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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
140/503

その海賊団、逃亡する

ロードレオ海賊団伝家の宝刀!

三十六計逃げるに如かず!

「ゲッホ!? ゲホッ!? ト、トラキロォォオ!? どこ狙っとるんやぁぁあ!?」


 魔力ビームガンとやらは地面の下から見事にレオパルさんへ直撃。でも、当人は一応生きてるみたい。

 さらには地面に穴が開いたことで、カムアーチの下にある渓谷へと落ちていく。グルグル巻きのまま、黒焦げになっても文句を言いつつ落ちていく。

 これって、トラキロさんがやってるんだ。味方を攻撃して大丈夫なのかな?


 ――とはいえ、狙い自体はなんとなく分かる。




「よォし! 船長を確保したぞォ! 野郎どもォ! 撤収だァ!」

「合点承知の助でヤンス!」

「ブースター点火! 全速力でゴンス!」

「こ、こら、待たんかい! 船長のウチを砲撃するとはどういう了見や!?」

「どうせサイボーグなんだから、あの程度で死にはしないでアリンス! 今はおとなしくしてほしいでアリンス!」




 目的は船長であるレオパルさんの救出。真下に閃光で穴を開け、そこからレオパルさんを船で拾い上げるという大胆な作戦だ。トラキロさんや変な語尾トリオの声も真下から聞こえてくる。

 確かに頑丈なのは私も知ってたし、助けるためなら多少のリスクに眼を瞑るのも合理的。かといって『本当にそれでいいの?』って疑問はある。

 事実、レオパルさんは船に乗せられた後もグチグチ文句を言ってばかり。


「ウチの話、聞いとらへんかったか!? ウチを助けることもやけど、ミラリアちゃんを捕まえるんや! あの子は過去最高にキュートかつアグレッシブ! ウチの好みにドンピシャや! ここで逃がしとうない!」

「勘弁してくだせェ! ミラリアちゃんはオレを下半身丸出しスッポンポンにする強敵でさァ! この状況で戦っても不利なのは目に見えてまさァ!」

「ハァ!? 下半身丸出しスッポンポンって何や!? トラキロ! お前、ただの変態とちゃうか!?」

「レオパル船長にだけは言われたくねェなァ! もう女の尻だか下着だかを追うのは止めてくだせェ! こっちの面目が丸潰れだァ!」

「うっさいわ! 面目も何も、ロードレオ海賊団はウチが作ったんやぞ!? それに潰れて困る程度の面目なんざ、海にでも投げ捨てて――」


 その後も穴の下で喧騒が聞こえるけど、すぐさま船は猛スピードで逃げ去ってしまった。

 これは完全にしてやられた。カムアーチが渓谷を跨いだ橋の上にある町であることも上手く利用されちゃったみたい。

 悔しいけど、これ以上は流石に追えない。こっちは船も何もない。そもそも、ロードレオ海賊団の船が速すぎる。


「逃げられたか……。だが、これで怪盗騒動は収まったといえよう。連中も口にしてたが、貴様の名はミラリアだったか?」

「そういえば、アキント卿にはしっかり自己紹介してなかった。ごめんなさい」

「それぐらいはかまわぬ。結果として、忌々しい怪盗を追い払うこともできた。吾輩もまずは感謝させてもらう」


 逃げられはしたものの、これにてカムアーチを震撼させたパンティー怪盗事件は終幕。アキント卿とも話をして、ひとまずはこれでいいらしい。

 でも、逃げられたのは残念。せっかくならキチンと捕まえたかったし、エデン文明のことも聞きたかった。

 これ以上何もできないってのは歯痒い。


「……それよりもミラリアよ。いい加減、その身なりを整えたらどうだ?」

「あっ、そっか。レオパルさんの鼻血ブーで血まみれだった」

「そっちもだが、胸元の方だ。はだけたままでは吾輩も目のやり場に困る。こっちもしたい話があるのに、そのままでは困る」


 アキント卿としてはこれでオッケーとのことで、私に話を持ち出そうとしてくる。おそらく、報酬の宿の件だろう。

 中途半端な結末だけど、私も色々と疲れた。今日はもう休みたい。

 レオパルさんに斬られた胸元も布で覆い隠し、かかった鼻血もできる限り拭き取れた。ひとまずはこれで大丈夫。

 世の中にはあそこまで恐ろしい変態がいるのだから、身だしなみには注意しておこう。


 ――最終的にパンティーが一枚犠牲になったけど、これは必要な犠牲と割り切ろう。


「アキント卿。シード卿もこちらに向かっていると報告が」

「……そうか。吾輩としては、今は介入されたくないな。ミラリアよ。続きの話は吾輩の屋敷でしたい。構わないか?」

「むう? それはいいけど、シード卿を避ける意味って――」

「もうこの際だ。その件についても屋敷で話す。……貴様には少し、吾輩の願いの下で動いてもらおう」


 ただ、その後の様子がちょっと変。シード卿がこっちに来てることを部下から聞くと、少し考えた後に私を屋敷へ案内してくる。

 それ自体は構わない。こっちも宿の話をしたい。でも、シード卿を避けるのがなんだか変。

 仮にもさっきはレオパルさんに対して、アキント卿も厳格な態度をとっていた。その中でシード卿のことを評価した様子もほんのり見えた。

 なのに、どうして今は避けるのだろう? 不思議。


【……なあ、ミラリア。アキント卿の動きに注意しておけ。この人、いささか怪しすぎる】

「確かに怪しいところもあるけど、何をするつもりなんだろ?」


 アキント卿達に連れられながら、どこかコソコソと歩いていく私達。その様子を見て、ツギル兄ちゃんも小声で忠告を入れてくる。

 確かに変な気はしてるけど、その先が私には見えない。ツギル兄ちゃんには分かるのかな?




【おそらく、アキント卿はカムアーチの権力抗争にミラリアを利用する気だ】

「わ、私を……利用?」

変態怪盗海賊はいなくなっても、ミラリアの周囲を巡る不穏な空気は変わらない。

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