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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
147/503

その司祭、下流貴族に接触する

シードのバックに控えるエステナ教団だが……。

 そういえば、シード卿にはエステナ教団の後ろ盾があるんだった。接触を図ってきてもおかしくはない。

 でもまさか、リースト司祭をここでまた見かけるなんて。あの人のことは今でも許せない。思わず飛び出したくなる。


 ――フューティ姉ちゃんを殺したレパス王子に与する人なんて、何があっても許せない。


「我らエステナ教団としても、カムアーチはこれまで介入できない場所でした。シード卿の力にもなりますので、どうかエステナ教団をよろしく願いたく思います。必要ならば、戦力を動員することも――」

「あー、リースト司祭。俺はそういうやり口はしたくねえんだよ。それより、こっちから一つ言いてえこともあってな」

「ほう? それは何用でしょうか?」


 シード卿は臆することなくリースト司祭と話している。これまでは別々で考えてたけど、その光景を目の当たりにすると辛い。

 ちょっとシード卿に興味が湧いてきた矢先だけど、エステナ教団と一緒にいてほしくない。ワガママでもそう願ってしまう。

 これ以上は苦しい。いっそ、ツギル兄ちゃんを呼び戻してコッソリ――




「悪いんだが、俺はもうエステナ教団とは関わらねえことにした。政権の後ろ盾になるとは思ったが、そんなことしねえでも何とかする。……急な話だが、ここであんた達とは手切れだ」

「……それはまた、急な心変わりですね」




 ――抜け出そうとしたら、シード卿から意外な言葉が紡がれた。陰で様子を見てた私はビックリするけど、それを聞かされたリースト司祭は相変わらずの不気味な笑顔のまま。

 でも、どこか苛立ちのようなものをわずかに感じる。もう元に戻ってるけど、エステナ教団からすれば不服っぽい。


「最初はそっちから俺に声をかけて、確かに実のある話だとは思ってた。だが、カムアーチは昔からエステナ教団を寄せ付けねえ体制を作ってきた町だ。やっぱ、いきなり余所者の手を加えるのは得策じゃねえな」

「ですが、リースト司祭の目的はカムアーチの古い制度を壊すことでしょう? 我らエステナ教団の力があれば、かなりの近道になるでしょう」

「いらねえよ、そんな近道。俺もまだまだカムアーチをどういった方向に向かわせるか思案中でな。……とりあえず、今エステナ教団は必要ねえ。それが分かったんなら、さっさと消えてくれねえか?」

「……これは手厳しい。なら、私も今は退散いたしましょう。あなた様の力は我々としても逃したくありませんが……方法は別にもありますので。失礼します」


 リースト司祭も反論はするものの、結局はシード卿が自分の意見を押し切った。不服とは思いつつも、リースト司祭はイソイソと来た道を引き返していく。

 それを確認すると、シード卿も私の方へ目を向けてくれる。『もう大丈夫だ』と言いたいのが、表情だけで読み取れる。


「ね、ねえ、シード卿。その……あれでよかったの?」

「ん? 何がだ?」

「だ、だって、エステナ教団と……リースト司祭とは仲間みたいなものじゃなかったの? あんな簡単に別れてよかったの?」

「ああ、構わねえよ。そもそもエステナ教団にしてもリースト司祭にしても、俺はいい気がしてなかったからな」


 完全に大丈夫なことを確認すると、再びシード卿の傍に寄り添う。心配になるけど、全然ケロっとしてる。

 むしろ『清々した』って感じ。シード卿にしても、エステナ教団にいい印象はなかったみたい。


「あくまで政治的な協力関係になるかと考えてはいたが……エステナ教団といると、俺だけの女神を逃しちまう」

「むう? 女神はエステナ様じゃないの?」

「言っただろ? 俺の女神はミラリアさ。昨日の様子を見て分かったが、ミラリアはエステナ教団に嫌な思い出があるんだろ? 連中と手を切る理由なんて、それで十分さ」


 それでもって、あそこまであっさり関係を断ち切ったのは私の存在が関わってる。

 確かに昨日はエステナ教団の話が出たタイミングで、私も嫌悪感から勝手に立ち去ってしまった。私のエステナ教団嫌いぐらい、読心術が効かなくても読み取れる。

 シード卿って、本当に私のためなら何でもしてくれるって感じ。エステナ教団なんかより、私と仲良くなる方がよっぽど大事らしい。

 でも、それはそれで不安になってくる。


「シード卿。確かに私はエステナ教団が嫌い。だけど、そのために自分の信念を曲げるのは違う気がする。そんな人なら好きにはなれない」

「ミラリアは本当に手厳しい。俺の読心術が効かねえだけでなく、簡単には曲がらねえ信念もある。……だからこそ、俺も落とし甲斐があるってもんだ。マジで運命を感じずにはいられねえな」

「そればっかりだけど、本当に私との出会いが運命なの? 全然分かんない」


 シード卿にはカムアーチを改革させるという目的がある。私が楽園を目指すように、最終的に成し遂げたいことがある。

 私を好きな気持ちも分かってはきた。とはいえ、そのために必要でもあったエステナ教団との関係を断ち切るのも違う気がする。


 ――だけど、シード卿はいたって穏やかな表情で言葉を紡いでくる。


「俺が読心術を手にしたのも、カムアーチを改革するという神託――運命だと考えてる。この力のおかげで、俺は多くの人々の声を聞くことができた。この力があれば、どんな願いだって思うがままだと考えてた。……そんな時、読心術の効かねえミラリアが俺の元へやってきた。一目惚れしただけじゃねえ。その能力も佇まいも、俺にはどんな女より魅力的だ」

「そうなの? 男の人は胸の大きい女の人が好きじゃないの?」

「そこは個人の趣向ってもんだ。俺にとっては女神エステナなんかを信じるより、ミラリアという『運命の女神』を信じてえ。……障害が多い方が燃えるのが恋ってもんさ。それにエステナ教団なんか頼らねえでも、俺はカムアーチを変えてみせるさ。仕事も恋も成し遂げてこそ、いい男ってもんだよ」

「むう……そういうものなの?」


 まだ私では理解が追い付かない面もある。それでも分かるのは、シード卿がカムアーチの未来も私のことも求めてるってこと。

 欲張りだとは思う。ワガママだとも思う。だけど、その眼には言葉で語れない決意が見えてくる。

 私も人と関わる中で、相手の眼を見ることの重要性は学んだ。スアリさんにしてもユーメイトさんにしても、眼を見れば『嘘をついてないっぽい』ってことが、読心術なしでも感じられた。


 この考えに自信がないわけではなく、むしろシード卿の覚悟がこれでもかと伝わってくる。この人は口にした言葉を無下にする人じゃない。


 ――それと同時に、私には妙な火照りを感じる。むしろ自分自身のことを理解しきれない。




「おっ、シード卿! そんなかわいい子を連れて、もしかしてデートかい?」

「よかったらこっちで一緒しない? せっかくかわいい子が一緒なんだから、楽しんでいきましょう!」




 戸惑う気持ちのせいで、いつの間にやらシード卿に手を引っ張られながら人だかりの前へとやって来たようだ。

 今は難しいことを考えるのは止めよう。シード卿に楽しんでもらうことが、アキント卿から頼まれた私の役目だ。

 ここで何かできるみたいだけど、何をするんだろう? よく見ると、老若男女問わずいろんな人が踊ってるっぽいけど――




「さて、ミラリア。ここの人達と同じように、一つ俺と一緒に踊ってくれないかな?」

「お、踊る……? シード卿と……?」

こいつ、よくこうもキザったらしく対応できるな。

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