◆冥途将ユーメイトⅡ
主を救うため、魔槍も死力を尽くす。
【い、一瞬止めるのが限界――ウグァ!?】
「エエイ! 主ノ私ニ逆ラウナァ!」
わずか。本当にわずかな間だったけど、魔槍さんが意識を取り戻してユーメイトさんの動きを止めてくれた。
ツクモだか何だか知らないけど、魔槍さんだってユーメイトさんがこのままなのは良しとしてない。だからこそ、私に願いを託して扉を開けてくれた。
「……やるしかない。十分な時間はできた」
【ああ。今はただ前だけ見てろ。余計な雑念は払え】
眼鏡メイドさんが魔王軍の最高幹部だったこと。魔槍さんやツクモといった存在。スアリさんとの関係性。
疑問はたくさんあっても、今考えることじゃない。まず必要なのは、眼前のユーメイトさんを助けること。そのために一度は斬り倒すこと。
――必要な準備は揃った。魔槍さんが時間を稼いでくれたおかげだ。
「ウンガァァァアア!!」
「まだ襲ってくるみたいだけど……もうここまで」
魔剣を納刀したまま眼前で構える反衝理閃の構え。刀身にはすでに聖閃付与がされ、聖天理閃との合わせ技を放つ準備はできてる。
ユーメイトさんの攻撃は相変わらず単調で直線的。どれだけのパワーとスピードを合わせても、テクニックが杜撰と言わざるを得ない。
――ならば、私にだって読み切れる。
「反衝理閃!」
ガッ――シュバァンッッ!!
「ンガァ……!? バ、馬鹿ナ……!?」
劣るパワーもスピードも、テクニックで補った一閃。完全に決まった。
ユーメイトさんの動きも完全に止まり、持っていた魔槍を手離して崩れ落ちる。姿を確認すれば、体から闇瘴が抜け落ちていくのも見える。
ユーメイトさん自身に息はあるし、そこは流石の魔王軍最高幹部。トラキロさんほど硬くなくても、並の耐久力ではない。
こっちも手加減する余裕なんかなかったし、しなくて正解だった。
「グウゥ……マ、マダ……!」
【くうぅ……! ひ、ひとまずは止まってくださったか……! 少女よ! 今のうちにマナの聖水を頼む!】
「分かってる。ユーメイトさん、もう少しだけ辛抱して」
でも、完全に闇瘴が抜けきったわけではない。さっきの一閃を受けても、ユーメイトさんは再度立ち上がろうとしてくる。
私の目的はこの人を倒すことではなく、助けること。意識を取り戻した魔槍さんの呼び声を聞き、すぐさまポーチからマナの聖水を出して振りかける。
話の通りなら、これでユーメイトさんも完全に元通りのはずだ。
「う……ううぅ……」
「ユ、ユーメイトさん? どうしたの? まだ苦しいの?」
【まさか、魔王軍だからマナの聖水の効きが弱いのか?】
【いや、そんなはずはない。これはおそらく、闇瘴に蝕まれたことで体力が衰えているのだ。闇瘴自体は抜けたようだが、このままにすることも……】
期待を込めてマナの聖水を使うも、ユーメイトさんは弱った声を上げて意識を取り戻すまでには至らない。どうにも、闇瘴で奪われた体力までは戻らないみたい。
このままじゃダメ。目的は闇瘴を体から抜くだけでなく、ユーメイトさん自身が元気になること。スアリさんとの約束も違えてしまう。
何か体力を戻す方法が――
「そ、そうだ! スアリさんに教えてもらった野草! あれを食べれば元気になるかも!」
――ないかと考えてたら、丁度いいものもポーチの中に入れてるんだった。思い出した。
スアリさんに教えてもらった薬草を始めた野草の類。事前にいくらか集めてもいたし、量も種類もたくさんある。
これらには栄養もあるし、元気を取り戻すにはもってこい。こんなところでもスアリさんの知識が役に立つ。
「……でも、どれを食べさせればいいんだろ?」
【とりあえず、薬草は必要だろうな。後はレバ花といった貧血対策の――】
「もう面倒! 考えてる場合でもない! ユーメイトさん、全部食べて!」
【お、おい!? ミラリア!?】
なお、どれを食べさせればいいのかは選べなかった。種類が多いし、変に選んでる場合でもない。
こうなったら、全部食べさせるのが一番。どれも食べられるものだし、食べることは元気に繋がる。
「えーっと……レバ花に薬草系に……そ、そうだ! ラディシュ草も食べさせよう! お肉の保存効果があるなら、きっと解毒にも効果がある!」
「もが!? もががが!?」
【に、人間の少女よ!? 主を助けようとしてくれてるのは分かるが、無理に草を口に突っ込むでない! これ、止めぬか!?】
持ってる野草を片っ端からユーメイトさんの口に突っ込み、私の手で顎を動かしてカミカミさせる。体力がない分は私がカバーする。
魔槍さんがうるさいけど、これは必要なこと。ユーメイトさんもなんだか苦しそうだけど、これもまた仕方ない。
私も昔、風邪で倒れた時は無理にでも食べさせられた。今のユーメイトさんに必要なのは、生きるために無理にでも食べること。
後はこのままゴックンしてくれれば、きっと元気に――
「か……辛ぁぁぁあい!? な、何が口に!? は、鼻がツンとしますよ!? ゲホッ!? ゲホッ!?」
「よ、よかった! 意識が戻った!」
――なってくれた。ただ、どちらかという『飛び起きた』って感じ。
激しく咳込みながら、頭や鼻を押さえて涙目になってる。色々と野草を混ぜ込みすぎたかも。でも、意識が戻ったから良しとしよう。
「ハァ、ハァ……! し、死ぬかと思いました……!」
「そんなに闇瘴で苦しかったんだ。元に戻ってよかった」
「どちらかといえば、ミラリア様が私の口に色々と突っ込んだせいで――いえ、止めておきましょう。私も朧気ですが、ミラリア様が私のために戦ってくださったことは覚えています。まずはそのことに感謝しましょう」
少し顔をしかめながらだけど、ユーメイトさんも感謝の言葉を述べてくれる。
本当によかった。これでユーメイトさんにもしものことがあったら、私はスアリさんに申し訳が立たない。
ここまで頑張ったのに、お世話になった人のためになれないのは嫌。ユーメイトさんにも眼鏡メイドさんの時にお世話になってたし、万々歳の結末だ。
【……あの、俺としてはこうして落ち着いた状況で、色々と聞きたいことがあるのですが?】
「……でしょうね。私もこうなった以上、覚悟してお聞きしますか」
でも、ツギル兄ちゃんの反応はどこか渋い。ユーメイトさんだって正気に戻ったばっかりなんだし、あんまり話を大量に持ち出すのはよくないと思う。
とはいえ、気になることがあるのは私も同じ。流れで助ける結果となったけど、聞きたいことは山ほどある。
【ユーメイトさん、あなたは本当に何者なのですか? メイドとしてミラリアの傍にいたのは仮の姿で、魔王軍としてのその姿こそが本性ですよね?】
まあ、そこに行きつくよね。




