表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
魔の街道と追憶の出会い
106/503

その少女、倒れる

倒れたミラリアに手を差し伸べてくれたのは?

「いきなり喋る刀が助けを求めたかと思えば、なんとも馬鹿げた理由で倒れた小娘がいたんだ。辛辣な言葉も口にしたくなる」

「あ、あの……私って、どうして倒れてたの……?」


 私を助けてくれたフードとコートのおじさん。見た感じ、この人も旅人っぽい。

 焚火の近くにあった倒木に腰かけると、横たわった私に声をかけてくれる。ただ、その言葉は実に刺々しい。

 助けてもらったことには感謝してる。でも、そこまで酷く言わなくてもいいと思う。そもそも、私ってどうして倒れたんだろ?


「お前、あまり保存状態のよくない肉を食べてただろ? おまけに食事も肉に偏ってた。……食中毒と栄養失調。それが倒れた原因だ。むしろ、今までよく倒れずに済んだな?」

「そ、そうだったんだ……。やっぱり、あのままの食事じゃダメなんだ……」


 その理由について聞いてみると、私も危惧していたことがそのまま形になったってことか。

 シオルトの葉でお肉の保存はできない。いくら素早く消費したところで、いつの間にか腐ってたのか。

 お肉の消費を優先したことで、最近の食事はかなり偏ってた。『食事は様々な種類を満遍なく取らないといけない』ってスペリアス様にも教わってたのに、全然できてなかった。

 これは私も反省。仕方ない状況だったとはいえ、もっと対策はできたはずだ。


「まあ、今はしっかり体を癒せ。旅先で小娘に死なれたりしたら、こっちも寝覚めが悪い」

「う、うん。ありがとう……。ところで、おじさんって誰? 私みたいに旅する冒険者?」

「『人のことを尋ねる前に自分から名乗る』とは教わらなかったのか?」

「あっ、そうだった……。私はミラリア。こっちの魔剣はツギル兄ちゃん。二人で楽園を目指す旅をしてる」

【え、えーっと……どうも】

「……フン。世間知らずな小娘と刀に宿った兄貴か。随分と変った兄妹だな」


 とはいえ、このおじさんの話し方もどうかと思う。こっちも素直に感謝したいのに、なんだか逐一小馬鹿にされてムカムカしちゃう。

 どっちみ、今の私はまともに動けない。少し楽になったとはいえ、体は全然回復してない。

 言われてることももっともだし、ここは素直に聞き手に回ろう。


「俺の名は……スアリだ」

「スアリさん? やっぱり冒険者?」

「まあ……そんなところだ。といっても、そっちみたいに目的なんてない。ただあてもなく彷徨ってるだけだ。……それより、飯の準備をしよう。材料もあらかた揃った」


 一応は自分のことも語ってくれたけど、凄くサッパリしたことのみ。現状『冒険者のスアリさん』ってことぐらいしか分からない。

 私の質問も適当に、スアリさんは焚火の前で何やら作業を始めてる。少し頑張って体を起こしてみれば、焚火の上には鍋が置かれていたようだ。

 すでにグツグツとスープが煮えており、中には何かの肉が入ってる。そこへスアリさんは手に持った草を入れ、お玉でかき混ぜていく。


「食の不摂生で病を患ったのなら、正しい食で治すのが一番だ。タトル樹の皮で出汁を取ったスープに、ジビラビットの肉。栄養価の高い野草を混ぜれば、滋養強壮にはもってこいだろ。……食え」

「た、食べていいの? 私、お金持ってないよ?」

「金の心配などいらん。いいから食え。お前の体が治らないと、俺も困る」

【ここはスアリさんの言葉に甘えさせてもらおう。実際、体が弱ってる時にこそ食べないとな】


 スアリさんは器に鍋の中身をすくってくれると、私に手渡してくれる。

 体の調子が悪いからか、匂いはよく分かんない。でも、見た目的には美味しそう。

 ツギル兄ちゃんが言うことももっともだし、食べないと体力はつかない。食べることは生きることだ。

 不甲斐なくもダメな食事で倒れはしても、スペリアス様の教えだけは忘れない。


「お、美味しい……。温かくて、優しい味……」

「今のお前でも食べられる味付けにした。栄養価もあるし、弱った体には丁度いいだろう」


 体調を戻すためにも、用意してもらったお鍋を頑張って口にする。思えば、鍋料理なんてエスカぺ村で食べてた頃以来だ。

 舌の調子も悪くて味は鮮明には分からないけど、懐かしさと温かさで体も心も満たされていく。栄養が体に行き渡るのを感じられる。


「これなら食べられる……。スアリさん、ありがとう」

「礼を言うならそこにいる刀の姿をした兄貴に言え。そいつが必死に呼びかけてくれたから、俺も対処することができた」

「そっか。ツギル兄ちゃんもありがとう」

【一時はどうなることかと思ったが、その様子なら大丈夫そうだな。今はしっかり食べて休んでろ】


 まさか、食生活のせいで倒れるとは油断してた。慣れたつもりであっても、まだまだ旅には危険が眠ってる。これは今後の教訓としよう。

 もらった料理はお肉も野菜も食べやすい。何より、出汁を取ったスープというのは馴染み深い。

 エスカぺ村では常識だったけど、外の世界では出汁を始めお米といった食べ物の文化がない。美味しさと同時に懐かしさがこみ上げてくる。

 どれだけ新しくて美味しいものに出会っても、故郷の味は忘れない。体の調子はまだまだだけど、スアリさんの作ったお鍋はパクパク食べられる。


「ついさっきまで死にかけてたのに、随分な食べっぷりだな。まあ、この調子ならすぐに回復するだろう」

「食べないと元気になれない。だから、今は食べることを頑張る。……あれ? そこにあるのって、スアリさんの武器?」

「……ああ、そうだが?」


 食べて元気が戻ってくると、これまでしっかり見れてなかった周囲の様子も見えてくる。

 森の中でキャンプしてるのは当然として、気になったのはスアリさんの近くに置かれた二本の鞘。これらがスアリさんの武器らしいけど、この形状はもしかして――




「それって……刀? 私の魔剣と同じタイプの剣?」

「ミラリアは流石に知ってたか。この辺りで刀は珍しいが、俺はこの二刀で旅をしてる」

これまではミラリアしか扱ってなかった『刀』

それを同じく武器として用いる者。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