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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
魔の街道と追憶の出会い
114/503

◇闇瘴洞窟魔王軍交戦Ⅱ

魔王軍を突破して、助けるべき者を救うため。

「キキッ! コシャクナニンゲン!」

「カズ、マダマダイル! ドンドンイケ!」


 洞窟の入口からもかなり離れつつも、私と魔王軍の戦いはまだまだ続く。スアリさんの足止めのおかげで後方から敵は来ないけど、前方の敵は想像以上の数だ。

 魔王軍って、こんなにたくさんいたんだ。ディストール王国の騎士団より大規模かも。


「こ、これだけ数が多いと、流石に私も疲れてくる……!」

【まだ奥には闇瘴だってあるんだ。その始末を考えると、これ以上の消耗は避けるべきか】


 一体一体の実力ならば私の方が上。多少数が増えても返り討ちにできる。

 とはいえ、ここまでの数が何度も波状攻撃してくると話は別。やっぱり、一人でできることには限りがある。全員を相手にはしてられない。


【ミラリア、頭上の高台が見えるか? どうにも、あの奥から闇瘴の気配がする】

「あのちょっと高いところ? あそこに行けばいいんだ」

【ああ。これ以上、ここで魔王軍の相手をするのはジリ貧だ。逃げることだって重要だろ?】


 だからこそ、必要になってくるのは正面とは違う道。ここまでは真っ向から勝負して、居合で魔王軍をダウンさせ続けてきた。でも、目的を間違えてはいけない。

 私の目的はこの先にいるスアリさんの知り合いを闇瘴から助けること。魔王軍を倒すことじゃない。

 こうやって魔剣でビリビリ痺れさせてるのも、あくまで手段に過ぎない。


 ――『目的と手段を間違ってはいけない』ってことは、スペリアス様からもよく教わった。


「ごめんだけど、もう相手はしてられない。ちょっと上へ失礼する」



 キンッ――ヒュン!



「ト、トンダ!?」

「ナンダ、アノコムスメ!?」


 方針が決まれば後は実行。戦闘中だと、転移魔法は集中力を使うせいで不向き。飛んで向かえる場所ならば、揚力魔法陣を踏み台にするのが一番だ。こっちの方が即座に繰り出せる。

 居合と共に魔法陣を展開し、あれよあれよと高所へひとっ飛び。迫って来てた魔王軍もここまでは追って来れないらしく、あたふたしながら道を引き返し始める。


「よかった。これなら一安心。ちょっと疲れたし、スアリさんに教えてもらった薬草でも摘まんでよう」

【闇瘴の気配自体はかなり近いからな。しっかり準備しておけ】


 少し息抜きもできそうだし、今のうちに体調は万全にしておこう。ここのところ食の不摂生や闇瘴による毒素で倒れてばかり。そう何度も醜態は晒したくない。

 それにしても、ツギル兄ちゃんは気配といったものには敏感だ。人間だったころから敏感だったけど、魔剣になってからはより一層際立ってる気がする。

 多分、人間の体でなくなった分、別の感性が鋭くなったのだろう。闇瘴も探れるなんて、実に便利で魔剣な兄である。


「ツギル兄ちゃん、後どれぐらい?」

【そのまま真っ直ぐ進め。今のところ魔王軍が迫ってる気配もないし、これなら邪魔なく闇瘴の対応を――ん? なんだ?】

「むう? どうかしたの?」

【いや……魔王軍じゃないっぽいが、そこの坂を上がった先に誰かいるような……? でもこれ、魔王軍どころか人間でもないぞ?】


 薬草をモキュモキュしながら歩いてると、ツギル兄ちゃんがさらなる気配を感じ取った様子。でも、どこか不思議そうな顔色。顔、ないけど。

 人間でも魔王軍でもないって、どういうことだろう? 闇瘴の影響で以前のサソリみたく、虫が怪物になったとか?

 正体不明なのって怖い。だけど、確かめないことには先へも進めない。

 道はこの坂しかないし、恐る恐る近づいてみれば――




【何奴だ? ここより先は我が主ユーメイト様のおわす場所ぞ。今は何人たりとも立ち入らせぬ】

「ふえ!? や、槍が喋った!?」




 ――そこにあったのは、地面に突き刺さった一本の槍。頑丈そうな扉の前で、まるで立ち塞がるように突き刺さってる。

 何より驚くべきことは、その槍がこちらへ語り掛けてきたってこと。どうして槍なのに喋るんだろう?

 私でも分かる何か強大な力も感じ取れるし、どうにもただの槍ではない。


【誰かと思えば、幼い人間の少女か。だが、不必要に驚くものだ。その方とて、我と同じくツクモを宿した魔剣を持っているではないか?】

「ツ、ツクモ……? それって、あなたの種族?」

【左様。我はこの槍に魂と魔力を宿らせしツクモ。その方が腰に掲げる魔剣と同族である魔槍(まそう)よ】

【……いや、別に俺は『ツクモ』ってわけでは……ない】


 口はないけど、さらにさらにと口を開いてくる魔槍さん。そういえば、ランさんもツギル兄ちゃんを最初見た時、同じことを言ってたっけ。

 でも、ツギル兄ちゃんは『ツクモ』とやらではない。本人だってきちんと否定してる。

 元々はちゃんと人間の姿を持ってたけど、今は御神刀に宿って魔剣になってるだけ。幼い頃からずっと一緒だったお兄ちゃんだ。


【そんなことより、俺達は知り合いからここに闇瘴で苦しんでる人がいると聞いてやって来たんだ。感じられる限り、その扉の向こうから闇瘴の気配がするんだが?】

【ツクモであることを否定しながら、気配に敏感なのはツクモと同じように見えるな。まあ、その方らの察する通りだ。確かにこの扉の向こうには、闇瘴で苦しむ者がいる。……だが、その方らはどこでその話を聞いた?】

「スアリさんって二刀流の剣士さん」

【スアリ? 知らぬ名だな。魔王軍でもないし、どこの誰があのお方の苦しみを察したのだ……?】


 ともあれ、私達の目的は変わらない。そして、やっぱりこの奥に闇瘴で苦しんでる人がいるそうだ。

 でも、なんだか少しおかしな話。魔槍さんと話をしてみると、どこか色々とチグハグな気がする。


 ――そもそもの話、ここに『闇瘴で苦しんでる人がいる』ってことは、魔王軍でないと知らないような語り口だ。


「ねえねえ、魔槍さん。この奥にいるのは誰? どんな人?」


 頭の中で『気になる』って感情が先行してくる。アホ毛もビンビンで興味津々って気分。

 とにかく、今は魔槍さんから話を聞くのが一番。知らないことには、誰を助けるのかも分からない。




【この奥におられ、闇瘴に苦しんでおられるのは我が主だ。誉れ高き魔王軍の最高幹部、冥途将(めいどしょう)ユーメイト様である】

スアリが「助けてほしい」と頼んだのは、魔王軍の最高幹部。

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