その少女、怪盗に迫る
相手の変態性を理解してないミラリアによる、パンティー怪盗捕縛作戦。
【黙って話を聞いてたが、また面倒なことに首を突っ込んだな……】
「でも、上手くいけば宿を用意してもらえる。流れは来てる」
【そう……なのかなー?】
アキント卿達とも別れ、人のいない路地裏までやって来た。こういうところでないと、ツギル兄ちゃんとしっかりお話しできないので仕方ない。
話自体はツギル兄ちゃんも聞いてくれてたし、目的も流れも明白だ。
『パンティー怪盗を捕まえる』→『アキント卿に宿を用意してもらう』
実にシンプルで分かりやすい。怪盗を捕まえれば全部丸く収められる。
【とはいえ、その怪盗をどうやって捕まえる気だ? 俺としては、ミラリアを危険な目に遭わせたくないが……】
「別に危険じゃない。相手は女性のパンティーを盗むだけの怪盗。何も怖くない」
【こ、こいつ……本当に性教育の知識がスッポ抜けてるな……。スペリアス様、この辺りのことは教えなかったのか? ……いや、教えてはいたな。ミラリアが抜けてるだけか】
ツギル兄ちゃんもさっきの人達と同じく、どこか私を憐れむような声をかけてくる。もうそのことは分かんないままでいいや。考えても仕方ない。
それにパンティー怪盗を捕まえる方法については私にも名案がある。この手を使えば、パンティー怪盗なんて一網打尽だ。
「これを用意して、場所は……あっちの方がいいかな?」
【お、おい、ミラリア? その手に持ってるのって……?】
ポーチから必要なものを取り出して準備は万端。ツギル兄ちゃんは不思議そうな声を出してるけど、何をするかは見てのお楽しみ。
私もこの罠には完全に引っかかったんだ。パンティー怪盗だって引っかかるに決まってる。
■
「……よし。ここで様子を伺う。怪盗が私のパンティーを狙えば罠も起動する」
【何考えてんだよぉぉお!? 自分のパンティーを囮に使う奴がいるかぁぁあ!?】
私が用意した作戦はこうだ。
カムアーチの真ん中、橋が盛り上がったところにある広場に私のパンティーを設置。
そのパンティーを誰かが手にすれば罠が作動し、ネットが相手に絡みつく仕掛けを用意。
私の方は離れた建物の屋上から様子を伺い、怪盗が姿を見せるのを待つ。
――完璧な作戦だ。ペイパー警部にやられた罠を私なりにアレンジできた。
【止めてくれよ!? 何が悲しくて妹のパンティーが道のど真ん中に置かれた様子を監視しないといけないんだ!?】
「怪盗の狙いはパンティー。上流貴族の女性のものじゃないけど、パンティーなんて誰が履いたものかなんて判断できない。普通の人達は無視してくれてるし、怪盗を釣るには一番効果的」
【そんなわけないだろ!? あんな露骨な罠、誰も引っかからないっての! 周囲の人にしたって、怪しすぎて逆に避けてるだけだ! 怪盗だって避けるぞ!?】
「むう……そうかな?」
なお、ツギル兄ちゃんには大変不評な模様。今すぐ止めろと抗議しかしてこない。
でも、私的にはこれが一番効率的なはず。狙いがパンティーならば、タツタ揚げの代わりにパンティーを餌にすればいい。
キチンと洗濯した私のパンティーだから汚くもない。衛生面もオッケー。
「とりあえず、このまま待ってみる。これでダメなら別の作戦を考える」
【こ、こんなので上手くいくはずないだろ……! もう諦めよう……。早くパンティーを回収して、町の外で野宿しよう……。は、恥ずかしすぎる……!】
別にツギル兄ちゃんのパンティーじゃないのに、何を恥ずかしがってるんだか。
そもそも、パンティーなんて洗濯してたらいくらでも見られる。恥ずかしがるものじゃない。
エスカぺ村では干されたパンティーなんてよく見る光景だったし、道端にパンティーが落ちてても『風で飛んで来た』程度で怪しいこともない。
私の直感では、もう少しでパンティー怪盗も出てきそうで――
「うおおおぉ!? こ、これは極上のパンティーやないかい!? も、もろたでぇぇええ!!」
ピンッ――ガバンッ!
「ッ!? 引っかかった!」
【マジかよぉお!?】
――予想通り、誰かが罠のパンティーへ突っ込んでいった。
唐突だったし、あまりの速さで目視はできなかった。でも、罠にかかった音は確かに聞こえた。
怪盗が突っ込んだせいで凄まじい砂埃が舞い上がって視界が悪いけど、罠にかかったのならこっちの勝ち。後は屋上から降りて連れ出せばいい。
「な、なんだ!? 何が起こったんだ!?」
「へ、変質者よ! 道に落ちてたパンティーを狙った変質者よぉぉお!」
「みんな、下がってて。ここからは私が――あっ、みんな普通に逃げた」
とはいえ、まだ油断はできない。怪盗がどんな人なのかはまだ確認できてない。
周囲の人々に避難を促せば、全部言い終わるより早く逃げてくれた。カムアーチの人達は中々機転が利くようだ。
「な、なんやこれは!? ネットが全身に絡みついとるやと!? ええい! あの香しいパンティーは罠やったってことか!?」
「おとなしくして。もうあなたはそこから逃げ出せない。パンティー怪盗、これにて確保」
周囲の人々もいなくなり、静かになった広場の中央。いるのは私とツギル兄ちゃん、それと怪盗の三人だけ。
巻き上がった砂埃も落ち着いてきたし、まずはその顔を拝見させてもらおう。罠にかかった以上、逃げられる心配もない。
はたして、どんな人がこんなくだらない真似をして――
「お、おのれぇ! よくもウチにこないな真似を! 誰や!? 誰がウチのスウィートパンティーライフの邪魔しおったんやぁぁあ!?」
【あ、あれ? この人って確か……?】
「眼帯の……お姉さん……?」
作戦も犯人も全部ヒドイ。




