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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
新たな大陸と謎の海賊団
101/503

その少女、罠にはまる

なんとも単純な罠を仕掛けた張本人の正体は?

「これ、どうなってるの!? なんで檻の中にいるの!?」

【だから罠だって言っただろ!? このタツタ揚げはミラリアを釣る餌だったんだよ!】


 なんということだ。せっかく道端にタツタ揚げが祀られてると思ったら、檻の中に捕らえられてしまった。

 こんなの神様のご褒美でも何でもない。女神エステナの馬鹿野郎。

 それにしても、誰がこんな精巧で卑怯な真似を――




「……オレッチも仕掛けた側とはいえ、まさか本当に引っかかるとは思わなかったな」

「ペ、ペイパー警部……!?」




 ――そう思ってたら、街道の脇にある茂みから顔を見せたのはペイパー警部。頭に乗せたツバ付き帽子を押さえながら、どこか複雑そうな表情と口調をしている。

 家にいるはずじゃなかったの? どうして私より先回りしてるの?


「ランと別れた後、家に戻れば食べかけのタツタ揚げがあったもんでな。ランが食べてたにしては量が多すぎる。ならば、別の誰かが食べてたってことだ。……その別の誰かってのは、話の流れからしてミラリアちゃんだけだったもんでね。物は試し程度に罠として利用してみたのさ。ランから話を聞いて、ポートファイブを離れるのは読めてたからな」

「な、なんて慧眼で狡猾な真似を……!?」

「……随分と難しい言葉を知ってるもんだ。だが、この罠自体はとんでもなく単純だ。正直、これに引っかかる馬鹿がいるとは思わなかった」


 話を聞けば、流石ペイパー警部と恐れざるを得ない。私の行動を完全に予測し、さらには罠まで張っていたとは驚きだ。

 なんだか馬鹿にされてるっぽいけど、こんな罠は誰でも引っかかる。目の前に美味しいタツタ揚げがあれば、飛びつくのが人の性だ。


「てことは、このタツタ揚げはランさんが作ったもの……!? そんなものを罠に使うなんて、ペイパー警部には人の心がないの!? 鬼! 悪魔! タツタ揚げ!」

「そこまで言わなくてもいいだろ……。後、思いっきり私欲が混ざってるし」


 しかもこれ、ランさんが私に作ってくれたタツタ揚げだ。これについては鬼畜な所業としか言えない。

 娘のタツタ揚げを使って私を捕らえるなんて、ランさんにもタツタ揚げにも失礼だ。

 ただ、罠自体は完璧と認めざるを得ない。悔しいけど、ここは歯を食いしばって耐えよう。


「わ、私をどうするつもり? エステナ教団に連れて行くの?」

「いや、まずはオレッチの方で事情聴取だ。ギルドでの聞き込みと少し行動を共にしたことで、どうしても気になってることがある」

「き、気になってること? な、何を?」


 檻の中に捕らえられ、ビクビクしながらペイパー警部の言葉を待つ。狭い場所に捕らえられ、下手に居合を使う余裕もない。

 とりあえず、話があるなら聞いてみよう。その中でタイミングを伺うのが一番だ。




「ミラリアちゃんってさ、本当にフューティ様を殺したわけ? 正直に答えてほしいんだけど?」

「ふえ……? こ、殺してない! 私がフューティ姉ちゃんを殺すはずない! ほ、本当のこと! 嘘なんてついてない!」




 身構えながら質問を聞いてみると、最初に尋ねられたのは私がフューティ姉ちゃんを殺した真偽について。

 でも、ペイパー警部はエステナ教団から『私こそが犯人』って聞かされてるはずだ。今更そこを尋ねる理由も見えてこない。

 ともかく、私が殺してないのは事実。そこについてはきっちり反論したい。


「あー、成程。だったら、これはもういらないか」

「それって……私の手配書?」

「この手配書は後々エステナ教団から世界中に配布するように言われてたものだ。今はまだ原本であるこれ一枚しかない。だから、これをこうやって燃やしちまえば――」



 ボウッ



「エステナ教団がミラリアちゃんを追う要素はなくなっちまう」

「ふえっ!? て、手配書が燃えちゃった!?」


 その話を聞くと、ペイパー警部は私の手配書を取り出しつつ、なんと手から火炎魔法を出して燃やしてしまった。

 私も思わずびっくり。こっちが言うのもおかしいけど、それって簡単に燃やしていいものじゃないよね?

 エステナ教団の重要な手配書だよ? 私のこと、追えなくなっちゃうよ?


「……その手配書、燃やして大丈夫だったの? エステナ教団に怒られない?」

「ダメに決まってるだろ。ただ、オレッチにはオレッチのポリシーがある。あまりに『犯人だと思えない人間を追う』なんて、警部の誇りが許さないってね」

「そ、それって……どういうこと?」


 急な事態に驚く私など関係ないとばかりに、ペイパー警部は檻を外から解体しながら話を続けてくる。私のことも出してくれた。

 恐る恐る外へ出てきても、ペイパー警部に敵意は感じられない。こうなってくると、何故こんなことをしたのかが気になってくる。

 すぐにはこの場から逃げ出さず、続きの言葉を期待しながらペイパー警部に目を向ける。


「いきなりオレッチが声をかけても、逃げられるのは目に見えてたからな。まずは捕らえて真相の確認と敵意がないことの証明をしたかった。悪く思わないでくれ」

「そ、それはいいけど……本当にどうして? 私のこと、エステナ教団で追ってるんじゃないの?」

「あくまで『エステナ教団が』だ。オレッチからすれば、ミラリアちゃんを血眼になって追う理由に乏しい。……それどころか、今となっては『理由もなくなった』と言える」


 檻の外に出てもたじろぎながら話を聞くしかない。状況が分からなすぎて怖い。

 ただ、ペイパー警部としては個人で私を追う理由がないってのは見えてくる。それはつまり――




「ミラリアちゃんはさ、本当にフューティ様のことを殺してないんでしょ? それぐらい、オレッチにだって分かるっての」

だから罠も単純で「話ができたらそれでいいや」レベルだったという。

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