その怪盗、意外な正体
それではご覧ください。
これがパンティー怪盗こと眼帯ギザ歯少女の正体です。
「な、なんや!? お前がウチをハメた犯人――って!? ま、まさか、さっきのカワイ子ちゃんかいな!?」
「……眼帯のお姉さん、何してるの?」
「見りゃ分かるやろ!? ネットに絡まっとるんや!」
「それは分かる。……ただ、左手に握りしめた私のパンティーは何? あなたがパンティー怪盗だったの?」
砂埃が晴れてみれば、そこにいたのはさっきも会った眼帯のお姉さん。私が仕掛けたパンティーを握りしめ、ものの見事に罠であるネットに絡まってる。
正直、ここから言い逃れなんてできるはずがない。どう考えてもこの人こそがパンティー怪盗の正体だ。
――事前に言われてた『犯人は男』や『シード卿が怪しい』という推測は何だったのだろうか? 結末が明後日の方向過ぎる。
【……おい、腐れ眼帯痴女。まずはその手に持ったパンティーを放せ。それは妹のものだ】
「んなっ!? やっぱこのパンティーはそこの可愛い剣客少女のパンティーなんやな!? せやったら、たとえ死んでも放さへんでぇぇええ!! ……って、刀が喋っとるやないかい!?」
【反応するのが逆だろ。この変態眼帯が】
さらにはツギル兄ちゃんも自分から喋り出し、もう事態はしっちゃかめっちゃか。隠すも何もあったものではない。
まあ、今はこの場に私達しかいないし、バレたのはこの眼帯怪盗さんだけだ。もうそれでいいってことにしよう。
――ただ、ツギル兄ちゃんの声が怖い。凄く静かなのにとっても重い。
「……私もよく分からない状況で困る。とりあえず、あなたにはアキント卿のもとへ来てもらう。私もそういう約束だから」
「チィ!? アキント卿の差し金やったってことか!? こないに巧妙な罠を……しかも自分のパンティーを囮に使ってまで……! あっ、これ、めっちゃええ匂いするな」
【いい加減にパンティーを放せ。鼻に近づけるのだけは止めろ……!】
罠のことは評価されてるけど、どういうわけか体に悪寒が走ってくる。この人、私のパンティーを意地でも放さず、挙句の果てに鼻へ当ててスースーし始めた。
何故だかその光景が凄く怖い。いや、怖さの質が違う。おぞましい。
もう余計なことも考えたくない。そのパンティーは返さなくていいから、とりあえずネットに包んだままアキント卿のところへ黙って引きずっていこう。
――私の第六感がこの人に関わることを『史上最悪の脅威』として拒んでくる。
「クソがぁ! せやけど、こないなところでおとなしゅう捕まるウチやあらへんでぇぇええ!!」
ズパパパァンッ!!
「えっ!? 斬撃!? ネットが斬れた!?」
【あ、あいつが手に持ってる武器って、まさか……!?】
そう思ってネットを掴もうとすると、突如として何発も放たれる鋭い斬撃。放ったのはネットに絡まったままの眼帯怪盗さんだ。
細かい斬撃を巧みに操り、あっという間にネットを斬り裂いてしまった。この私の完璧な罠を抜け出すのも恐ろしいけど、斬り裂くのに使った武器を見ればさらにビックリ。
――鍔のない短刀だけど、私が持ってる魔剣と同じ刀の形状だ。
「あ、あなたのそれって、まさか刀――」
「あっ! よくぞ聞いてくれたもう! ウチがこの手に握るは『ポン刀』と呼ばれし刀にて候! そっちの腰にも刀があるが、お嬢ちゃんはまず何者や!?」
「わ、私はミラリア……。た、ただの冒険者……」
「ほう! ミラリアちゃん! ごっつぅええ名前やないかい! このパンティーに相応しい名前や! そっちが名乗ってくれたなら、こっちも名乗るが礼儀ってもんで候ぉお!!」
「ソ、ソーロー……?」
気になって尋ねようにも、ネットを斬り裂いて自由になった眼帯怪盗さんは大袈裟な身振り手振りを交えつつ話を被せてくる。
この人、本当に何なの? やることなすこと全部意味が分からない。レパス王子やリースト司祭とは違う意味で怖い。
