その魔槍、主を守る
洞窟の奥で待っているのは、魔王軍の最高幹部。
「め、冥途将ユーメイト……? 魔王軍の最高幹部……?」
【そ、そいつが闇瘴で苦しんでるっていう張本人なのか?】
【ああ、そうだ。我の使い手であるユーメイト様が、この扉の向こうで闇瘴に悩まされている】
ちょっと動揺しつつも確認してみれば、魔槍さんが言ってるのは本当のことらしい。
そもそもの話、この洞窟には魔王軍が集まってる。ならば、それを統率しているリーダーがいてもおかしくない。
ユーメイトさんという人が、ロードレオ海賊団におけるトラキロさんみたいな立場の人なのだろう。
――同時に、ユーメイトさんこそがスアリさんの言ってた『助けてほしい人』ってことだ。
【な、なんで魔王軍の最高幹部が闇瘴に苦しんでるんだよ? 魔王軍の魔物は、闇瘴から生まれるんじゃないのか?】
【我はユーメイト様に仕えるツクモに過ぎぬが故、詳しいことまでは語れない。ただ、いくら魔に与する者どもであろうとも、過剰に闇瘴の影響を受ければその身を蝕む。魔王軍にとっても、闇瘴は毒となりうる脅威なのだ】
ちょっと頭の中がこんがらがるものの、スアリさんの言ってた人がユーメイトさんって魔王軍の幹部なのは理解できた。
ツギル兄ちゃんはまだ不思議がってるけど、私達だって魔王軍とは今回初めて出くわしたんだ。実際の事情だって、今こうして魔槍さんに教えてもらえたから分かったというもの。
「でも、どうしてそのユーメイトさんって幹部の人は、この扉の向こうにいるの? 一人でいるの?」
【ユーメイト様は現在、高濃度の闇瘴にその身を汚染されている。魔王軍として多忙な中での闇瘴調査。嫌でもその身に過剰な闇瘴が蓄積されてしまう。今はお一人で症状が収まるまでの間、自らを監禁しておられる。我はこの場にて、他者が介入できぬよう守りを任された次第だ】
【闇瘴調査って……魔王軍のやることは人間には理解できないな。にしても、魔王軍の最高幹部でも汚染される闇瘴ってのはますます脅威だな】
なんで魔王軍が闇瘴の調査をしてるのかは、私にも分かんない。自分達にとっても毒となるものであっても、何か強くなれる要因があるってことなのかな?
外の世界は人々の生活も不思議だけど、魔物の生体もまた不思議。実に興味深い。
【一応はスアリさんに頼まれてここまで来たが、ここからどうしたものか……? まさか、助けてほしい相手ってのが魔王軍だったとは……】
「むう? 何を悩んでるの? 別に悩む必要なんかない」
【え? それこそどういう意味だよ?】
まあ、細かい話は後にしよう。今は目下の課題が最優先。考察なんて後でもできる。
ツギル兄ちゃんは何故か悩んでるけど、この場で何か話が変わるわけでもない。
「魔槍さん。この扉の向こうに行かせて。私達、そのユーメイトさんって人を助けに来た」
【……って、おい!? 話聞いてたか!? この奥にいるのは魔王軍の幹部だぞ!?】
スアリさんの知り合いが魔王軍の幹部だったことに驚きはすれど、助ける対象であることは変わらない。
一人で閉じこもって耐えてるぐらいだから、よっぽど苦しいに違いない。マナの聖水を使って早く助けてあげないと。
【……その方は人間であろう? ツクモを従えているとはいえ、ユーメイト様のような魔王軍に非ず。なのに『助けたい』などと申すのか?】
【そ、そうだぞ! 魔王軍は人間の敵だぞ!? それを助けるつもりなのか!? ……敵にまで同じように言われてるし】
それなのに、どうしてか魔槍さんやツギル兄ちゃんの反応は渋い。槍と刀に揃って反論されるなんて、なんだかシュールな光景。
とはいえ、私は別に間違ったことを言ってるとは思わない。この件に関しては『私が正しい』と胸を張って言える。お胸は小さいけど。
