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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
新たな大陸と謎の海賊団
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その少女、友と別れる

寂しいけれど、別れの時が来た。

「いや……なんでも何も、親父は元々ミラリアを捕まえるのが仕事だろ? 今会いに行ったら、即刻お縄だぞ?」

「あっ、そっか」

【ナチュラルに共闘してたから忘れてたな、こいつ……】


 ペイパー警部にもお礼を言おうと思ってたけど、よく考えたらそれは無理な話。だって私、ペイパー警部に追われてるもん。

 ディストール王国のお城爆発にフューティ姉ちゃんの殺害。思い返しても胸が苦しくなる濡れ衣ばかりで、これらの事件にはエステナ教団が関与している。

 犯人だと決めつけられてる私を捕まえることこそ、ペイパー警部の本来の目的。今回は娘のランさんを助けるために一時共闘してただけ。


 ――ツギル兄ちゃんの言う通り、変に慣れ過ぎて忘れてた。


「今なら親父は家にいる。逃げ出すならこのタイミングしかない。アタイだってミラリアが悪人だとは思ってないが、それを証明する証拠だってないから……」

「うん、分かってる。今は逃げるしかない。……私を信じてくれてありがとう。ランさんに会えて本当に良かった」

「それはアタイだって同じさ。またいつか会える日を待ってるから、今はきっぱり別れよっか」


 元々そういう話でもあったし、名残惜しくもランさんとはここでお別れだ。ペイパー警部には申し訳ないけど、私も捕まるわけにはいかない。

 スペリアス様やフューティ姉ちゃんが示してくれた楽園への道筋。そこを歩き終えるまで、私の旅は終われない。

 最後にランさんと握手を交わすと、私は北の方角目指して歩みを進める。


「なあ、ミラリア! アタイ達、友達だよな!? 本当にまた会えるよな!?」

「うん! 私達、友達! 私、いつかまた会いに来る! 約束する!」


 ランさんは離れていく私に対し、手を振って見送ってくれた。こっちも後ろを向きながら、姿が見えなくなるまで手を振って応える。

 思えば、友達なんて初めてだった。そう考えると名残惜しさが増すけど、もう二度と会えなくなるわけじゃない。

 何より、こうして見送られながら旅立てるのはちょっと嬉しい。寂しくはあっても、足取りはこれまでのように重くない。


 ――エスカぺ村やエスターシャ神聖国を旅立つ時と違い、悲しみを背負わずに旅立てる。





【いい友達ができてよかったな】

「うん。私、またランさんに会いたい。できれば、今度は一緒にお買い物とかもしたい」

【そうだな。いつかそうやって過ごせる日も来るさ】


 ランさんとも別れ、私とツギル兄ちゃんは夜の街道を歩んでいく。

 もう遅いし、どこかで休みを入れたい。ロードレオ海賊団との戦いやランさんとの別れの名残惜しさで、結構疲れてもいる。


「そういえば、お腹も空いた――あっ、狩りで捕らえた巨大蛇、ギルドで換金してもらうの忘れてた」

【急にいろんなことがあったからな。どこか別のギルドでも換金できるみたいだし、今は取っておくとしよう】

「親方さんにもらったアイテムポーチがあるから、持ち運びには苦労しない。とりあえず、蛇のお肉と薬草を少し齧ってみる」

【少し前にカラフライのタツタ揚げ食べてただろ? 本当に食い意地だけは一人前だな……】


 寝床を探しながらも、さっきトラキロさんと戦った分のエネルギーは補充しておきたい。結構派手に殴られたし、蛇肉を薬草で包んで口にしてみる。

 味については微妙。薬草の苦みと蛇肉の淡白な味わいが別々に主張してくる。

 とはいえ、今手元にあるご飯はこれだけ。ギルドで換金し忘れてたのもあるし、しばらくはまた狩猟や採取生活が続きそうだ。

 荷物の中にはフューティ姉ちゃんからもらったお小遣いもあるけど、これは使わないって決めてる。どこかでフューティ姉ちゃんのためになるように使いたい。


「やっぱり、カラフライのタツタ揚げを残したままだったのが悔やまれる。あれはとても美味しい。また食べたい」

【そうは言っても、ああいう料理には簡単にありつけないだろ? 調理法だって分かってないし】

「そんなこと言われると、かえって食べたくなってくる。あのジューシーさと白ソースの酸味のドッキング。今食べてる蛇肉の薬草包みとは大違い。そこらへんに実ってないかな?」

【料理が実ってるわけないだろ……】


 旅の狩猟生活も仕方ないとはいえ、一度食べた料理の味は忘れられない。特にタツタ揚げは衝撃的な一品で、最後まで食べることができなかったもの。心残りが大きい。

 思わず周囲の気に目を向け、実ってないかと期待してしまう。まあ、流石にそれで見つかるはずもない。

 せめてひと目見るだけでもいいから、もう一度あのカラフライのタツタ揚げを拝んでみて――




「ッ!? あ、あれって、まさか……!? この香ばしさと酸味の入り混じったソースの香りは……!?」

【え? ま、まさか、本当にタツタ揚げが……?】




 ――という願いが通じたのか、私の眼前にそれを見つけてしまった。

 箱の上にお皿が置かれ、そこに盛られたるはランさんの作ってくれたものと同じカラフライのタツタ揚げ。間違えるはずがない。私のアホ毛もビンビンに反応する。


「ま、幻なんかじゃない……! ほ、本物のタツタ揚げだ……!」

【待て、ミラリア! どう考えてもおかしいぞ! こんな露骨にタツタ揚げが置かれてるはずないだろ!? 何か縄みたいなのが近くに見えるし、どう考えても罠――】

「おかしくないもん! 絶対に美味しいもん! ランさんの作ったのと同じタツタ揚げだもん!」


 もう私の目にはタツタ揚げしか見えない。これは夢なんかじゃない。香りだってしっかりするし、間違いなく本物のタツタ揚げだ。

 きっと、神様が私のためにご褒美をくれたんだ。トラキロさんとの戦いで頑張ったもん。

 神様って、多分女神エステナ様のことだよね。ありがとう、女神エステナ様。


「タツタ揚げぇぇええ!!」

【だから待てってぇぇええ!!】


 ツギル兄ちゃんの意見など知らない。そこにタツタ揚げがあるならば食いつかずにはいられない。

 思い切って箱の上に乗ったお皿にダイブすると――



 ガバンッ!



「ふえっ!? 上から檻が!?」

【ほら見ろ! 言わんこっちゃない!】


 ――頭上から降ってきた檻の中に捕らえられてしまった。

なんでそんな簡単な罠に引っかかるんだか。

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