思わず名乗ちゃったけど、名乗らない方がよかった気がする。そんなたじろぐ私にも構わず、向こうも応じるように名乗りを上げてくる。
――その際に懐から取り出したのは、眼帯付きの猫マークがついた帽子。あのマークには見覚えがある。
「ウチこそ! 世界中の海を跨にかけし大海賊、ロードレオ海賊団がトップ! 船長のレオパルちゃんやでぇぇええ!!」
「えっ……ええぇ……?」
【こ、こいつが……あのロードレオ海賊団の船長……?】
その名乗りを聞いて、驚く以上に唖然としてしまう。開いた口が塞がらない。多分、ツギル兄ちゃんも口があれば同じような表情をしてただろう。
女性のパンティーを狙った眼帯怪盗さんの正体。それは私も過去に戦った、トラキロさんを副船長とする悪名高き海賊団、ロードレオ海賊団の船長。
名前はレオパルさん。あんなに厳ついトラキロさんの上に立ってたのは、見た目的に私と似たような身長をした女の人だった。
「ほ、本当にあなたがロードレオ海賊団の船長なの? トラキロさんより偉い人なの?」
「なんや? トラキロを知っとるんかいな? カーッ! せやったら、あいつもとんだヘマしとるやないかい! ミラリアちゃんがウチ好みな女の子なことぐらい、あいつも把握しとけよ! まずはミラリアちゃんを捕まえて献上せえよなぁあ!」
【ちょ、ちょっと待て! 『ロードレオ海賊団船長は女好き』って話は事実なのか!? お前だって女だろ!?】
「なんや、この刀? 生意気なことをほざきおるな。別にウチが女とかどうでもええやろ。ウチはただ、カワイ子ちゃんが好きなだけや」
トラキロさんの語り口からして、ロードレオ海賊団の船長はてっきり男だと思ってた。だって、男の人が綺麗な女の人を横に置きたがるって話は聞いたことあるし。
でも、レオパルさんは女の人だ。女の人なのに、女の人を横に置きたがってたってことだ。あっ、女の人のパンティーを盗んでたのも、この辺りの話に繋がるのか。
レオパルさんは女の人だけど、同じ女の人が好き。女好きだから、女性のパンティーにも興味がある。別に履くのが目的じゃない。
――少し賢くなった……気がするけど、なんだかいけないことを学んだ気分。何故だか恥ずかしさと嫌悪感が沸き上がってくる。
「カムアーチなら上手いことシード卿に罪を擦り付けて、好き放題にパンティーパラダイスできると思うたんや! せやけど、まさかこないに頭のキレキレな罠を張る奴がおったやなんて……!」
「シード卿に罪を擦り付けようとしてたなんて……最低」
【つうか『パンティーパラダイス』って何だよ……】
「うっさいわ! ウチの崇高な野望にケチ付けんなや!」
ただ、さっきからレオパルさんの言ってることが意味不明。女好きについては理解できても、それ以上の何かが理解できない。むしろ理解を拒む。
ツギル兄ちゃんもきっと苦い顔をしてる。顔はないけど、気持ちはきっと私と同じ。
――どうやら、私はとんでもない人に出会ってしまったようだ。
「まあせやけど、これまた運命の出会いっちゅうもんなのかもな。ニャハハハ!」
「むう? 運命? 今度は何の話?」
「決まっとるやろ! ミラリアちゃんとの出会いや! その可憐な容姿に立派なアホ毛! 抱きしめたくなるようなボディといい、ウチの好みドンピシャや! スー、ハー!」
さらにさらにと身に感じるのは、私に迫ってくる形容できない危機感。レオパルさんはポン刀という短刀を右手に持ち、左手で私のパンティーを嗅ぎながらにじり寄ってくる。
なんだろう。これまで出会ったどんな魔物よりも怖い。魔王軍より怖い。レパス王子とは違う意味で怖い。
――あらゆる本能が、レオパルさんに対して警鐘を鳴らしてくる。
「さあ……ウチのモンになれやぁぁああ!! ミラリアちゃぁぁあん!!」
ロードレオ海賊団船長、ド腐れ変態レズ、レオパル!
狙いは完全にミラリア!




