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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
148/503

そのカップル、ダンスを踊る

デートでダンス。お約束ですな。

 シード卿に手招きされて、私も他の人と同じように輪の中へ入っていく。両手を握ってもらいながら、ステップを踏んでのダンス。

 こんな踊りをするのは初めて。エスカぺ村ではいつも決まった時期に『エスカぺ音頭』をやってたけど、それとは全然リズムが違う。


「辛くないか、ミラリア?」

「ううん、平気。ダンスについては修行でやってた剣舞に近い。シード卿が引っ張ってくれるから、問題なく踊れる」


 とはいえ、踊ること自体は問題ない。魔剣がない状態でのバランスも慣れてきたし、何よりシード卿が凄く優しくリードしてくれる。

 こうやって一緒に踊るのも、デートとやらの一環なのかな? 外の世界の文化はまだまだ不思議。

 そもそも、エスカぺ村ではデートとか結婚とかの話もなかった。年代的にも上の人ばっかりだったし、こうやって若い人達と一緒に踊ること自体が新鮮。


「シード卿と一緒に踊ってるアホ毛の子、何者なんだ? あのお方が誰かと一緒に踊るなんて……?」

「可愛らしい子だけど、やっぱり婚約者とか? これからのカムアーチのためにも、シード卿には身を固めてもらいたいのもあるしね」

「こういった催しができるようになったのも、シード卿が先陣に立ってくれたおかげだからな。あの人にいい相手が見つかるのは、カムアーチの住人からしても喜ばしい話さ」


 私とシード卿が踊ってると、周囲の人達の視線も集まってくる。カムアーチの有名人であるシード卿がいるのだから当然か。

 こういったダンス会場にしてもシード卿のおかげなのか。みんなからも好意的なコメントが聞こえるし、シード卿がカムアーチのために動いてるのが分かる。


「かつてカムアーチでは、貴族と平民で触れる文化に差があった。だが、貴族も平民も果ては外部の冒険者も、全ては等しく同じ人間だ。文化の中で競争はあっても、触れるべき文化を制限するのは気に食わねえもんでね」

「だからシード卿が垣根を払った。みんなもそうした不満は抱えてたから、率先して動いた」

「中々俺のことが分かってきたじゃねえか。女神様に理解してもらえると、やっぱ嬉しいもんがあるな」

「だから私は女神じゃない……けど、今はそれでいい。シード卿が満足してくれるなら構わない」


 シード卿が実際に動いた成果が見えるのはいい。私のことを『シード卿だけの女神』なんて呼ぶのも許可しよう。

 ただ、やっぱりくすぐったいものがある。周囲の人達も私のことを『シード卿の結婚相手』とか言ってるし、勝手な決めつけは困ったものだ。


 ――でも、完全に否定したい気持ちになれない。こんな気持ち、私は生まれて初めてだ。


「……ねえ、シード卿。『恋をする』ってどういうこと? 私、まだそこの理解が追い付かない」

「ほう? ミラリアからそういう話を持ち出してくるとはな。興味があるってことか?」

「多分、興味はある。私も初めてで戸惑ってる。理解できるように、理屈として教えてほしい」


 あまりに不思議な感覚なのに、怖さというものはない。むしろ『もっと知りたい』という気さえしてくる。

 こういう時は尋ねるのが一番。知らないことであっても、理屈を理解できれば納得できる。

 それが外の世界を――世間を知る鉄則。恥ずかしくても尋ねずにはいられない。




「恋に理屈なんかいらねえよ。俺はただ純粋にミラリアのことが好きで、振り向いてほしいだけさ」

「シ、シード卿……?」




 踊りながら納得のいく答えを待つものの、シード卿は『理屈じゃない』としか答えてくれない。

 それじゃ困る。私はこの内なるモヤモヤに納得したい。このままは嫌。

 なのに、シード卿は微笑みながら眼を瞑り、私の方へ顔を近づけてくる。


 これは危ない。このままだと、シード卿の唇と私の唇がゴッツンコしてしまう。

 そういえば、昨日フルコースを食べてた時もこんなことをしてきたっけ。あの時はツギル兄ちゃんが止めたけど。

 まだ私は納得できてないし、これがデートや恋の一環だとしても理解できない。ツギル兄ちゃんも止めてたことだし、このまま唇ゴッツンコは私も避けたい。


 ――さっき食べたプリンの味だってまだ堪能したい。



 ヒョイ



「うおおぉ!? ミ、ミラリア!? 急に体を反らされると――」

「な、なんだあの少女のポージングは!? これまでのダンスでも見たことないぞ!?」

「難しそうだけど、あの反らした体は芸術点が高い……! 流石はシード卿も認めた女の子! ダンスの新時代をも開拓する!」


 とりあえず、踊りながら上体を大きく反らして唇回避。頭とアホ毛で地面へと三点倒立。体の柔らかさとアホ毛には自信がある。

 これぐらいの動きならば、踊りながらでも問題ない。魔法が使えない私にとって、体の使い方はそれを補うための修業でもあった。

 ちょっと魔剣がなくてバランスが崩れてたけど、慣れてしまえばこんな芸当もお茶の子さいさい。


「シード卿。眼を瞑ると前が見えない。危ない。ダンスで動く時こそ注意して」

「あ、ああ……そうだな。……やっぱ、肝心なところでは理解してもらえねえか?」

「理解してほしいならば、私にも分かるように理屈を求める」

「……まあ、いいさ。これぐらい天然ってのも、俺にとっては新鮮でおもしれえ女だ」


 ちょっと悪い気もするけど、私は自分で納得できないことはしたくない。ディストールではそんな無知が悲劇に繋がった。

 なんだかんだでシード卿も納得してくれてるっぽいし、これはこれで良しとしよう。

 お口の中のプリン感覚ももう少しだけ楽しみたい。




「さっきの動きは……こうか!?」

「あの大きく体を反らす動きを組み込めば、ダンスはさらなる境地に至れそうよ!」

「難しいが、これまでのダンス概念をブレイクする動き……そうだ! この激しさを元に、新しく『ブレイクダンス』というものを作ろう!」




 他の人達は別のことで盛り上がってたけど、これはまた別の話だ。

今ここに、ダンスの新たな歴史が刻まれた。

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