その少女達、パーティーを組む
新たなメンバーを加えて、再び街道を往く。
「このまま街道を真っ直ぐに進め。この頃の街道は荒れている。下手に脇道に逸れるより、人目に付く方が好都合だ」
「成程。そういう情報はためになる。……それにしても」
【スアリさん、意外とあっさりついてきたな……】
現在、私達はキャンプを終えて、お昼の街道を北へと邁進中。なお、メンバーは私とツギル兄ちゃん(魔剣)とスアリさん。
なんとなく一緒に行くことを提案してみれば、意外なことにスアリさんはすんなり了承してくれた。
こっちとしてはありがたい。この辺りのことは詳しくないし、大人の人がいると心強い。
次の目的地であるカムアーチはまだまだ先だし、しばらくはこのメンバーで旅できそうだ。
「言っておくが、俺が同行するのは途中までだ。それまではパーティーを組んでやる」
「パーティー……ワイワイ盛り上がるの?」
【お前、まだその勘違いをしてたのか? ポートファイブで学んだだろ?】
「ちょっとしたジョーク。スアリさん、面白かった?」
「くだらん」
「そう……」
そんなわけで、スアリさんも一緒になったから仲良くしたい。こういう時、軽い冗談を交えるといいって聞いたことがある。
試しにやってみたんだけど、スアリさんの反応はイマイチ。相変わらず素っ気ない。どうせだったら、明るく一緒に旅したいのに。
これには私の気持ちもゲンナリ。自慢のアホ毛も萎びてしまう。
「……まあ、スペリアスとかいうお前達の母親も、こうやって馬鹿なことを言いながらも元気に旅してる娘の姿を見れば、納得はするのだろうな」
「そうなのかな? スペリアス様、厳しい人だった。もう一度会えた時に『ミラリアはまた馬鹿なことを言いおって!』って怒られたりしないか、ちょっと心配になってきた」
「そういうことはない。親というものはどんな時でも、我が子の元気な姿を願うものだ」
ちょっと寒い空気が流れちゃったけど、今度はスアリさんの方から話題を振ってくる。しかもスペリアス様の話題で。
もしかすると、昨日スペリアス様のことを悪く言ったので申し訳なく思ってるとか? それにこの人、なんだかペイパー警部と同じ気配がする。
上手く言えないけど『娘と仲良くなれない父親』みたいな気配がする。あんまり尋ねるのも失礼な気がするし、心の中だけに留めておこう。
人と関わるためには、こういった気遣いも重要だ。
「話をするのも構わないが、しっかり周囲にも目を向けておけ。こういった街道の端でも、昨日見せた野草は生えてる」
「あっ、本当だ。ラディシュ草とレバ花は覚えた。……こっちのカラフルなキノコは?」
「それは毒キノコだ。触れるだけでも危険だぞ。……本当に旅をしてるとは思えないほど無知な小娘だ」
トコトコ一緒に街道を歩いていると、スアリさんはちょくちょくアドバイスを入れてくれる。お話しもしたいけど、こういった旅の知識はとても大事。
思えば、私って事前準備なしで旅に出たんだった。ツギル兄ちゃんは私よりは知識があるけど、実際に外の世界を知ってたわけじゃない。
そうなると、スアリさんみたく実際に外の世界で旅をする人の話は参考になる。
エスカぺ村にいた頃は勉強とか嫌いだったけど、今にして思えばこうやって知識を得ることはとても重要。
何事も経験にして勉強。スペリアス様の言葉をもっとしっかり聞いてればよかった。
「……むう? そこの木陰に何かいるっぽい?」
【確かに気配は感じるな。ウサギか何かか?】
スアリさんのアドバイスで野草探しを続けてると、少し奥にある木陰から何かの気配がしてくる。
何がいるんだろう? ちょっと気になる。
ウサギとかなら食べ――じゃない。今はお腹も一杯だし、無理に狩りをする必要はない。
でも、可愛ければ少し撫でたり――
ブスンッ!
「あぐっ!? い、痛い……! な、何これ……!?」
【ミ、ミラリア!? どうした!?】
「ッ!? マズい、毒針か……!?」
――してみたかったんだけど、木陰から飛んで来たのはウサギではなく小さな針。右腕へと突き刺さり、その瞬間に苦痛が全身を駆け巡る。
スアリさんも考察する通り、これはきっと毒針だ。考えられるのは、誰かが木陰から吹き矢を使って私を狙ってきたということか。
でも、誰がこんなことを? 朦朧とする意識の中、必死に目を凝らして確認してみる。
「よし! 仕留めたぞ! これまで散々俺達をおちょくりやがって!」
「お? 今回は他にもオッサンが一人いるのか?」
「構うもんか! その小娘以上の相手なんてそうそういないし、後は数で攻め立てればいいのさ!」
そこにいたのは、私もこれまで一度は見てきた顔。この街道で襲ってきた野盗達が、徒党を組んで構えていた。
もしかして、これまでやられた仕返しをしに来たってこと? そのために毒針の吹き矢まで用意して?
――ダメ。考えるのも苦しい。頭が回らない。
「その毒針は闇瘴由来のもんだ! そう簡単には解けねえよ!」
「オッサンの方を始末したら、これまでの恨みも含めてたっぷり可愛がってやるか……! 見てくれはいいからな……! ヒヒヒ!」
意識が薄れそうな中、かすかに聞こえた野盗達の言葉。この毒が闇瘴ならば、事は重大だ。
私もAランクのリーダーさんみたいになって、死ぬ未来も見えてしまう。
野盗達もこっちににじり寄ってくるし、これは本当にダメかも。
ズパパパンッッ!!
「あがっ!? な、なんだ!? きゅ、急に斬られて!?」
「こ、このオッサンの仕業か!? 剣を二本も持って!?」
そう諦めかけてたら、突如野盗達から血しぶきが舞って怯み始める。
おかげで私への危害は止まったけど、まさかこれをしたのって――
「この小娘に手を出すな……! 俺が許さん……!」
「ス、スアリさん……?」
剣士スアリ、普通に強い。




