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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
127/503

その貴族、冒険者の少女を招く

シードがミラリアを招いた理由は実に単純である。

「さあ、君はそっちに腰かけてくれ。作法だ何だもある店だが、特に気にしなくても構わねえよ」

「むう~……分かった」


 結局のところ、シード卿に案内された私はそのまま店内にある一つのテーブルまでやって来た。結構大きなテーブルだけど、座るのは私と向かいあったシード卿だけ。

 慣れないドレス姿だけど、周囲のお客さん達も同じように着飾ってるのが見える。これがドレスコードというものなのだろう。確かにいつもの服装のままだと浮いてたっぽい。


「そういえば、お互いに自己紹介がまだだったな。俺の名はシード。ここカムアーチの貴族で、周囲からはシード卿と呼ばれてる」

「うん、シード卿。さっきのメイドさん達もそう呼んでた。私の名前はミラリア。貴族でも何でもない、ただの旅人」

「ミラリア……か。いい名前だ。ところで、酒は飲めるのかい?」

「お酒はダメ。でも食べるのは好き」

「そうか。なら、アルコール抜きのフルコースにしよう。この店で一番高級なものを――」


 席に腰かけて少し話をすると、シード卿はトントン拍子で注文を進めていく。初めての店で分かんないからありがたいけど、完全に場の空気に流されるままってのもよろしくない。

 自己紹介もしたんだし、シード卿からもっと詳しい話を聞いてみよう。ここまでお世話になってだけってのも申し訳ないし、何よりさっきの発言が気になる。


「ねえねえ、シード卿。さっき私のことを『女神』なんて呼んでたけど、あれってどういう意味? 女神と言えばエステナ様じゃないの? 私、エステナ様じゃないよ?」

「別に女神エステナのことを指して述べたんじゃねえよ。『女神』というのはあくまで比喩。ミラリアを見た時『俺にとっての女神』を見つけたと思っただけさ」

「シード卿の女神? ……ふにゅっ!?」


 料理を待つまでの間、とりあえずはシード卿とお話はしてみる。だけど、なんだか私にはチンプンカンプンな話に聞こえる。

 私が『シード卿にとっての女神』ってどういうこと? 私は別にエステナ様みたいに祀られてないよ?

 そんな疑問を口にするより早く、シード卿は席を立ちながら突然私のほっぺを優しく掴み上げてくる。

 こっちは椅子に座ったままで、シード卿を見上げるような形。なんだか顔が凄く近い。

 おまけにそのまま口元が近づいてきて――




【や……止めろぉお! ミラリアに手を出すなぁぁあ!!】

「ツ、ツギル兄ちゃん!? 大声出さないで!?」

【す、すまん! だが、流石に俺も声を上げずには……!】




 ――今にもお互いの唇が重なりそうなタイミングで、ツギル兄ちゃんが大声で待ったをかけてきた。

 私もよく分からないまま流されるのは嫌だったし、止めてくれたのはありがたい。でも、いきなりの大声は流石にマズい。

 ツギル兄ちゃんって、自分が魔剣の姿だってことを理解してるのかな? なんだか、前にもこうやって急に声を上げて事態がこんがらがったことがあったような。

 今回にしても、周囲の人達の目線が一気にこっちへ傾いてしまった。みんな食事の最中だったのに、何事かと顔を向けてくる。

 ツギル兄ちゃんの馬鹿。ここからどうやって説明すればいいんだろ?


「ああ、すまない。今のは俺が少し声を上げちまっただけだ。悪い虫がいたもんでな。つい声が大きくなっちまって申し訳ない」


 そんな状況で動いてくれたのは、またしてもシード卿だ。私のほっぺから手を放し、適当に周囲へツギル兄ちゃんの発言を誤魔化してくれる。

 それを聞いた他のお客さんは首を傾げつつも納得し、テーブルへ向き直って食事へ戻っていく。なんとなくだけど、シード卿の発言に力があるような雰囲気だ。


「ここにいるのは俺と同じカムアーチの貴族だが、俺がいる限りは迂闊に事情へ踏み込んでこねえよ。……それより俺が思っていた通り、その剣はただの剣じゃねえんだな。一緒に連れてきて正解だったか」

【なっ……!? お前、俺の正体に気付いてたのか……!?】

「ああ。何かしら『人の気配』ってのはずっと感じてた。だから俺もミラリアと一緒にあんたの同伴を認めたんだ」


 しかも驚くことに、シード卿は魔剣の正体を知って尚も冷静だ。それどころか、最初から見抜いてた節さえある。

 この人、もしかするとただ者じゃないのかも? どこか飄々とした態度だけど、相手を見る目は確かっぽい。


 ――魔剣にツギル兄ちゃんが宿ってることを見抜くなんて、聖女のフューティ姉ちゃんでさえもできなかったことだ。前例なんて、それこそ同じような魔槍さんしかいなかった。あっちはツクモっていう種族らしいけど。


「まあ声は抑えたまま、周囲に気付かれないように話をしようじゃねえか。俺としても『ミラリアの兄』なんて人物とは話がしてえしよ。……当人は鈍くても、兄貴さんの方はもうとっくに俺の想いに気付いてんだろ?」

【う、ぐうぅ……!? こ、こっちが強く出られないからって……! こんなことなら、最初に誘われた段階で断るように促すべきだったか……!?】


 しかもコッソリ二人で話を続けてるけど、これまた私は置いてけぼり。話の渦中にいるはずなのに理解不能。

 ツギル兄ちゃんも内容は分かってるのに、シード卿には手も足も出ないって口ぶりだ。本当に手も足もない魔剣なんだけど。

 でも、いい加減にどういうことなのか教えてほしい。私が女神だとか言われても意味分かんない。


 ――そんな気持ちが顔に出てたのか、シード卿は自らの席に座り直してこっちの眼をしっかり見つめ、改めて言葉を紡いでくる。




「要するに、俺はミラリアに一目惚れしたってことだ。だから思わず声をかけ、こうして食事の場に招いたのさ。……是非とも俺と交友を深め、お互いのことを理解したい」

ここからラブコメに発展するのか否か。

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