{トラキロのその後}
三人称による幕間。
トラキロとロードレオ海賊団のその後。
(後、捕らえられたAランクパーティーの二人)
◇ ◇ ◇
「トラキロ副船長。いい加減、機嫌を直してほしいでヤンス」
「うるせェ……。人の下半身丸出しを散々ネタにしやがってェ……」
「それについては申し訳なかったでゴンス」
「川底ぐらい深くごめんなさいでアリンス」
「それ、全然反省してねェだろォ……」
下半身スッポンポンという醜態を晒し、ミラリアに敗北したトラキロ。その者を副船長として従うロードレオ海賊団の面々。
彼らの海賊船もポートファイブを離れ、夜の大海原を進んでいた。
副船長であるトラキロはミラリアから受けた精神ダメージが残りつつも、新しいズボンを履いて甲板で船の舵取りをしていた。
「そういえば、あの剣客小娘が使ってた剣は奇妙でヤンしたね」
「思ってたんでゴンスが、あれって船長が使う『ポン刀』と同じじゃないでゴンスか? 鞘の形状は似てたでゴンス」
「とはいえ、船長のポン刀には鍔がないでアリンス。それにあれより短いでアリンス」
「その辺りも含めて、船長に報告は必要だよなァ。面倒だけどよォ」
そんな彼らにとって、ミラリアの存在――もとい、手にした魔剣には見覚えのあるものであった。
ミラリアとツギルも示唆していた、ロードレオ海賊団と楽園の関連性。わずかながらも、それは確かに存在していた。
船や武器に用いられているカラクリという技術だけでなく、魔剣の存在もここに関りを示す。
「どのみち、オレも船長に頼んでもうちょっと強度を上げてもらわねェとなァ」
「え? 今以上にでヤンスか?」
「体の強度は十分だと思うでゴンスよ?」
「体の方じゃねェよォ。ズボンとパンツの強度を上げてもらうんだァ」
「……結構、根に持ってるでアリンスね」
「船長の女好きには困ったもんだが、カラクリの力は本物だァ。次にミラリアちゃんと会った時は、こうも行かねェよォ」
そして、それらの糸をつなぐ者こそ、ロードレオ海賊団の船長。海賊船が目指すのは、その船長が潜む場所。
「ところで、船長は今どこにいるんだったかなァ?」
「えーっと……カムアーチでヤンスね」
「カムアーチって、冒険者も大勢集う街だったよなァ? ……まさか船長、また女の尻でも追っかけてるのかァ? 勘弁してくれよなァ……」
あろうことか、その場所はミラリアとツギルが目指す場所と同じ歓楽都市カムアーチ。
何の因果か、ミラリア達はロードレオ海賊団船長が潜む場所へと進んでいた。しかも厄介なことに、船長は女狂いと称される人間である。
――ミラリアの身に迫るのは、いまだ想像できない脅威と言えよう。
「どうせ船長に女を献上するなら、あの剣客小娘がよかったでゴンスね」
「あー、船長って、あれぐらいの幼い少女が好きでアリンスね」
「ゴチャゴチャ言うなァ。ミラリアちゃんを捕まえるのは、骨が折れるなんてレベルじゃァねェ。とりあえずは二人捕まえれたんだし、それで十分だろォ。……正直、オレも女を献上するのは気が進まねェしよォ」
トラキロもミラリアの実力を把握している以上、交戦は避けるべきだとも考えてはいる。何より、トラキロにも罪悪感はある。
そんなそれぞれの動向など露知らず、ミラリアが再びロードレオ海賊団と衝突する時は近づきつつあった。
「とりあえず、今はあのAランクパーティーの女二人の献上が先だァ。船長に会わせるまでは、オレの方で可愛がってやるぜェ。船長からも言われてるからなァ」
ただ、トラキロもロードレオ海賊団ではあくまで副船長。トップである船長の意向には逆らえない。
捕らえたAランクパーティーの二人についても、船長から言われた通りに扱う必要がある。甲板から一度船室へ向かうと、彼女達の元へと向かう。
ロードレオ海賊団に捕らえられた女達の末路。それは扉を開いた先に広がるのだが――
「おォう、テメェらァ。オレの作ったマジマグロの刺身の味はどうだァ? 美味いかァ?」
「トラキロさん、あんたこんなに美味しい料理作れたの! かなり見直しちゃったんだけど!?」
「生のお魚が口の中でとろけていい感じー!」
――意外と好待遇であった。
「こうやって女のご機嫌取りしないと、後で船長がうるさいでヤンスからねー」
「船長、ワガママが過ぎるでゴンス」
「そのおかげで、トラキロ副船長は料理の腕が上がってしまったでアリンス。……これは良かったのでアリンス?」
船室で美味しそうな料理を振る舞われる女達を見て、変な語尾トリオも複雑な表情を浮かべる。
世間では強奪や人攫いを行い、悪名の限りを尽くすロードレオ海賊団。カラクリを主体としたその力は、世界的に見ても脅威と言えよう。
――ただ、その中身はどこか緩い。
◇ ◇ ◇
「新たな大陸と謎の海賊団」はここまでです。
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