{スアリとユーメイトのその後}
章末の三人称シーン。
今回はスアリとユーメイト(&魔槍)のその後。
◇ ◇ ◇
「……ミラリア様は旅立たれましたか。本当にあのまま見送ってよろしかったのですか?」
【今は確か……スアリ殿であったか。我もその方とゼロラージャ様の関係は聞き及んでおる。かの少女が心配ではないのか?】
「……心配に決まってる。俺はあの子をこの旅に巻き込んだ張本人だ。だが、俺が一緒にいるとあの子の成長は阻害される。……何より、もう過剰に手を差し出す意味は薄い。こうしてその姿を見ることで確認できた」
ミラリアとツギルが去った後、ユーメイトと魔槍はスアリと再度合流していた。知人同士として語らいの場の意味もあるが、それはただ世間話をするためではない。
今回の一件において、お互いの事情を確認する意図も含まれている。
「ハァ……難儀な客人です。わざわざ代理人形を遠隔操作してまで、ミラリア様達と接触したかったのでしょう? 私から言わせれば、素直に接してあげれば良いのではないでしょうか?」
「生憎、俺の本体も今はゼロラージャの傍から動けん。正直、あまり先も永くない」
「ですが、ミラリア様の願いは『楽園に行く』ことと言うよりは『母親に会う』ことにあるのでしょう? 役割だのしがらみだのは一度忘れ、まずは再会を優先すれば良いのでは? 時間がないなら尚更です」
「そうすれば俺の――いや、エスカぺ村やゼロラージャを始めとした者どもの気持ちを無下にする。……あの子は希望だ。この世界にとって、本当の未来を見極めるためのな。そのためにも『純粋な人間としての経験』が必要になってくる」
ミラリアがいなくなったことで、その場にいる者達の会話にも隠し事は消えていく。
その中でわずかに語られるスアリの正体、ミラリアに楽園を目指す旅を与えた目的。ユーメイトや魔槍も多くは聞き返さず、言葉の端で事情を理解する。
――そうせざるを得ないとも言える。ここで話す者達にとって、ミラリアの存在はあまりに大きく特別な意味を持つ。
【ならば、スアリ殿よ。かの魔剣が自らの正体に気付くことも伏せたままとするか? あの魂は我と同じ――】
「ツギルのことも触れてやるな。あの子とて、ずっと『ミラリアの兄という人間』として育ててきた。俺としてもそれが真実となるように育てた。……もしかすると、本人は口で否定しつつも気付いてるのかもしれぬがな」
秘密はミラリアだけでなく、魔剣となったツギルにも眠っている。当人達の知らぬところで、秘密を握る者達はいる。
だが、決してそのことを本人達に告げようとはしない。願うことはミラリア達が『真実を聞く』ことに非ず。
――自らの手で『真実に辿り着く』ことにあり。その過程での経験もまた、この者達の願いである。
「まあ、私もこうして元に戻れたならば、ゼロラージャ様の命令を優先しましょう。私はタタラエッジへ向かい、ゼロラージャ様と合流するように言われてます。あなた様はミラリア様と同じくカムアーチへ? こちらも正体がバレた以上、追跡は困難となりました。もうこれまでのように情報提供役を担うことはできません」
「いや、俺は一度様子見だ。今のミラリアに余計な手出しは必要ない」
「ですが、カムアーチには例の『女神の片割れ』がいると聞いてますが? 私はてっきり、あなた様が代わりにそちらへ向かうと思ってたのですが?」
「だとしてもだ。何より、ミラリアが相対する必要性を考えれば、下手な関与は避けるべきだ」
その後の段取りを決める中でも、中心にいるのはミラリアの存在。さらに語られるは、魔王と呼ばれしゼロラージャや女神との関与。
この世界の人間でさえも多くを知りえない事実を、スアリやユーメイト達は握っている。だが、それは独占といった我欲から来るものではない。
限られた時間と手段の中で、成し遂げるべき役目が存在する。その者達の目に映るのは、まだ誰も知りえない大局と言えるもの。
――そして、ミラリアがこの先でで出会う存在についても、わずかながらも口にする。
「封怨魂ゼアレド・エゴ……同じ片割れ同士が相まみえるのも、運命なのかもしれぬな」
◇ ◇ ◇
今回はあと一話、別場面での描写を交えます。




