その剣士、二刀を振るう
ミラリアを襲われて激おこな二刀流剣士。
「う、狼狽えるな! 剣が二本あっても一人なんだ!」
「残ってる連中で囲いこめ! さっさと始末しろ!」
動けない私の代わりに野盗の相手をしてくれたのは、両手に刀を握ったスアリさん。その表情はどこか怒ってるようにも見える。
今の私では黙って見ていることしかできない。両手の刀で二刀流となったスアリさんは、瞬く間に周囲の野盗へと襲い掛かっていく。
「こ、こいつ!? 強い――グハッ!?」
「ひ、ひいぃ!? なんだ、このオッサン――アガッ!?」
薄れそうな意識の中で見えるのは、スアリさんの圧倒的な剣技。二刀を使って舞うように戦い、次々に野盗を斬り伏せていく。
本当に圧倒的だし、何よりこの動きには見覚えがある。私と同じ縮地も使ってるし、剣閃だって似通ってる。
片方の刀を盾にしつつの連携。あの本で読んだ通りだ。
――理刀流による二刀の技。フューティ姉ちゃんにもらった剣術書にも書かれていた内容が、今目の前で現実に繰り出されている。
「どうした? もう終わりか?」
「か、勘弁してくれ! お、俺達が悪かった! だ、だから……もう見逃して――」
「いや、ならん。この娘に闇瘴を植え付けた仕打ちを考えれば、この程度では足りぬ……!」
それこそ、本当に一瞬にして無双。スアリさんは一人で周囲の野盗を軽々と全員叩きのめしてしまった。私でもここまで素早くはできない。
もしかすると、これが理刀流の源流なのかな? そう思えるぐらいに強い。
ただ、それ以上に憂慮すべきことも出てきてしまう。
「ス、スアリさん……もう止めて……! それ以上したら……野盗さん達が死んじゃう……!」
「何を言ってる? お前は襲われた相手に情けをかけろと言うのか?」
「わ、私……スアリさんに人を殺してほしくない……! だ、だから……もう止めて……お願い……!」
スアリさんの剣技は圧倒的すぎるが故に、斬られた野盗達はもはや虫の息だ。もう抵抗する気力も残ってない。
これ以上の戦いはただの殺戮。そんなことをスアリさんにしてほしくない。
――『野盗が心配』というより『スアリさんが心配』なのが本音。私のことを気遣ってくれた人に、これ以上の暴虐はしてほしくない。
「……チィ! お前達、この小娘の慈悲に感謝しろ。さっさとどこへなりと消えろ」
「あ、ああぁ……! す、すみません……!」
「は、早く行くぞ……! もうあいつらの相手はこりごりだ……!」
野盗達もかなりのダメージこそ受けてるけど、幸い死んではいない。それぞれで肩を組み合いながら、ヨロヨロとこの場を離れていく。
私を襲ってきたことには怒るけど、別にそれで死んでほしいとまでは思わない。エスカぺ村やフューティ姉ちゃんの時に見た光景は、どんな形でももう見たくはない。
「あ、ありがとう……スアリさん……。私のワガママ……聞いてくれて……」
「それより大丈夫か!? 傷を見せろ!」
「や、矢が刺さったところ……変色してる……。これ……かなり苦しい……」
だけど、今度は私自身の方が危険な状況。毒矢の刺さった右腕が黒く変色し、闇瘴が体を蝕んでるのが分かる。
本当にあの時のリーダーさんと同じ状況だ。このままだと、私も死んじゃいそう。
【スアリさん! ミラリアのポーチに聖水の瓶が入ってます! それを使ってください!】
「聖水だと? ……こ、これはマナの聖水か? どうしてこれを持ってる?」
【複製品ですが、効果はあるはずです! それを一本、早くミラリアに!】
そう焦ってたけど、すぐさまツギル兄ちゃんがスアリさんに声をかけ、対策を講じてくれた。
そうだった。ポートファイブで親方さんやトラキロさんに作ってもらったマナの聖水、その複製品をもらってたんだった。
何本かある内の一本をスアリさんが取り出すと、すぐさま私の腕へかけてくれる。黒く変色した部位もすぐに収まってくれる。
――これって、フューティ姉ちゃんのおかげでもあるよね。なんだか、今でも私のことを見守ってくれてる気がする。
「ハァ、ハァ……楽になってきた。ツギル兄ちゃん、スアリさん。ありがとう」
【これを用意してもらってて正解だったか。フューティ様や親方さんには感謝しないとな。……後、一応はロードレオのトラキロにも】
「うん。まあ、あの人もレパス王子みたいに無闇な殺戮者ってわけじゃない。悪い人ではあるけど。後、スッポンポンになる半裸だけど」
【スッポンポンにしたのはミラリアだがな】
一時はどうなることかと思ったけど、こういうところでも人との繋がりの大切さを感じる。これって、ポートファイブでの一件がなければ危ないところだったよね?
あの時に助けたことが、今度は私を助けてくれた。どんな相手であっても、救いの手を差し伸べるのって大事。この件では複製を請け負ってくれたトラキロさんにも感謝してる。
――強いて手を差し伸べたくないほど嫌な人を挙げるなら、レパス王子やリースト司祭か。あの人達だけは流石に許せない。
「……本当にマナの聖水の複製だったのか。まだ何本かポーチに入ってるが、これらはどこで手に入れた?」
「えーっと。まず、マナの聖水はフューティ姉ちゃんって人から――」
私の体調も治まってくると、スアリさんもマナの聖水のことが気になってきたらしい。ちょっと長いけど、そこは頑張って説明。
今の私は別に誤魔化したりする必要もない。胸を張って本当のことを言えばいい。一番隠すべき魔剣のことはとっくに知られてるし、今更スアリさんに隠すこともない。
こういう交流もまた経験。スアリさんも熱心に耳を傾けてくれる。
「……成程な。それにしても、ミラリアは『闇瘴を斬ることもできる』ということか?」
「うん、できる。まだまだ慣れてないけど、理刀流の技で覚えた」
「まさか、あの技を本当に使えるようになったとは……」
「あっ、そうだ。私もスアリさんに聞きたいことがある」
闇瘴の怪物を倒した話もすれば、結構な長話となってしまった。でも、スアリさんは最後まで聞いてくれた。こういうの、なんだか嬉しい。
ただ、話の中で私にも気になることがある。闇瘴を斬れるようになったのは理刀流の技だけど、今までは私やスペリアス様しか使えないと思ってた。
だけど――
「スアリさんも理刀流が使えるの? しかも二刀流で? どこで覚えたの? よかったら教えてほしい」
理刀流の使い手はもう一人いた。




