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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
146/503

そのカップル、町中を共に歩く

ミラリアとシードによるちょっとしたデート体験編。

 ツギル兄ちゃんをメイドさん達に預け、私とシード卿は二人でカムアーチの町中へ。ここに来たのは夜だったし、お昼に出歩くのは初めて。

 賑わいについては夜と変わらず、どこもかしこも人だらけ。住人と冒険者が入り混じり、騒がしくも活気に溢れてる。


「そういえば、朝ご飯がまだだった。お腹空いた」

「もう昼時だし、軽く何か摘まんでいくか。先に言っておくと、このデートでの金は俺が払う。ただ純粋な好意としてだ」

「むう……もらってばかりは申し訳ない――わわっ!?」

「おっと、軽く躓いたのか? 慣れてねえってのもあるか」


 今日は荷物もないし、腰に魔剣もないからとても身軽。ただ、そのせいでバランス感覚がいつもと違う。

 特に魔剣がないのは意外と大きい。重心がズレた気分。履物もいつもの旅用ブーツじゃないし、新鮮ながらも不慣れさが目立つ。

 思わず転びそうになると、シード卿が優しく両手で抱きかかえてくれた。つくづく、私には優しい人だ。


 何故だか不思議と恥ずかしい。思えば同世代の男の人とこんなに近くなるのって、ツギル兄ちゃん以外では初めてかも。

 レパス王子ともここまで近く接することはなかった。体中に初めての感覚が駆け巡る。


 ――これが恋なのかな? 全部が初めてだから分かんない。でも、悪い気はしない。


「また倒れそうになったら、遠慮なく俺に捕まってくれればいいさ。それより、腹が減ってるんだったな。丁度そこに菓子屋があるから寄っていくか」

「お菓子? 『プリン』って書いてるけど、何?」

「なんだ? プリンは初めてなのか? だったら尚更食べていきな。きっとミラリアも気に入るはずさ。フルコースのデザートも食べずじまいだったしな」


 案内するように私の手を引っ張りながら、シード卿はとあるお店へ案内してくれる。甘い香りがしてきて食欲をそそる。

 それは別として、こうして同世代の男の人に手を引っ張られるのも初めての経験。強いて言うならば、ツギル兄ちゃんぐらいだったか。

 でも、ツギル兄ちゃんに手を握ってもらうのとはまた違う。胸が温かくなるような不思議な気持ち。

 こういう初めての経験って、いつもどこかで怖さがある。なのに、シード卿に手を握ってもらうのはそんな気がしない。


 ――やっぱり、これが恋ってこと? シード卿が私に惚れたように、私もシード卿に惚れてきたってこと?


「ほら。考え事なんかしてねえで、まずは腹ごしらえだ。そこのベンチに座って一緒に食おうぜ」

「え? あ、うん。いただきます」


 プリンという初めてのお菓子を前にしても、ついついシード卿のことに意識が寄ってしまう。私が食べ物より人に興味を持つのも珍しい。

 ツギル兄ちゃんもいなかったりで、普段とは全然違う状況。だけど、怖さよりも興味と感心ばかり湧き上がってくる。

 とはいえ、私が難しく考えすぎてるとシード卿も楽しくない。プリンとやらを持ってきてくれたし、今はこれを頂くとしよう。朝ご飯もまだだったからペコペコだ。


「ッ!? こ、このしっとり滑らかな舌触り……! 濃厚な甘さはミルクと卵の調和……!」

「ハハハ! フルコースを食べてた時もそうだったが、ミラリアは食べ物のことになると本当に明るくなるな! そんなにがっつかねえでも、欲しけりゃまた買ってやるさ」

「ちょ、ちょっとはしたなかったかな? ごめんなさい」

「別に責めてねえよ。むしろ、そういう姿は俺ももっと見てえしよ。ほれ、口元を向けてみな」


 もらったプリンだけど、これまたフルコースに負けず劣らずの美味。エスターシャで食べたフルーツサンドを思い出す。

 ついつい夢中でパクパクしてしまい、口元がプリンだらけになっちゃった。そんな私を見ても、シード卿は取り出したハンカチで優しく拭き取ってくれる。


 初めてディストールへ来た時も、レパス王子は同じように咎めることはなかった。シード卿の態度もあの時に近いけど、何か違うものを感じる。

 心と心の距離。それがとても近い。レパス王子は結果的に『私を利用してた』って側面があるから、どこか遠い感じがしてたのだろう。

 でも、シード卿は違う。その態度に裏があるように感じない。これが『私に惚れてる』ってことなのは理解できてきた。


「……ねえねえ、シード卿。どうして私に惚れたの? ここまで良くしてくれるの? 一目惚れだから?」

「まあ、最初は一目惚れだったんだがな。ただ昨日一緒に食事をする中で、俺の中でミラリアの存在はさらに大きくなった。幼いながらも、芯を持った心根。こうして手を握っても、読心術でその考えを読む事さえできねえ。……俺にとって、ミラリアは不思議な魅力に溢れてる。これまで会った他のどんな女よりも、ミラリアは魅力的に映るのさ」

「そ、そう言われると……なんだか恥ずかしい……」


 レオパルさん経由なのはなんだか釈然としないけど、少しは恋心というものも理解できてきた。これが人同士がとっても好きになる過程なのかもしれない。

 私にはシード卿のような読心術はないけど、本能が告げるように理解が深まっていく。これまでの旅で得た経験とはまた違い、生まれ持った記憶が呼び起されるみたいだ。


「……私もシード卿のことは嫌いじゃない。今はそれしか言えない。ただ、私には旅が――」

「その話も俺は詳しく聞きてえな。昨日は途中で機嫌を損ねちまったし、今日はゆっくりと――ん? チッ、厄介なのがこのタイミングでお出ましか」

「むう? どうしたの?」

「ミラリア。悪いんだが、そこの角に隠れててくれ。俺がちょっと話をつけるべき相手のお出ましだ」


 この奇妙な感情をスッキリさせたい。旅のことも含めて、真剣に考えたい。

 そう話を持ち出そうとしたら、急にシード卿が私を人目につかない路地裏の角へ導いてくる。シード卿自身は少し離れ、まるで私を守るみたいな形だ。

 こっちに誰か来るみたいだけど、誰が来るんだろ? コッソリ顔を出し、気付かれないように様子を伺ってみよう。




「これはこれは、シード卿。我々エステナ教団との話ですが、お気に召していただけましたかな?」

「相変わらず不気味にニヤけた面してやがんな、リースト司祭。まあ、俺もこっちから伺おうと思ってたところだ」


「えっ……!? リ、リースト司祭……!?」

ただ、不穏な影は顔を見せてくる。

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