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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
128/503

その少女、貴族に惚れられる

恋はいつでもサイクロンジェットアームストロングサイクロン。

「ヒトメボレ……? それがシード卿が私をフルコースに招いてくれた理由?」

「ああ、そうだ。ミラリアの姿を見た時、ピンと来てね。幼く見える中に潜む力強さ。それらが表面に出た美しさ。俺だって男だ。惚れた女にはいいところを見せたくもなるさ」


 ヒトメボレというものがあったから、シード卿は私をフルコースへ案内してくれたとのこと。

 理由があるならそれでいい。話してくれるなら私も裏を勘繰らずに済む。

 でも、一つだけ分からないことがあって――




「ヒトメボレ……って、何? お米の種類? 美味しいの?」

「い、いや……。一目惚れは食べ物ではなく、所謂恋心であって……」

「コイゴコロ? そっちは美味しいの?」

「…………」




 ――ヒトメボレだとかコイゴコロだとかが何のことか分からない。

 エスカぺ村で栽培してた『コマチノヒカリ』ってお米の親戚かと思ったけど違うみたい。いい線行ってたと思ったのに外れた。残念。

 本当に何の話だろう? 初めて聞いた。

 シード卿も真顔で固まっちゃったし、話も途切れてちょっと辛い空気。


【ククク……! 残念だったな、シード卿とやら。ミラリアにはあんたの想いが届いてないみたいだ。そもそも、そういう話はミラリアには早すぎる】

「……ま、まあ、今はまだ構わねえさ。そろそろ食事だって来るし、まずは食べながらお互いの話をしようじゃねえか。……うざったい兄貴も厄介だが、鈍感なミラリアにも困ったもんだ。とはいえ、恋は障害が多い方が燃えるのかもな」


 なお、ツギル兄ちゃんはどこか上機嫌。周囲に聞こえないように笑いながら、シード卿を挑発するような態度をとっている。

 こっちも大声を出せないけど、一応今はシード卿にお世話になってる身だ。なのにそういう態度はいただけない。

 後でまたしっかり躾けておこう。妹として恥ずかしい。


「シード卿、お待たせいたしました。こちら前菜である『クリームマッタケのチーズソテー』です。どうぞお召し上がりください」

「おっ、ようやく来たか。さあミラリア、好きなだけ食べてくれ」

「ふああぁ……凄い……! こんな綺麗な料理、初めて見た……! こんなのが他にも出てくるの……!?」

「ああ、これはまだ前菜だからな。他にも色々出てくるさ」


 ともあれ、ようやくフルコースとやらがテーブルに乗せられた。分からないことばかり言われてるけど、お腹が空いてるのは事実。

 まず最初に出てきたのは、キノコにとろりとチーズが乗せられた『前菜』と呼ばれるもの。これだけですでに美味しそうだけど、まだまだ序の口とのこと。


「んむ~~! お、美味しい……! コリコリとしたキノコの歯触りの中で、トロトロチーズが絶妙に主張する……!」

「ハハハ。そんなに喜んでくれるのなら何よりだ。この様子だと、下手に時間をかけない方がいいか。すまないが、他のメニューもどんどん持ってきてくれ」

「かしこまりました、シード卿」


 口に含んでみれば、想像通りどころか想像以上の味わい。これぞまさに『高級で上品な味わい』ってことが自然と理解できる。

 飲み込むのがもったいない。少しずつ口に運んで味を噛みしめ堪能する。量が少ないのが名残惜しい。

 そんな私の様子を見て思ったのか、シード卿は次の料理を店員さんに催促してくれる。


「こちらは『アクアコンソメスープ』に『キャベトマサラダ』、『ケイコクタイのムニエル』と『マンモストロガノフ』でございます。この後にもメインディッシュが控えておりますが、今はこちらをお楽しみください」

「ふああぁ……! す、凄い料理がたくさん……! 本当に食べていいの……!?」

「遠慮なんかいらねえよ。俺も男として、惚れた女の笑顔は見てえからさ」

【キザったらしいセリフを吐く貴族様なことだ……】


 続々運ばれてくるのは、見たこともない料理の数々。スープにサラダにお魚、お肉まである。栄養バランスも素晴らしい。

 どれもこれも前菜に負けず劣らずの豪華な見栄え。本当に食べるのがもったいなく感じる。


「ん~~! どれも美味しい! シード卿、わざわざドレスを着せて店に入れてくれてありがとう。お金は後でしっかり払う。いくらぐらい?」

「いや、金は要らねえよ。これは俺がミラリアに惚れた弱みってやつだ。勘定は任せておけ」

「そうはいかない。ヒトメボレだかコイゴコロだか知らないけど、こっちがお世話になりっぱなしは嫌。お金は払う。それが私の流儀」


 フルコースというのは素晴らしい。ドレスコードとやらが難儀だったけど、そのためのドレスを用意してくれたシード卿には感謝しよう。

 でも、金はキチンと払う。与えられてばかりはいけない。そうなればディストール王国で浮かれてた時と同じになっちゃう。

 人間関係は距離感が大事。その距離感を保つのが礼儀なんだと思う。ポートファイブでペイパー警部やランさんに助けたり助けられたりしたのと同じだ。


「へぇ……世間知らずかと思ったが、そういう礼節は重んじるのか。ますます気に入ったな。ならその代わり、俺ともっと話をしてくれないか?」

【……ミラリア、注意しておけ。このシード卿とかいうスカした貴族だが、お前を狙ってるのは一目瞭然だ。どうにも気に食わん】

「ツギル兄ちゃん、さっきからどうしてそんなにシード卿にキツく当たるの? そういうのは良くない。それにカムアーチの貴族ってことは、何か詳しいことを知ってるかもしれない。話題にするのはいい機会」

「おや? 俺に何か聞きたいことがあるのか? だったら遠慮せずに話してくれるといいさ」


 フルコースを味わいながらも話は進み、シード卿は優しい眼で私の気持ちを汲みながら物を尋ねてくる。

 ちょくちょくツギル兄ちゃんの小言が割り込むけど、別に理由があるなら変に疑う方が失礼。

 シード卿が私を思っての行動なのは伺えるし、そこに悪意も感じない。何より、これは丁度いい機会とも言える。


 貴族というからには、シード卿はカムアーチの情報に詳しいと見える。

 ならば、楽園に関する話も何か知っていて――




「おやおや、シード卿? そのように貧相な小娘を侍らせてフルコースとな? 若くて勢いがあっても所詮は下流貴族。吾輩達上流貴族と違い、ある意味似合いの光景ですかな?」

「チィ、アキント卿か。食事中に横やり入れてくんなよ……」

「むう? さっきお店の前で会った人?」

ミラリアは恋心が分からぬ……というか、恋すら知らぬ。

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