◆海邪豹レオパルⅡ
魔剣の弱点も見えてしまい、相手も弩級の変態で絶体絶命!
「なんやぁ!? どないしたぁ!? 太刀筋が鈍ってきとるでぇ!?」
【うっぐぅ……!? い、息がつまりそうだ……!】
「ツギル兄ちゃん! しっかりして! 頑張って!」
ここまでの時間、魔剣を抜き身にすることなんて今までなかった。これまで攻撃は居合による一閃重視で、防御は納刀したまま鞘で行ってたので気付かなかった。
魔剣となったツギル兄ちゃんには弱点があった。どうやら抜刀して抜き身の状態が続くと、宿ってるツギル兄ちゃんの魔力や魂を過度に消耗してしまうらしい。
迂闊だった。こうやって納刀を防がれることなんてこれまでなかったせいか。
レオパルさんの攻撃を抜き身で受ける今の魔剣は、例えるなら『土から掘り出されたジャガイモ』といったところか。
鞘という土がないと、ジャガイモはとっても傷つきやすい。魔剣の場合、ツギル兄ちゃんの魔力や魂に直結する。
――長期戦は不利だ。下手をすれば、ツギル兄ちゃんが消耗して命を落とす。
「ほれほれほれぇ! 抜き身じゃまともに攻められへんのかぁ!? ウチに押されてばっかしやぞぉ!?」
【ハァ、ハァ……く、苦しい……】
「マ、マズい……!? ツギル兄ちゃんの魔力が……!?」
向こうもそれを理解してるのか、私が納刀する暇も与えないほど苛烈に攻め立ててくる。ツギル兄ちゃんの力が弱まってるのが魔剣越しにも感じられるし、早く納刀しないとマズい。
でも、そんな隙はどこにもない。
スパンッ! ――ハラリ
「し、しまった!? 服が……!?」
挙句、レオパルさんのポン刀による一閃が私の胸元を斬り裂いてきた。幸い体にまでは達してないけど、服を斬られて胸元が露わになってしまう。
なんだか恥ずかしいものの、今は気にしてる場合でもない。はだけた胸元にも構わず、必死に魔剣でレオパルさんのポン刀を捌いて――
「ニャハァァア!? ミラリアちゃんのお胸が丸出しぃぃい!? 控えめながら透き通った肌! た……たまらへぇぇえん!!」
ブゥゥゥウウ!!
「えっ!? 鼻血!? なんで!?」
――対処しようとしたら、突如大量の鼻血を噴出しながら天を仰ぎ見るレオパルさん。
別に私の攻撃が当たったわけじゃない。むしろこっちが完全に押されてたぐらい。なのにこれでもかと噴出され、頭上を赤く染めるほどの鼻血。
この人、トラキロさんと同じく普通の体じゃないとは思ってたけど、鼻血の出し方も普通じゃない。あれだけの出血なのに、むしろ恍惚とした表情で興奮してる。
――ただ、その姿を見てまたしても悪寒が走る。私の曝け出された胸を見てこうなったらしいけど、そこを深く考えたくない。
「でも、今がチャンス! ツギル兄ちゃん、しっかり!」
【ハァ、ハァ……! た、助かった。まさか抜き身が続くと、ここまで苦しくなるとはな……!】
「今後はもっと気を付ける! ともかく、今は魔力を集中させて!」
【ああ、分かってる! あの変態クソレズ船長が無駄に興奮してる間に、デカい一撃をくらわせてやれ!】
とはいえ、おかげでこっちにも余裕ができた。すぐさま魔剣を納刀して、ツギル兄ちゃんの魔力を回復させる。
納刀されたことでさっきまでの息苦しさもなくなり、ツギル兄ちゃんの声に元気が戻ってきた。握った魔剣の柄からも感じ取れる。
「刃界理閃は威力不足、反衝理閃で待てるスピードでもない。やっぱり、純粋な居合でこっちから斬りにかかるしかない!」
【俺の魔力は十分だ! 一番の合体技で叩き切るぞ!】
レオパルさんは鼻血で完全に隙だらけ。どうしてこうなったのかは分かんないし、本能的に考えたくもない。
でも、倒すチャンスはここしかない。居合に入れる準備も整った。
「フゥー! フゥー! い、いかんいかん。思わず興奮してもうた。うへ~、鼻血でベトベトに――」
「ハァァア!」
「ニャホッ!? ミ、ミラリアちゃんが胸をはだけさせたままウチに――ア、アカン! また鼻血が……!」
こっちも胸元が丸出しのままだし、できることなら早く元に戻したい。だけど、先にやるべきことは眼前に佇む最強最悪の敵の討伐。
大量の鼻血が宙を舞い、雨のように私の体にも降り注いでくる。血生臭いけど、それに構ってる余裕もない。
必要なのはこっちのスピード。防御力も高い相手だし、斬撃に速度を乗せて限界まで威力を上げる。
――このわずかな隙に決めるしかない。魔剣に衝撃魔法を付与させ、縮地で突進しながらトドメの一閃を放つ。
「震斬!!」
ズパァァアンッ!!
「あんぎゃぁぁあ!? う、腕をやられたぁぁあ!?」
その一閃は見事に命中。レオパルさんのポン刀が握られた右腕を確かに斬り裂いた感触が伝わってくる。
確かに硬い体だけど、トラキロさんよりは一段落ちる防御力みたいだ。おかげで私の震斬も通ってくれた。
完全に切断とはいかなかったけど、レオパルさんは左手で右腕を押さえて苦しんでる。ポン刀も落としたし勝負あった。
「あなたの右腕を斬ったことは申し訳なくも思う。でも、これは斬り合いの勝負の世界。恨みっこはなしにしてほしい」
「ニャッハハ……! か、可愛い顔して言うてくれるやないけぇ……! ウ、ウチもますます気に入ってきたわ……!」
【いい加減おとなしくしろ。お前はここでお縄となり、パンティー怪盗もロードレオ海賊団もここまでだ】
その場でうずくまるレオパルさんに近づいて勝利宣言。右腕の様子を見る限り、これ以上の戦闘はできそうにない。
それにしても、本当に頑丈な人だ。右腕を斬られたのに、まだ変なことを口にする余裕まである。
右腕も斬られはしても血はほとんど出てない。どこまでも不思議な体――
――いや、それはちょっとおかしすぎないかな? 私、本気で右腕を切断する気で斬り裂いたし、骨まで達する感触はあった。
なのに、どうしてそんなちょっとの出血で済んでるの? 鼻血の方が圧倒的に出血量が多いよね?
「よ、よもや、ウチにこの技まで使わせることに……なるとはなぁぁあ!!」
バシュンッ!!
「う、嘘!? 腕が!?」
【腕が飛んで来た!?】
何より、レオパルさん自身はまだ諦めていなかった。膝をつきながら斬られた右腕を私へ向けると、考えもしなかった反撃に転じてくる。
レオパルさんの右腕が斬られた個所から飛んで来た。それがパンチとなって私を襲ってくる。
これ、どうなってるの? どうして腕を飛ばせるの? 意味が全然分からない。
――この人の体、本当にどうなってるの?
「お察しの通り、ウチの体は普通の人間のそれやない! 全身にカラクリの技術を埋め込んだ、人間とカラクリの融合体――『サイボーグ』やぁぁああ!!」
これがロードレオ海賊団最大の技術力!
……なんでもありやな。




