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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
橋上の歓楽都市にて邂逅するあの日
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その少女、お金持ちになる

お金がたくさん入ったので、豪勢なご飯を食べよう。

「……ツギル兄ちゃん。これっていくらぐらいなの? ご飯何食分?」

【お、俺よりミラリアの方が外の世界の金銭事情には詳しいだろ? 一応はディストールに一ヶ月間いたんだし】

「でも、こんな額は初めて。フューティ姉ちゃんにもらったお小遣いより多い」


 ギルドでのアイテム換金は無事終了。それはいいんだけど、ちょっと予想外過ぎて戸惑う事態が発生。

 引き取ってもらった巨大蛇はダーコンダというレアな魔物だったらしく、その換金額もまさに破格。後で聞いた話によると、お肉も大層高価で珍味だったそうな。

 それを知っていれば、無理に食べきろうとしたり保存食にするより、新鮮なまま頂くべきだった。もう遅い話だけど。


「だけど、おかげでお金はたくさん手に入った。カムアーチにはお店もたくさんある。せっかくだし、今日は豪勢な夕飯にしよう」

【あんまり無駄遣いするな……とも言いにくい金額だからな。まあ持ち腐れも良くないし、最近はミラリアも野営ばっかりだった。たまにはそういう食事もいいだろう】


 とはいえ、これは正当な報酬というもの。私自身で稼いだお金なのだから、私の意志で使って問題ない。

 ともかくまずはご飯だ。いくらラディシュ草での保存や食べられる野草の選別ができるようになっても、キチンと料理したご飯を食べたいのが人の性。

 正直、額が大きすぎて持ち歩くのも重い。いくらポーチの魔法で持ち歩きやすくなっても、流石に限度がある。いくらかここで消費しないと不便だ。

 よって、本日のご飯は豪華なお店でとるものとする。実に合理的な判断と言えよう。


「むう~……食べ物のお店もたくさんある。初めて見る食べ物もいっぱい。でも、多すぎて悩む」

【ポートファイブのタツタ揚げみたいな料理もあるな。他にも『ラーメン』だとか『カレー』だとか、どれもこれも真新しいから内容が分からん……】

「むう~! どこの店も美味しい匂いを出してる! 選べない! ズルい!」

【いや、そこで癇癪起こすなよ? どうせだったら、いろんな料理を食べられる店の方がいいんだろうが……】


 ギルドの外に出てお店探しに出向いたものの、どこもかしこもネオンというキラキラに飾られながら、美味しそうな匂いを漂わせるせいで選ぶのに困ってしまう。

 贅沢な悩みだけど、この町は全体的に主張が激しいのがいけない。エスカぺ村の自然に囲まれた生活とは大違いだ。

 人の活気も凄まじく、私なんかは歩くだけで気圧されてしまう。恐るべし、歓楽都市カムアーチ。


「むうぅ!? あのお店、興味ある!」

【え? 前方にあるあの店か? なんだか、他の店よりも大きくて豪華なたたずまいだな……】


 色々悩んで悩みまくった結果、私の目に留まったのは一際大きな食べ物のお店。なんだか、このお店だけ空気が違うっぽい。

 他のお店は人が並んでたりもするのに、ここは並んでる様子がない。かといって、人気がないわけでもない。

 お店の前で礼儀正しく店員さんが案内してるし、入る人も一際気品を感じる身なりをしてる。看板をチラリと眺めてみれば、他のお店よりも結構な金額だ。


【成程。どうやらこの店は高級店らしく、普通の人では立ち入れないってところか。値段も他の店より数段高いな】

「でも、今の私に出せない金額じゃない。それにこの料理……フルコース? いろんな料理が味わえるんだって。これ、食べてみたい」

【なら決まりだな。いくら贅沢すると言っても、また栄養が偏るのはいただけない。このフルコースとやらなら、肉もサラダも味わえるらしい。健康的にも問題ないだろう】


 とはいえ、どうせだったら豪華なご飯としたい。ツギル兄ちゃんも賛成してくれたし、早速入ってご飯にしよう。

 お金はかかっても、いろんな料理が味わえるのなら是非とも味わって――




「お客様、申し訳ございません。その服装では当店のドレスコードに反します。どうかお引き取り願います」

「ふえ? ド、ドレスコード?」




 ――みようとしたら、お店の入口で整った服装をした店員さんに止められた。

 『ドレスコード』って何? 何かのおまじない? それともアイテム?


「私、ドレスコードなんて知らない。それって何?」

「ドレスコードとは、格式ある場に相応しい服装のことを言います。当店はカムアーチにおける貴族御用達の高級レストランであり、服装にもこだわり抜いた紳士淑女のみが入店できます。残念ながらお客様の『いかにも冒険者』といった服装ではドレスコードが合いません」


 よく分かんないけど、とりあえず『私の服装がダメ』ってことなのは分かった。でも、そんなにダメな格好なのかな?

 他の冒険者さんとも遜色ないし、これでも道中で洗濯はしてる。ツギル兄ちゃんが『不潔はダメ』ってうるさいから、水浴びや体拭きだってして清潔を意識してる。

 確かに普通に生活してる人と比べられると困るけど、酷い人はもっと汚い。自己評価ではかなりマシなレベルと言えよう。


「私、これと同じような服しか持ってない。ドスコイモードとやらもこれが限界。でも、ご飯は食べたい。お金はある」

「『ドスコイモード』ではなく『ドレスコード』なのですがね……。いずれにせよ、当店には決まりがあります。お金があってもダメなものはダメです。……あっ、アキント卿ですか。少々立て込んでおりますが、どうぞ先にお入りください」


 私のことは入り口で止めるのに、他のお客さんが来るとすぐに店の中へ通してしまう。ただ、確かに服装が私とは大きく違う。

 冒険者の質素かつ汚れてもいい身なりと違い、ディストールのお偉いさんも着てたスーツやドレスといった服装だ。つまり、これがドレスコードということだろうか?


 ――でも、私はドレスなんか持ってない。こんなことでご飯が食べられないなんて理不尽だ。


【な、なあ、ミラリア。俺も知らなかったが、ここは退き返した方が良さそうだぞ?】

「そ、そんなこと言ったって……う、うえぇ……!」

【や、止めろ! こんなところで泣こうとするな! 人目に付くぞ!?】


 ツギル兄ちゃんも小声で申し訳なさそうに言ってくるけど、ご飯に関しては簡単に引き返せない。そんなに高級なお店ならば、なおのこと食べたくなってくる。

 凄く悔しい。たかが服装で食べられないのが辛い。ワニ肉の時のように、また泣きたくなって――




「すまないが、彼女のことは俺が面倒を見よう。文句はねえよな?」

「シ、シード卿!? も、もちろんですとも!」




 ――そんな時、私の後ろから高貴な身なりをした男の人が割り込んできた。

よりにもよってそんな場所を選んじゃったか。

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