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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
始まりの村と追及の王国
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その少女、勇者となる

少し時が経ち、ディストール王国で暮らすこととなったミラリアの今。

「ミラリア様、おはようございます」

「ふあぁ……おはよう。今日もよろしく」


 私がディストール王国にやって来てどれぐらい経っただろうか? 日数とか数えてなかった。

 とりあえず、結構な日数は経ってる。私もここでの生活に慣れてきた。

 今日も朝からいつもの如く、メイドと呼ばれる白黒ドレスのお姉さんが私の部屋へとやって来た。

 そこからのこともいつも通り。朝食を用意してくれて、私もそれを頬張る。エスカぺ村では自分で作ってたのに、ここではその必要もない。

 あれやらこれやら、しつこく怒られることもない。


 私が国王様に『勇者』という称号を与えられてから、周囲の人々の反応はさらに変わった。

 私のことを大切に扱ってくれて、身の回りの世話も色々としてくれる。朝食だけでなく、立派な衣装まで用意してくれた。

 何から何まで至れり尽くせり。エスカぺ村での生活が酷く乏しく見えてしまう。


「本日は城の書庫にて、レパス王子と調べ物の予定が入ってます」

「分かった。ありがとう。ご飯食べ終わったら私も向かう」


 ディストール王国にあった書物を読むことで、日常生活のことも段々と理解できてきた。

 メイドや王国といった言葉の意味も分かってきたし、今はもう言葉の理解で悩むことも少ない。

 眼鏡をかけた専属のメイドさんがその日の予定を語ってくれれば、私もその内容をすぐに理解できる。


 メイドさんが部屋を後にしたら朝食を食べ終え、腰にはいつもの御神刀を携帯。そして、首からは国王様にもらった『勇者の証』であるネックレス。

 身だしなみも整えたら、私は早速城にある書庫へと向かう。





「おはよう、ミラリア。調子はどうだい?」

「おはよう、レパス王子。調子は快調。こっちに来てから、凄く気分がいい」

「それは何よりだ。ミラリアは呑み込みが早いな。君もこの国の常識的な知識は十分身に着いたし、今後はエデン文明についての解析を優先していこうか」


 書庫に入ってみれば、まず目に入るのは先に来ていたレパス王子の姿。この人はエデン文明や楽園の調査に誰よりも熱心で、とても深い見識を持っている。

 この国では凄く偉い人らしいけど、私には気軽に接してくれる。それがとてもやりやすい。

 この辺りのことも慣れてきており、私もレパス王子の向かいの椅子へと腰かけて、眼前に積まれた書物へ目を通す。


 エデン文明や楽園のことでは、まだまだ不明な点が多い。私もエスカぺ村で知ってることは話してみたけど、繋がりについてはまだまだといったところ。

 今の私の役目はレパス王子の補佐として一緒に調査を進めること。私だって気になるし、こうやって知識を深めるのはどこか楽しい。


「エデン文明って、転移魔法以外にも色々あって面白い。人の魂を物に宿す魔術とかは私も初めて聞いた」

「でもやはり、ミラリアが住んでいたエスカぺ村に一番のヒントがありそうなんだがね……。城の学者にも位置座標の解明を急がせてるが、まだみたいなんだよね……」

「焦らなくて大丈夫。エスカぺ村に帰る方法が分かっても、あそこの人達が素直に教えてくれるか分からない」

「……何やら、ミラリアの中では故郷への未練が薄いみたいだね。寂しくはならないのかい?」

「……ならない。今はここでの生活にも慣れた。……大丈夫」


 現状、調査において最大の着眼点となるのは、私の故郷エスカぺ村の存在。レパス王子もどうにか再びそこへ辿り着きたいみたいだけど、私としては複雑な気分。

 だって、エスカぺ村の人達はスペリアス様を始め、私にエデン文明や楽園のことを隠してた。それを知ってしまった以上、不信感でいっぱいになる。

 いずれは辿り着くべき場所なんだろうけど、どうしても行くのを拒んじゃう。みんなの顔を見たくない。

 それよりかはこうしてディストール王国に留まり、誰かの役に立ちたい。みんなから褒めてもらいたい。

 それが今の私の生活。エスカぺ村での生活なんて過去の話だ。


 ――そう思ってるのに、なんだかモヤモヤが収まらない。この気持ちの正体が分からない。


「……もしかすると、エスカぺ村の人達はミラリアを縛り付けていたのかもな」

「縛り付けてた……ってのは?」

「秘密を自分達だけで独占したかったのかもしれない。楽園に関わることなんて、世界的に見ても重大事項だ。それをミラリアに迂闊に話して、その力が他者に行き渡るのを嫌ったのかもね」

「むぅ……そうなの……かな?」


 レパス王子は私の気持ちを否定することなく、むしろ肯定的な見解を述べてくれる。

 こうやって話を聞いてくれるの、とってもありがたい。エスカぺ村ではみんな私のことを『ワガママな問題児』と言って、邪険にする人が多かった。

 あの頃に比べれば、今のなんと恵まれたことか。エスカぺ村なんて、本当に小さすぎる世界だった。

 こうして外の世界へ出られた今、そのことを実感する。私もレパス王子の意見に同意。


 ――同意したいんだけど、ここでも何かがモヤモヤする。この気持ちをうまく言い表せない。




「レパス王子! ミラリア様! た、大変です! 王国近辺に巨大なオークロプスの姿が!」

「何!? あの馬鹿デカい豚顔の巨人か!? そんな魔物が相手だと、王国の兵を動員しないといけないな……!」




 モヤモヤしながらも調べ物を続けてると、部屋に慌ててやっきたのは兵隊さん。

 何やらまた魔物が近くに現れたらしく、話を聞いたレパス王子も慌てている。


「オークロプスって、ブルホーンよりも強い?」

「え、ええ。オークロプスは見上げるほど大きな巨人の魔物です。ブルホーンのように群れは成しませんが、あの巨体が城下に入ってしまえば一大事に……」

「群れじゃないってことは、一匹だけってこと? だったら、私が一人で行ってくる」

「ミ、ミラリア様がお一人で!? い、いくらなんでも危険じゃないですか!?」


 でも、心配はご無用。こういう時こそ私の出番。

 椅子から立ち上がって腰の御神刀を調整し、兵隊さんに制されながらも扉へと歩みを進める。


「本当に大丈夫なのかい? 君に何かあったら、僕も心苦しい」

「でも、お城の兵隊さんを集めるのは時間がかかる。それまでの間、私が何とかする。可能ならばやっつける」

「……その言葉が過言でないことは、僕もよく理解してるさ。すまないが、先兵として向かってくれ。こちらとしても助かる」


 レパス王子も少し渋ったけど、すぐに私が向かうのを見送ってくれた。

 これが楽園を調べる以外の私の役目。そのために称号も与えてもらった。


 ――今の私はディストール王国の勇者。この国を守る戦士だ。

知らない国で勇者……ねえ……。

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