その貴族、心を読める
(ミラリア以外の)心は手に取るように分かるシード。
「読心術? 人の心が読めるってこと? なら、私の心も読んだの?」
【いや、ミラリアの心は読めてないみたいだ。お前の魔力は乏しい上に異質なのは俺も知ってる。だからこそ、シード卿の読心術も通用しなかったんだろう】
ちょっぴりツギル兄ちゃんに馬鹿にされた気もするけど、シード卿には特別な能力があるってことは分かった。
魔法を使った読心術。元々は魔術師だったツギル兄ちゃんだからこそ勘付いたみたい。シード卿もその件については肯定してる。
「兄貴さんの言う通りさ。俺は相手の魔力を感知することで、その心を読み取ることができる。触れずとも感じる魔力から、どこに誰が潜んで何を考えているかも粗方理解可能だ」
【だからこそ、あんたは魔剣である俺の存在にも気付けたのか。まあ、今の俺は魔力そのものの生命体みたいなもんだ。魔力を感じ取る能力に長けてるなら、なおのこと読みやすいだろうよ】
「ご名答だ。だが、ミラリアのような人間は初めてだ。相手に触れることができれば、俺の読心術はほぼ完璧となる。その人間が心の奥底で抱いている想いさえも読み取れる。なのに、ミラリアには通用しなかった。……流石は俺の惚れた女ってところか。俄然やる気が湧いてきたな」
【面倒な貴族様なことだ……。兄としては、どうにもいけ好かない気分なんだが?】
正直『いけ好かない』ってのはツギル兄ちゃんの私に対する発言にも当てはまるけど、本当に人の心が読めるなら凄いことだ。
そんなことはツギル兄ちゃんどころか、スペリアス様にもできなかった。私の知る中で魔法の扱いに長けた二人であってもだ。
――後、シード卿の私を見る眼がより力強くなった気がする。なんでだろ? これもヒトメボレだかコイゴコロなのかな?
【俺も読心術については魔法に関する書物で見ただけだ。実際にできる人間に会うのは初めてか。ただ、読心術はそう簡単に習得できるものじゃない。俺が知らないだけで、カムアーチにはそういった術式に関する伝承でもあるのか?】
「そんなものが存在したら、それこそ俺がこの町を変えるための切り札にはなんねえよ。……この能力は言うなれば『天からの授かりもの』だ。俺がカムアーチを変えたいと願った中で手にした力だ」
「授かりもの? 手にした力?」
それと気になるのは、シード卿が読心術なんて技を習得した経緯だ。こういう時、エデン文明が関わってることが多い。
もしもそうならば大きな手掛かりにもなったんだけど、どうやら違うらしい。むしろ、理由がはっきり見えてこない。
つまり、ある日突然能力に目覚めたってこと? でも何で?
「まだそんなに前の話でもねえが、俺がカムアーチの貴族社会に憂いて時の話だ。急に空から強大な魔力が降り立ってきてな。そいつが俺の体に宿るや否や、読心術の魔法を習得することができた。俺はあれを『天からの授かりもの』だと思ってる。天が『カムアーチを変えろ』と啓示してくれたんだと思ってる」
【それって本当なのか? なんだか胡散臭い話だな……。色々と大丈夫なのか?】
「俺だってリスクを考えてねえわけじゃねえよ。しっかりと見極める配慮はしてる。何より、力を手にしたならば使ってこそだろ? 事実、俺はこの読心術のおかげで下流貴族ながらカムアーチでの地位を築きつつある」
【そういや、周囲もそんな話をしてたな。具体的にどうやってるんだ?】
詳しく話を聞いてみれば、私もツギル兄ちゃんと同じく奇妙な気がする話だ。そんな唐突に力を与えられることってあるのかな?
私の剣術にしてもツギル兄ちゃんの魔術にしても、スペリアス様の下で厳しい修行に耐え抜いたからこそ手にした力だ。いきなり力を手にするなんて、正直ズルいとも思っちゃう。
「この読心術があれば、近くを通りかかる人間の『不安や苦悩』って気持ちを感じ取ることができる。俺はそういう人間を救っていき、支持を集めてるのさ。いくらカムアーチに古い貴族制度が根付いてるっつっても、今を生きる人間の民意は無視できねえ」
「人助けしてるってこと? それはとても立派。力の使い方を間違えてないなら、それで構わないと思う」
「へへっ、惚れた女にそう言ってもらえるとありがてえな」
とはいえ、その力を真っ当なことに使えてるならそれでいい。私だってカムアーチにとっては部外者だし、下手に口を挟める立場ではない。
ただ、さっきからシード卿が私の眼を見つめながら語る言葉が気になって仕方ない。『ホレタ』からってことらしいけど、これも『ヒトメボレ』とかと一緒のことなのかな?
こうやってマジマジと見られるのは恥ずかしい。なんだか顔が火照ってくる。
【本当にキザったらしい貴族様だ……。ミラリアへの態度は気に食わないが、カムアーチとしての問題は俺も遠目に応援しててやる。ただ本当にそうやって地道に人助けするだけで、これまで続いた町の歴史をひっくり返せるのかは分からんがな】
「そこについては俺も同じようには思ってたさ。現にさっきのアキント卿のように、俺の行いを目障りに思ってる上流貴族もいやがる。だが、そういった連中にも対処できるツテが最近手に入ってな。ここから一気に形勢逆転って考えてるところだ」
【ツテだって? 上流貴族とやらをも相手にできる後ろ盾なのか?】
とりあえず、私もこの話はそろそろ終わりにしたい。変な気持ちも湧き上がってくるし、もうすぐフルコースのメインも運ばれてくるはずだ。
まずはご飯が最優先。楽園に関する話も聞きたいけど、ここは気持ちを切り替えるためにもお腹を満たしたい。
シード卿にはまだ何かしらの手立てがあるらしく、そのことでツギル兄ちゃんと話はしてる。でも、そういうのはご飯の後でもできる話で――
「俺の能力を聞いて、バックに入ってくれた組織がある。……エステナ教団。そっちも冒険者なら聞いたことあるはずだろ? 世界的な支部を持つ大組織さ」
【なっ……!?】
「エ、エステナ教団……!?」
よりにもよって、バックにいるのはエステナ教団。