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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
143/503

その上流貴族、楽園の歴史を知る

アキント卿が提示した交渉条件は楽園に関すること。

「ふえ? アキント卿、楽園のことを知ってるの?」

「吾輩の歴史研究趣味の中には、楽園に関することも含まれている。あまり多くはないが、貴様の目的は『エステナ教団に関わらず楽園を目指す』ことなのだろう? ならば、吾輩の知識は役立つと見える。趣味とはいえ、こちらもエステナ教団とは別で手にした情報だ」


 私がシード卿と仲良くなるお礼として用意されたのは、なんとアキント卿の知る楽園の歴史だった。

 それは凄く興味深い。これまでは技術や種族といった話にしか触れてなかったけど、そこに歴史が加わればより詳細も見えてきそう。


「分かった。それなら、シード卿と仲良くする。明日はシード卿のところに行く」

【ミ、ミラリア!? そんな簡単に承諾していいのか!?】

「私もシード卿とは仲良くしたい。私に惚れたってことに興味ある。ツギル兄ちゃんは嫌なの?」

【い、嫌と言うか何と言うか……あああぁ!?】


 この条件なら断る理由もない。結婚せずとも、仲良くしたい気持ちはある。そんなわけで、スッキリ了承。

 ツギル兄ちゃんは鞘の中で刀身をプルプルカタカタさせて、なんだか『身悶えしてる』って感じ。カムアーチに来てからどうにも行動がおかしい。

 でも、私は間違ったことはしてない。間違ってたらツギル兄ちゃんも嫌がるだけでなく、しっかり止めてくれる。それがないならば、問題ないってことだ。


「そう言ってくれると助かる。あやつにとっても、いい気晴らしになるだろう。ただ、吾輩の真意はシード卿に伏せてくれ。表立って思惑を見せるものではない」

「分かってる。私も個人として、シード卿と接することにする」

「ああ、助かる。それで宿の件だが、吾輩の屋敷に一部屋用意した。あまりいい部屋ではないが、食事も用意しよう。これについてはあの怪盗だか女海賊だかの報酬と思ってくれ」

「うん、ありがとう。明日のことは任せて」


 これにて、この場でのお話は一旦終了。そもそもの用件だった宿についても、このお屋敷の部屋を用意してくれた。

 気がつけば、楽園への道筋も見えてきた。やっぱり、人と関わっていくことは大事なんだ。少なくとも私はそう思う。

 とはいえ、今日はとっても疲れた。用意してもらった部屋に着いたら、残りの時間はゆったりしよう。





「ふにゅ~……。アキント卿は『いい部屋ではない』って言ってたけど、お風呂までついてる。ずっと野宿ばっかりだったけど、やっぱりこういうのが一番癒される……」

【アキント卿も本音を語ってくれたし、変に探りを入れる必要もないな。たまにはゆっくりさせてもらおう。とはいえ、シード卿とミラリアの仲が条件なのか……】


 部屋に案内されると、ちょっとしたお夜食も用意してもらえた。中にあるものは自由に使っていいらしく、お風呂もあったので入らせてもらってる。

 ディストールで勇者ともてはやされた時のことを思い出すけど、今回はしっかりと事情を聞いたうえでの待遇だ。怪しむこともない。

 長旅の汗やレオパルさんの鼻血でベタベタしてたし、たまにはこうやってお湯に浸かって癒されるのも悪くない。アホ毛にも潤いを感じる。


「ツギル兄ちゃんも綺麗にしてあげる。スアリさんにもらったトリューシートでゴシゴシしてあげる」

【ああ、ありがとうな。それにしても、明日はシード卿とミラリアが会うのか……】

「むう? ツギル兄ちゃん、ずっとそればっかり」


 ただ、せっかくの極楽気分もツギル兄ちゃんのグチグチで半減。アキント卿の話は理解したのに、まだ何か不満があるっぽい。

 私と仲良くなれば、シード卿は喜んでくれる。喜んでくれれば、それがカムアーチの今後を導く活力になる。

 ツギル兄ちゃんも否定はしないのに、どういうわけか嫌がってばかり。お風呂に浸かりながら刀身をトリューシートでゴシゴシしてあげてる手も止めたくなっちゃう。


【いいか、ミラリア? シード卿の『ミラリアに惚れた』ってのは、ロードレオのレオパルが抱いてた感情と同じなんだ】

「なら、シード卿も私のパンティーを欲しがるってこと?」

【もしそんなことを言ってきたら、俺を使って迷わず叩っ斬れ。俺が許可する】

「ツギル兄ちゃんに許可されても、流石に私も困る……」


 内容としては、私のことを心配してくれてるのは分かる。でも、発言がいささか過激。

 どうしてそこまでシード卿のことを嫌うのかな? あの人だって私のことを好きみたいだし、仲良くなれるならば私だってそうしたい。

 エステナ教団が関わってるからとか? それはまたシード卿個人とは別の話じゃないかな?


【……俺はな、ミラリア。これでもお前の兄貴のつもりだ。たとえ魔剣の姿になっても、ミラリアが幸せになるならそのために尽くす。……だが、結婚は早過ぎる! お前はまだ15歳だろ!?】

「その話、別にアキント卿も求めてないって言ってた。あくまで私がシード卿を元気づけるだけ」

【た、確かにそうなんだが……ああぁ! この感情、どうやって言葉にすればいいんだ!?】


 挙句の果てには、年齢がどうのこうのって話まで出てくる。確かに私はまだまだ幼い。15歳にはなっても、世の中の人はほとんど私より年上。

 それがどう関係するのか分からないし、別に結婚するわけじゃない。仲良くなるだけだし、そのこと自体に悪い気もない。


【いいか!? これだけは覚えておけ! 男は狼なんだ! シード卿にしたって、いつレオパルみたいに襲って来るか分かったもんじゃないぞ!?】

「狼? シード卿が私を食べちゃうってこと? それは流石にあり得ない」

【いいや、あり得る! 男が好きな女と一緒にいれば、食べたくなるに決まってる! 絶っっっ対に肌を見せたりはするなよ!? 本っっっ当にレオパルみたいに襲って来るぞ!?】

「……ちょっと気になったんだけど、ツギル兄ちゃんは大丈夫なの? 私達、今一緒に裸でお風呂に入ってるよ?」


 どこまで聞いても一緒の話しか返ってこないし、もう適当に流しておこう。ただ、一つだけ気になることがある。

 男の人が女の裸を見て襲って来るなら、ツギル兄ちゃんはどうなのだろうか? 私だって今は裸。そして、兄妹としてずっと好き。


 ――もしかして、ツギル兄ちゃんは私のことが嫌いなの? だとしたら悲しい。




【いや、別に何も感じない。ミラリアのチンチクリンな体に貧相な胸なんて、俺からすれば興奮も何も――】



 ゴシャゴシャゴシャゴシャ!



【うがぁ!? や、止めろ! トリューシートで過剰に磨くな! お、俺が悪かったからぁぁあ!!】

「……分かればいい」

まあ、一応は兄ですし。

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