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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
魔の街道と追憶の出会い
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その剣士、少女の面倒を見る

剣客少女ミラリアと謎の剣士スアリの二日目。

「んむぅ……朝? スアリさんは……いない?」

【あのまま俺まで寝てしまったか……。まさか、俺まで魔法でやられるとはな……】


 次に目が覚めたのは、森の木陰から陽の光が差し込み始める明朝。焚火は消され、スアリさんの姿は見当たらない。

 ただ、私達の身に何かあったわけでもない。荷物も無事。眠ってしまう直前に感じた不安も杞憂だった。

 むしろ森の中で野盗に襲われることもなく、ぐっすり眠ることができた。これってやっぱり、スアリさんのおかげだったりするのかな?


「スアリさん、本当に朝まで私達のことを見守ってくれたってこと? こんな森の中で一晩中? だとしたら、そのことでお礼を言って――」

「礼の類はいらん。それにまだここにいる。食材の調達と周囲の警戒をしてただけだ。とりあえず問題はない」

「あっ、ス、スアリさん……」


 肝心のスアリさんは私達が目覚める少し前に立ち去ったと思ったけど、次の瞬間にはまたこの場所へと戻ってきた。

 ちょっとびっくりした。昨日の夜に険悪な空気だったから、最低限の面倒だけ見てくれたものだと思い込んでた。


「スアリさん、昨日の夜はごめんなさい。私も熱くなっちゃった。それと、お礼についてはやっぱりきちんと言いたい。ありがとう」

「だから、そういうのはいらないと言ってる。それより、頭貸してみろ」

「うひっ。アホ毛クシャクシャしないで。ゾワゾワする」

「なんでアホ毛がそんな反応をするんだか。……よし、熱は下がってるな。冗談を言えるぐらいには元気も出てきたか」


 スアリさんは私のアホ毛をクシャクシャしつつ、おでこに手を当てて熱を測ってくれる。私自身もかなり体は楽になってきた。

 ここまで回復できたのはスアリさんのおかげだけれど、お礼を言っても素っ気なく返されてしまう。なんだか、少し前の私みたい。

 やられてみると分かるけど、距離感を感じてちょっと切ない。


「とはいえ、まだ体力はつけろ。昨日の鍋の残ったスープもあるし、これで朝食を作るか」

「朝食……って、その手に持ってるのはお米? この辺りにもあるの?」

「いくらか沼で自生してたのを見つけただけだ。少し待ってろ」


 そんなことは関係ないとばかりに、スアリさんは消えてた焚火に再び火を点け、鍋の中身を沸かし始める。

 あの中には昨日のお鍋で食べたスープが残ってる。そこに入れるのは袋の中に入ってたお米。

 これもまた懐かしい。エスカぺ村でもお鍋の後によく食べた雑炊だ。

 外の世界ではお米を見かけず、いつも物寂しさを感じてた。スアリさんって、本当に私と知ってる範囲が被ってる。

 これで楽園とか関係ないのも驚き。ただ、それも本当のことかは分からない。


 ――後、対応のしょっぱさが辛い。


「雑炊ができるまで時間がかかる。その間、これらの野草について覚えてろ」

「メモが一緒なの? えーっと、ラディシュ草にレバ花……?」

「ラディシュ草は肉などの保存に役立つ。レバ花は栄養価が高く、食べれば貧血を起こしにくくなる。それらの野草はこの大陸ではよく生えてる。今後も旅を続けるなら必要な知識だ。覚えておけ」


 だけど、やってることは私のためになることばかり。野草のアドバイスについては非常にありがたい。

 シオルトの葉がなくなった今、別の保存手段があると大助かり。他にも栄養価の高い野草について、実物と共に教えてくれる。


「それと、刀の手入れにはこの布を使え。ただ汚れを落とすばかりでは刃が鈍る。魔剣だか知らぬが、研磨は必要だ。この布はトリューシートと呼ばれ、刃物の切れ味を復活させる。持っていけ」

「こ、こんなものまで? な、なんでここまでしてくれるの?」


 おまけに魔剣のための研磨道具まで渡してくれて、なんだかこっちは至れり尽くせり。

 親切してくれるのはありがたい。今のところ、何か悪い予感もしない。もらったものに不可解な点もない。

 だけど、流石にもらい過ぎな気がしてくる。昨日は少し揉めたのに、どういう風の吹き回しだろうか?


「……俺の気まぐれだ。曲がりなりにも楽園を目指すのならば、こういう知識は必要となるだろう」

「むう? 昨日は私が楽園を目指してること、否定的じゃなかった?」

「別に否定まではしていない。昨日は俺も事情を知らずに色々言い過ぎた。そのお詫びの気持ちとでも思え」

「そっか、成程。なら、私も納得する。これまでのことは水に流す」


 ふと尋ねてみれば、スアリさんなりに昨日の一件は気にしていたらしい。スペリアス様のことを侮辱されたのは腹が立ったけど、ここまで良くしてもらえるなら私も許せる気持ちになる。

 こうやって許す気持ちも大事。元々は敵対してたペイパー警部とだって分かり合えたんだ。いがみ合ってばかりってのも嫌。


「ほれ。そうこうしてるうちに雑炊が出来上がったぞ。食え」

「うん。いただきます」

【結局のところ、スアリさんに世話になりっぱなしですね。俺からも感謝します】

「気にするな。俺も気まぐれでやってることだと言っただろ」


 焚火でグツグツ煮えた雑炊を器に入れ、スアリさんが私へと手渡してくれる。少し口にすれば、これまた味わい深くて懐かしい味。

 昨日のお鍋もそうだったけど、スアリさんの作る料理は実に美味しい。新しい味ってわけではないけど、エスカぺ村での懐かしさがこみ上げてくる。

 本人は楽園への関与を否定してるけど、もしかすると私にみたいに『実は知らないところで関わってた』みたいなこともあるのかな? エスカぺ村の生活文化と重なってるのが気になる。

 同じように刀を武器として使ってることといい、もう少しこの人のことを知りたい気持ちが沸いてくる。


「さて、俺はそろそろ出発する。渡した野草やトリューシートがあれば、当分は乗り切れるだろう。だが、旅そのものはお前達の責任でやることだ。ここから先は自分達で――」

「あっ、待って。私、もう一つお願いがある」

「……俺にか? こっちはこれ以上関わる気はなかったんだが?」


 そうなってくると、ここでお別れというのも名残惜しい。立ち上がってこの場を去ろうとするスアリさんを引き留め、思わずお願い事をしたくなる。

 ここまで面倒を見てもらって厚かましいけど『旅は道連れ世は情け』ってスペリアス様も言ってた。私も今後はもっと人と関わっていきたいし、これはその一歩にもなるだろう。




「できる限りでいいから、しばらく私達と旅してほしい」

ちょっと気持ちが前に出せるようになったミラリアのお願い。

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