その怪盗、推測される
パンティー怪盗の正体や如何に?
「ふえ? シード卿が怪盗なの?」
「そう考えるのが自然とちゃうか? 狙われとるのが上流貴族の女なら、それを疎ましく思うとる下流貴族のシード卿が一番怪しい。シード卿はまだ盛んな年頃の男やし、嫌がらせにもなるからな」
眼帯お姉さんが怪盗として導き出したのは、私もさっき知り合ったばかりのシード卿だった。
『盛ん』とかは分かんないけど、確かにあの人は下流貴族で上流貴族と敵対してると聞いてる。推理としての筋は通ってるように感じる。
「でも、こんなくだらないことをする人には見えなかった。シード卿なら、もっと真正面から抗議しそうな気がする」
「た、確かに私達上流貴族もシード卿に迫られることはあるけど、下着泥棒をするのって色々と残念すぎると言うか……」
「私はむしろ『シード卿は違う』と断言するわね。下流貴族といえども、他人のパンティーを盗む下賤な真似はしない人よ」
だけども、私は違うと思う。さっき会った時になんとなく感じたけど、シード卿は『私以外の女性は眼に入ってない』って感じ。
ヒトオモイなのかコメダワラなのかは忘れたけど、シード卿は私のことばっかり見てる。他の女性の――ましてやパンティーに興味があるとは思えない。
上流貴族の女性陣も一部同じように考えており、眼帯お姉さんの推理には否定的だ。いくらマトを得ていても、状況的にしっくりこない。
「なんやなんや? 上流貴族まで目障りな下流貴族を擁護かいな? これでホンマにシード卿が犯人やったら目も当てられんが、まあウチも他人事や。横から口挟んですまんかったな~」
そんな周囲の反応に拗ねたのか、眼帯お姉さんは軽く言い置きだけしてしてこの場を去ってしまった。
あの人、何がしたかったんだろ? 適当に喋りたかっただけなのかな?
「……まあ、吾輩としてもシード卿が犯人と思いたくはない」
「アキント卿も? シード卿とは貴族のあれこれで争ってるんじゃないの?」
「それとは別の話だ。『カムアーチの貴族同士が下着を盗んで争ってる』なんて他所に知れたら、吾輩達とて恥ずかしい」
「確かに。スケールが小さい」
「そうなんだが……多分分かってないのだろうな。この少女は」
とりあえず、この場でシード卿が犯人と断定できる材料はない。内容としては凄く小さいし、こんなことでシード卿が疑われるのもかわいそう。
やっぱり、パンティー怪盗本人を捕まえないことには何も分からない。まずやるべきことはこれしかない。
「ねえねえ、アキント卿。私、そのパンティー怪盗を捕まえてくる」
「え? わ、わざわざお嬢ちゃんが動いてくれるのか? ま、まあ、貴様も冒険者なのだから、腕に覚えはあるのだろうが……」
「大丈夫。相手が魔王軍最高幹部やロードレオ海賊団副船長クラスでない限り負けない」
「な、何だその基準は? な、なら……お願いしようか?」
アキント卿にも確認を取り、早速カムアーチを脅かすパンティー怪盗捕縛作戦の開始だ。
変な憶測が出るからみんなの関係もこじれる。全部明らかにしてスッキリさせれば、揉め合うことだってないはずだ。
「私達からもどうか頼みます。……盗まれた使用済み下着はもういりませんが」
「シード卿の名誉は私も傷つけたくないし、彼の潔白を証明してください」
「……うん? まあ、分かった」
上流貴族の女性陣も応援してくれてるし、ここは頑張りどころだ。でも、ちょっと不思議な気分。
シード卿って、上流貴族からすれば敵にもなるよね? なのに、なんで応援してくれるんだろ?
「……シード卿は確かに下流貴族で、吾輩達上流貴族の地位を脅かす存在ではある。だが、彼の活動は非常に好意的なものであり、それを指示する者も多い。おまけに若くてイケメンだから、上流貴族の中でもなびく者が出てきている」
「それって凄い。……アキント卿は違うの?」
「ああ、違うな。吾輩は上流貴族の中でも、特に古参で上位の家柄だ。……簡単に折れられる立場にいない」
「むう? まあ、いっか。とりあえず、パンティー怪盗を捕まえてくる」
不思議がってる様子を見て、アキント卿が説明を加えてくれた。成程、シード卿自身はカムアーチの上流貴族も含めて人気者なのか。
アキント卿の話はどこか引っかかるけど、シード卿みたいな人ってとても大事。エスターシャのフューティ姉ちゃんみたいなものなのだろう。
裏でエステナ教団と繋がっていても関係ない。シード卿個人に対しては私だって恩義がある。
「ああ、そうだ。貴様が怪盗を捕まえた暁には、何か報酬を用意しよう。望みがあるなら今のうちに言ってくれ。こちらで準備しておく」
「報酬? むー……そうだ。なら、一つお願いがある」
それと、人助けをする中で得られるものだってある。世の中は持ちつ持たれつだってことをこの旅の中で学んできた。
別にそれが目的ってわけじゃないけど、アキント卿から報酬の提案が出てくれた。これは丁度いいタイミング。
ちょっと意地汚い気もするけど、お願いできるならしたいことがある。怪盗の話が出る前まで、私が困っていた件だ。
「宿を紹介してほしい。できればご飯付きの宿。あっ、別に高価でなくても構わない」
「……お嬢ちゃん、もしかして無一文?」
「うん、無一文」
「……それぐらいなら吾輩でどうにでもできる。期待に添えるよう準備しておこう」
パンティーを捕まえて宿をゲットするのだ。




