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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
129/503

その貴族達、覇権を争う

カムアーチを巡るのは貴族同士の覇権争い。

「ほう? よく見れば、先刻店の前で揉めてた冒険者の少女じゃないか。ここは貴様のようなみすぼらしい冒険者が来ていい店ではないぞ? 吾輩のような上流貴族にこそ相応しい店だ」

「人を見た目や身分で判断しねえでもらおう、アキント卿。本当にあんただけは俺が相手でも突っかかってくるな。ミラリアがこの店にいることより、俺が気に食わねえってところか?」


 シード卿とテーブルを一緒にしてると、やって来たのはさっきもお店の前で出会ったおじさんだ。立派な髭を蓄えており、見るからに偉い人なのが分かる。

 でも、なんだか言葉や目つきが辛辣。私に対してもだけど、シード卿に対してはより一層厳しい感じ。ちょっと苦手な雰囲気。


「シード卿も勢いに乗ってるからといって、あまりカムアーチの秩序を乱す真似は控えてほしいものだな。いくら貴族と言っても、そっちは下流貴族だ。吾輩達上流貴族の意向を無視するでない」

「そういう身分制度に囚われてると、カムアーチは新しい時流に乗れなくなんだよ。上流だ下流だ、貴族だ何だの時代なんて俺が終わらせる。……こっちにはそのための力があんのを忘れたか?」

「……フン、いけ好かない下流貴族のガキが。そこまで大口を叩くのならば、吾輩も納得できるように見せてもらおうか。まあ、今はそこの小娘との食事で惚気てればよい」


 アキント卿と呼ばれるおじさんは言いたいことだけ言うと、自分の席へ戻っていった。なんだか、シード卿とは仲が悪いみたい。

 私も向き直ってシード卿の顔を見れば、さっきまで私に向けてくれてた笑顔はない。眉をひそめてふてくされ、凄く機嫌が悪そう。


 ――この人、感情を隠したりってのをする人には見えない。レパス王子とは違い、思ったことがはっきり顔に出るタイプだ。


「……ああ悪いな、ミラリア。せっかくの食事中なのに、嫌なところ見せちまって」

「気にしないで。人には誰しも事情があるから。……それより、さっきのアキント卿って人とは仲悪いの? 『下流』とか『上流』とか言ってたけど、川か何か?」

「それはカムアーチにおける貴族の区分のことだ。この町は昔から貴族ごとに階級があって、家の代が変わっても権力は変わらねえ。俺が『下流貴族』で、さっきのアキント卿っておっさんが『上流貴族』だ。俺の方が下だから、向こうも高圧的に当たってくるのさ」


 こういう人なら少しは信頼できる。バツが悪そうな顔をしても、思ってることを隠さず私にも話してくれる。


 聞いてみれば、このカムアーチという町は下流や上流といった貴族が仕切ってるとのこと。

 シード卿のお家はずっと下流貴族で、逆にアキント卿って人のお家はずっと上流貴族。同じ貴族であっても、昔から続く差があるらしい。

 そういうのって私もおかしいと思う。生まれた瞬間に差が出るのって変。


「だから俺はそんな古臭い制度をぶっ壊そうと考えてる。そのための準備だってしてきたからな」

【要するに、あんたはカムアーチを改革したいってことか。まあ、その心意気は俺も認めるよ。……それなら尚更、ミラリアに惚れてうつつを抜かしてる暇もないだろ?】

「魔剣の兄貴殿はミラリアと違って堅苦しいな。世を変えるために動くとしても、唐突な恋には逆らえねえよ。それに、どんな願いも叶えてこそ一人前の男ってもんだろ?」

【当人が理解してないにしても、よくそんな臭いセリフを平然と吐けるな……。そこまで言うなら、その『準備』とやらを教えてくれないか? 俺も妹に惚れた男の考えは兄として気になる】


 その制度を変えるために動いているのがシード卿。そこについては私も応援したい。

 相変わらず私のことを見る眼が気になるけど、志があること自体はいいことだ。ツギル兄ちゃんもいちゃもんを付けつつも、志自体は評価してる。

 『コイ』が『鯉』なのか『濃い』のかは別として、シード卿が抱く志についてはもっと聞きたい。フルコースを入念にカミカミしながら味わいつつだけど、この人のことは詳しく知りたい。

 向こうも私のことを知りたがってるし、仲良くできるならそうしたい。




「そうだな……実際に見てもらった方が早いか。ミラリア、少し手を貸してくれ」

「むぐぅ? 左手でいい? 右手はご飯で忙しい」

【お、おい! 気やすくミラリアに触るなって! ミラリアももうちょっと反発しろ!】




 そう思いながらフルコースを食べ進めてると、突如シード卿が私の横に来て左手を手に取ってくる。

 右手は食べるので忙しく、ちょっとお行儀が悪い。でも食べるのは止めたくないし、シード卿の気持ちを無下にもしたくない。

 それにしても、私の手を握って何をするつもりなのだろうか?


「……ん? 妙だな? 普通ならこれで読み取れるのだが、ミラリアの心はまるで見えてこない……?」

「どうしたの? 私の手を触って、何か分かるの?」

「い、いやまあ、分かるはずなんだが、どういうわけか分からなくて……?」


 案の定、手を握るだけでは何も分かりはしない。シード卿は不思議そうに私の左手をモミモミするだけ。

 そろそろ止めてほしい。まだフルコースは残ってるし、両手でご飯に集中したい。

 ついついアホ毛で食器を持てないか挑戦してしまいそう。流石に無理だけど。


【あー……成程。シード卿、あんたの思惑が俺には少し見えたぞ。残念ながら、ミラリアは『超』が付くほど魔法が下手くそでな。その関係なのか、魔力も普通の人より乏しい上に異質なんだ。ただ、逆に『記憶に干渉する魔術』に関しては強い耐性を持ってる】

「……やれやれ。魔剣の兄貴の方には見破られちまったか。だが、こういう普通とは違う女ってのもますます面白い。余計に興味が湧いてくるな」


 私は分からないままなのに、ツギル兄ちゃんは何かに気付いたようだ。シード卿との話を聞いても、私に関することで理解してるっぽい。

 ただ、そういうのは私にも分かるように話してほしい。魔法の話が出てくると私も弱いけど、名前を出されたら気になってご飯を食べる手が遅くなってしまう。

 理解できるように説明を求める。そんな気持ちを込めて、ツギル兄ちゃんをツンツンしてみる。




【お、俺をつつくなって。おい、シード卿。ミラリアにも分かるように説明してくれ】

「俺の能力は所謂『読心術』とでもいうものだ。魔力を介することで相手の記憶を読み取ることが俺にはできる。……この能力こそ、カムアーチを改革できる俺の力だ」

相手の心が読めるって、権力争いだと結構なチートじゃない?

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