「魔王軍の幹部だけど、それ以上にスアリさんの知り合い。私はスアリさんに『知り合いを闇瘴から助けてほしい』と頼まれた。スアリさんには私もお世話になってるから、その頼みごとを聞き入れたい。相手が魔王軍だとかは関係ない」
【そのスアリという人物についても、我は与り知らぬところだ。ユーメイト様に人間の知り合いがいるとでも?】
「いるんじゃないかな? 誰にだって、他者の知らない交流はあると思う」
【まあ……確かに我とて、ユーメイト様の行動を全て把握しているわけではない。特に最近は武器を使うことのない任務にも向かっておられたが……】
まだ会ったことはないけど、ユーメイトさんがスアリさんの助けたい知り合いなのは事実。だったら、迷うことなんて何もない。
魔王軍だとか最高幹部だとか言われたって、世間や人間がどう関わってるのかなんて知らない。そもそも気にする話でもない。
大事なのは『ユーメイトさんがスアリさんの知り合い』で『闇瘴に苦しんでる』ってことのみ。お願いされた内容を今更変えることはしたくない。
それに、種族が違っても交友があることも不思議ではない。私だってエスカぺ村ではウサギさんと森で仲良くしてたことがあった。
このことはスペリアス様やツギル兄ちゃんといった村のみんなも知らなかった。狩りしてる時にたまたま仲良くなって、特に説明する必要もないと思ってた。
――ただそのせいで、そのウサギさんをうっかりスペリアス様が狩ってしまったことがある。私も言ってなかったとはいえ、悲しかった。
あの時は流石のスペリアス様も『すまぬことをした……』と半端なく申し訳なさそうだったのを覚えてる。
【……よかろう。こちらとて、ユーメイト様を救えるならば願ってもない話だ。今から扉を開く故、覚悟して待ち構えよ】
【ほ、本当にミラリアの言う通りにするつもりなのか……? い、いや、それより『覚悟して』ってのはどういうことだ?】
【この奥にいるユーメイト様は闇瘴の影響により、非常に狂暴となっている。扉を開くと同時に我を握り、その方らに襲い掛かるであろう。治療するより前に、まずはユーメイト様を力づくで止めてくれ】
【いいぃ!? 魔王軍の最高幹部と戦えってのか!?】
そうして説明すると、魔槍さんもようやくこっちの言葉を認めてくれた。相手が魔王軍であろうとも、やっぱり説明は大事。
でも、単純に治療して終わりじゃないみたい。ツギル兄ちゃんもやかましく反応する。
「こっちだって、危険は覚悟でここまで来てる。私だって剣術には自信がある。少し痛い目を見せちゃうけど、それでいいんだよね?」
【無論。何より、ユーメイト様の実力は絶大。我も今のユーメイト様に握られれば、精神の権限をユーメイト様に奪われる。……ここから先は死闘となるぞ? 本当に良いのだな?】
「構わない。だから、早く扉を開けて。早く助けてあげたい」
【承知した。なら、後のことは頼んだぞ】
魔槍さんの話を聞くと、ユーメイトさんって人はかなり危険な状況と思われる。これは急いだ方がいい。
ここから先は一度、魔王軍最高幹部であるユーメイトさんと戦わないといけない。向こうに魔槍があったとしても、こっちにだって魔剣ツギルニーチャンがある。
――ここは退いちゃいけない。相手が誰でも、助けるって心に決めた。
ギギギギィ……!
「ウグゥ……!? ナ、何故扉ヲ……?」
重い音を響かせながら、ゆっくり扉が開かれていく。こっちも腰を落とし、いつでも戦える準備は万全だ。
奥から苦しそうな声も聞こえてくるし、角が生えた人の姿も見えてくる。見た目的には多少の差異はあるけど、かなり人間に近いっぽい。白黒ドレスを着た女の人だ。
おそらく、この人がユーメイトさんで――
「ヨ、ヨリニモヨッテ……ミラリア様ガココニ……!?」
【なっ!? あ、あなたは……!?】
「め、眼鏡メイドさん……!?」
眼鏡メイドこと魔王軍冥途将ユーメイト。闇瘴に蝕まれながら出撃。




