◆海邪豹レオパルⅢ
変態サイボーグ女海賊、レオパルとの(理由自体はくだらない)激闘は続く。
「サ、サイボーグ……?」
「せや! 超高度のアテハルコンを表面で繊維のように編み込み、柔軟性を維持しながら圧倒的な防御力を実現! パワーに関しても骨や筋肉の代わりにカラクリパーツを埋め込み、人間どころか魔物さえも上回る出力が可能! 人間を超えた改造人間……それがサイボーグや!」
【まさか、エデン文明の一部か……!?】
右腕を飛ばしても、レオパルさんは全く問題ないといった様子で立ち上がってくる。なくなった右腕の断面を見ても、普通の人間とは明らかに違う。
中に空洞ができてて、煙を出しながらこちらに向けられてる。どう見ても人間の構造じゃない。何かもっと別の技術がレオパルさんの体には埋め込まれてる。
おそらく、トラキロさんも同じような体だったんだ。異常な強度といい、完全に人間の枠を超えてる。
――それこそツギル兄ちゃんも言う通り、エデン文明といった類のものだ。
「ほぉう? エデン文明に覚えがあるみたいやな。まあ、ウチの体も含めたロードレオ海賊団のカラクリは、全部古代文明を解き明かして手にした力なんは確かや。それがエデン文明かまでは、ウチも確証はあらへんが」
「……あなたに興味が湧いてきた。私が追い求めるものを、あなたなら知ってるかもしれない」
「ニャハッ!? ウチに興味!? 惚れたってことかいな!?」
「そ、そうじゃない。できることなら関わりたくないし、惚れたなんてことは絶対ない」
本当にエデン文明の力かどうかは不明なままだけど、追及する価値はありそうだ。カラクリという技術には、まだまだ私の知らないところが多い。
ただ、本能的に関わりたくないのも事実。
こんなタイミングだけど、シード卿の言ってた『一目惚れ』や『恋心』を直感的に理解できた。きっと、相手のことがとっても好きになる感情のことなんだ。
レオパルさんの表情を見れば、そういう感情が隠さずに表面化してるのが見て取れる。むしろ隠そうともせず、相変わらず不気味な笑顔で涎を垂らしてる。
――リースト司祭の張り付いた笑いの真逆だけど、こっちはこっちで極端すぎて怖い。惚れるって怖いことなのかと思っちゃう。
「ともかく、まずはあなたを倒す。今度こそお縄についてもらう」
「そうはいかんでぇ! ウチのこの右腕はこないして取り外してからが本領や! 今度は接近戦やのうて、遠距離戦で相手したるわぁぁあ!!」
それでもやることは変わらないし、形勢も立て直せた。右腕を失ってもまだ戦うつもりらしいけど、ポン刀がなくなったのなら間合いで悩むこともない。
ただ、レオパルさんも今度は遠距離戦を仕掛けるらしく、穴の開いた右腕をこっちに向けてきて――
「ウチの魔力とカラクリの融合! 魔力ビームガンを受けてみろやぁぁああ!!」
バシュゥゥウンッ!!
「えっ!? み、右腕から何か飛んで来た!? じ、刃界理閃!」
――そこから放たれたのは、強烈な光の一閃。おそらくは魔力の塊だろうけど、その威力も範囲も絶大。
咄嗟に放った刃界理閃により、斬撃の盾を作ってなんとか凌ぐ。もしも直撃したら危なかった。それぐらいの威力が周囲の空気からも感じられる。
この技、どこかエスカぺ村を滅ぼしたデプトロイドの熱線に似てる。あの時もレオパルさんが使った技のように、魔力の光が線となって辺りを薙ぎ払ってた。
こんなものを見れば、ますますエデン文明とカラクリの関係を疑ってしまう。レオパルさんはカラクリで似た技を使ったのだろうけど、こうも繋がりが見え隠れしては疑うなという方が無理な話だ。
「……気になるけど、技自体が脅威なのは違わない。今やるべきことも、レオパルさんを打ち倒すこと」
【だが、あの熱線のような魔法を何度も使われたらたまったもんじゃない。たかがパンティー怪盗のくせに、ここまで厄介なものなのか……!?】
その力を前にしても、私は退くわけにはいかない。レオパルさんがロードレオ海賊団船長だとかサイボーグだとか関係なく、パンティー怪盗である以上は捕まえると約束してる。
何より、私の本能も『この人を野放しにしてはいけない』と訴えてくる。想像以上の強敵で、下手をすればユーメイトさん以上の実力。でも、カムアーチの平和のためにも負けられない。
――奪われた私のパンティーはもうどうでもいいから、この人だけは捕まえてみせる。
「あ、あへぇ……ア、アカン……。ビームガンの出力に耐えられへん……」
「……え? あ、あれ?」
【まさかあいつ……バテてるのか?】
などと意気込んで構えなおしてたら、今度はレオパルさんの方の様子がおかしい。完全にへばったように膝から崩れ落ち、右腕の穴からもさっきのような魔力は感じられない。
これって要するに魔力が切れたってこと? 確かにさっきの一発は凄い威力だったから、それで魔力が底をついちゃったとか?
だとしても妙な気がする。レオパルさんって、戦い方に関しては凄く巧み。
後先考えずに無駄撃ちするようには見えないけど――
「は、鼻血出し過ぎて……体力も魔力も抜けてもうた……」
「え……ええぇ……?」
【……馬鹿だろ、こいつ】
――まさかの鼻血が原因だった。
レオパルの敗因:鼻血の出し過ぎ




