惹かれた要因なのかもな。ただ、今はまだここまでにするしかねえか」


 シード卿の表情はこれまでの『相手を安心させる笑顔』というより『自分が安心した笑顔』だ。私の言葉を素直に受け止め、納得してくれてる。

 別に大層なことを言ったつもりはない。ただ正直な気持ちを口にしただけ。

 でも、シード卿が納得してくれたならそれでいい。まだ会って少ししか経ってないし、ここで色々と決めるのは早計だ。


 ――私だって、全てが終わってスッキリした後ならシード卿とまた会いたい。


「残念な話だが、俺もミラリアの旅は応援してえ。今日の思い出を胸に、またいつか会える日が来るのを望むしかねえか。……切ねえ話だがよ」

「切ない……私もそうかもしれない。でも、いつかまた会える日は私も楽しみにしてる。その時、シード卿はカムアーチをより良い町にしてくれてるって信じてる」

「ハハハ、そうだな。今の俺にできるのは、ミラリアの期待を裏切らねえことか。俺だけの女神の前で、ダセえワガママも言ってらんねえな」


 夕陽も落ちて、眼下に広がる町のネオンを背景に私とシード卿はお互いの今後を約束する。

 ここで答えを出すことはできない。この答えだけは安易に決められない。

 私もようやく本能で何かを理解できてきた。理屈じゃない願望の正体も掴みつつある。


 ――この恋の果てにあるのは『シード卿と家族になる』という可能性。それはとても重大なことで、二つ返事できることではない。




「ほうほう。気配を殺して様子を伺ってましたが、まさかシード卿とその小娘が一緒にいましたとはね。まさに二兎を得た気分でしょうか?」

「ッ!? だ、誰!?」

「その声は……まだ俺に用があるってえのか?」




 そうして話がまとまろうとしてると、背後から誰かが声をかけてくる。思わず振り向けば、どこかで見た衣装が夕闇に浮かんで見える。

 相手は三人。何より、中央にいる人物の姿は忘れようがない。


 ――さっきもシード卿と関係を断たれたのに、まだ付きまとってくるなんてしつこい人。私もこの人と話はしたくないのに。




「ミラリア様……でしたね。ペイパー警部の手を逃れ、カムアーチまで来られてましたか」

「そっちこそ、わざわざエスターシャからカムアーチに来てまでシード卿に接触してる。私がここにいることをどうこう言えない。……リースト司祭」

全てを丸く収めるつもりなどない因縁の宿敵。

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