そのメイド、少女の傍にいた
冥途将なメイドの裏に隠された目的とは?
「そ、それはこちらも闇瘴を追う中で、偶然出くわしただけでして……」
【本当にそうですか? 少なくとも、ディストール王国に闇瘴はなかったはずですよね? ……なのにわざわざ、ミラリアの傍に仕えてまでいた。俺にはどうしても、ユーメイトさんが『ミラリアを追って様子を伺ってた』ようにしか見えないのですが?】
ツギル兄ちゃんがもう一つ聞きたかったこととは、ユーメイトさんが度々私の周囲に姿を見せてた件について。思い返してみれば、そこは私も気になる。
エスターシャの時は確かに闇瘴が発生してたし、聖女として闇瘴に立ち向かってたフューティ姉ちゃんの傍にいるのも合理的。いち早く発生した闇瘴を見つけることができる。
だけど、ディストールの時はどうなんだろ? あの時は闇瘴の存在なんて私も知らなかった。だって、一度も発生してなかったもん。
それなのに私の傍で眼鏡メイドさんとして仕えてくれて、エスターシャにもフューティ姉ちゃんと一緒にやって来てくれた。
なんだか、裏があるように感じずにはいられない。ユーメイトさんもどこか返答に困ってる様子だ。
「ツギル、ミラリア。その辺にしておけ。下手に問い詰めたところで、ユーメイトも魔王軍最高幹部に位置する者だ。口を割ることはないだろう」
「あっ、スアリさん……」
私も前のめりになって話を聞こうとしてると、洞窟の入口で足止めしてくれてたスアリさんがやって来た。心配だったけど、特に怪我をした様子もない。
息も切らしてないし、全然余裕そうに見える。まさか、本当に一人であの場の魔王軍を全部相手にしたってこと? 凄すぎる。
「あなたは……そうですか。わざわざミラリア様がここへ来てくださった裏には、あなたがそうやって代理を用意したからでしたか」
「余計なことは言うな、ユーメイト。今はお前が無事だったことが何よりだろう。俺とて、世話になってる身として助けは入れたかったんだ。今はそれだけ受け入れろ」
「ええ、感謝いたします。……それにしても、あなたが魔王軍の相手をしたとなれば、かなりの人数がやられてしまいましたか。戦って死ぬことが魔王軍の誉と言えど、あまり同胞を失いたくはないのですがね」
「安心しろ。殺すことまではしていない。ミラリアの意志を尊重した」
「なんとそれは……。いえ、私も迂闊な発言は控えましょうか。ゼロラージャ様の意志にも反しますので。被害を抑えられたのならば、それに越したことはありません」
そして、スアリさんとユーメイトさんの間で繰り広げられる会話。やっぱり、この二人って知り合い同士だったんだ。
話の内容が私にはチンプンカンプンだけど、お互いのことが分かってるような雰囲気に見える。
ここは私も余計な発言は控えよう。ユーメイトさんもやってるように、これこそが大人の対応だ。
「……それにしても、どうしてミラリア様は『魔王軍を殺さない』と考えられたのですか? 魔王軍にとっては戦うことこそ本能。ここへ至る道中とて、決して生半可なものではなかったでしょう?」
「確かに厳しかった。でも、私の目的はユーメイトさんを助けることだった。魔王軍を倒すことじゃない。結果として、魔王軍を倒さなかったのは正解。助ける人の仲間を傷つけてたら、ユーメイトさんだって悲しかったはず」
「……なんとも、普通の人間とは違いながらも、ある意味で人間的な考え方ですね。あの方々が目を付けただけのことはあります」
ただ、ユーメイトさんはスアリさんの話を聞くと、不思議そうに私へ尋ねてくる。別に私はそう思ったからそうしただけだし、不思議な話だとは思ってない。
いくら人間と魔王軍が戦ってたとしても、私が直接何かをされたわけではない。話に聞いたことがあるだけ。
なのに無闇に命を奪うのはただの殺戮で暴力。そんなことをしたら、スペリアス様の教えにも背いてしまう。
【……ユーメイト様。もしやこの少女こそが、魔王ゼロラージャ様も述べられるエステナの――】
「あなたもこれ以上の発言は控えてください。私にも語る権限はありません。……そちらにいる二刀の剣士様も良しとは思わないでしょう」
【も、申し訳ございませぬ……】
でも、気になることは別にある。魔槍さんも少し話に入ったけど、ユーメイトさんがそれを制してるのも気になる。
なんだろうか? 何かが引っかかる。それが何かは自分でも分からないけど。
「……ミラリア様。此度の一件、私が魔王軍の冥途将であろうとも、助けていただいた事実は変わりありません。私も多くを語れぬ立場ではありますが、この感謝の意だけは明確に述べさせていただきます」
「う、うん。私もユーメイトさんにはお世話になった。助けられてよかった」
ユーメイトさんも魔槍さんも、それ以上のことは語ってくれなかった。
それでも魔槍さんを地面に置いて、私の前で膝をつくユーメイトさん。敬意を払うその姿には、かつて私のお世話をしてくれた光景も重なる。
今は角や尻尾が生えてるけど、この人が私のお世話をしてくれたのは事実。人間だとか魔王軍だとかは関係ない。
こうやってお話ができるのならば、争うようなことだってしたくない。お互いの気持ちを話せるのが一番だ。
「一つだけ私から申し上げられるならば、あなた様の旅は必ずや価値のあるものとなるでしょう。私の魔槍と同じく、ミラリア様にはツクモを宿す魔剣があります。それもまた、楽園への道標となるはずです」
【だ、だから、俺はツクモとかじゃなくて元々は人間なんですが……?】
「……そうでしたか。失礼しました。いずれにせよ、少しずつでも楽園には近づいているのでしょう。私も今はただ、今後の旅のご無事だけ祈らせていただきます」
ユーメイトさんも私の旅の目的は知ってるし、応援もしてくれてる。そういうのはありがたい。ツギル兄ちゃんのツクモ扱い以外は。
ただ、それらの様子を見てるとやっぱり引っかかるものがある。それはユーメイトさんだけに限った話ではない。
――スアリさんにしてもユーメイトさんにしても、どこか私のことを『別の角度で知ってる』って気がする。
この二人、ただ偶然の中でミラリアと接触したわけではない。




