その少女、帰れない
国王と謁見するも、重大な問題が発生。
「おお! そなたがブルホーンの大群から城下の民を守ってくれた少女か! 余もディストール王国の王として、心からの感謝を述べさせてもらうぞ!」
レパス王子の話を聞きながら連れてこられたのは、父であり国王と呼ばれる偉い人の眼前。一際豪勢な広間とたくさんの兵隊さんに囲まれ、私はもてなされている。
他の人達と同じように感謝の言葉を述べてくれるし、それ自体は凄く嬉しい。癖になりそう。
「我が息子レパスからも聞いたが、なんでもエデン文明の調査に巻き込まれてこの国へやって来たそうだな? その件についてはこちらも申し訳ないことをした」
「それは構わない。私も貴重な体験ができた。ただ、それよりも気になることがある」
「……ああ、そうであろうな。レパスからも聞いてるであろうが、その方が元いた場所に戻す方法のことについてだ」
ただ、それよりも気になるのは今後のこと。さっきレパス王子からも聞いたけど、転移魔法で私をエスカぺ村のお社に戻すことができないらしい。
なんでもここの転移魔法はまだまだ研究段階らしく、発端となったデプトロイドをお社に送ったのも『まだ知らない場所を条件に転移させる』という手法だったとか。
そう考えると、普通に転移魔法が使えるツギル兄ちゃんって凄かったんだ。
「あの転移魔法についても、元々はエデン文明を解明していく上で手にした技術だ。まだ不明な部分も多く、あのデプトロイドがどの位置座標に元々転移していたのかも分からなくてね……」
「それってつまり、私はエスカぺ村に帰れないってこと?」
「まあ……『すぐには無理』といったところだ。完全に道が閉ざされたわけではない。ただ、位置座標を調べ直すために時間がかかってしまう。時間さえかければ君を再度転移魔法で送り返すこともできるが、今すぐにというのは無理だ。巻き込んでしまった上に申し訳ない……」
レパス王子も詳細を語ってくれて、とりあえずすぐには帰れないことだけは分かった。それにしても、転移魔法までエデン文明の技術だったのか。
これってやっぱり、エスカぺ村がエデン文明と関わってるってこと? ツギル兄ちゃんの転移魔法が上手いこともだし、それらを教えたスペリアス様は何かしらの関与があるってこと?
私の剣術にしても、エデン文明の一つだったりするのかな?
――本当はエスカぺ村にこそ、エデン文明を始めとした楽園に繋がる手掛かりがあるってこと? 村のみんなは私に何か隠し事をしてたってこと?
「僕としても調査のため、早急にミラリアがいた位置座標は解明したい。ただ判明するまでの間、君にはディストール王国に滞在してもらうしか――」
「いい。それで構わない」
「……え? い、いいのかい?」
「うん。私ももっと、ディストール王国といった外の世界のことを知りたい」
正直、これはいい機会だと思えてきた。エスカぺ村のみんなは何かを私に隠している。そう考えると、なんだか帰る気も失せてくる。
それに偶然とはいえ、こうして外の世界へやって来れたのだ。ずっと憧れていた外の世界にいるんだ。
――このチャンスを逃すのが惜しい。どうせなら、ここから私は夢を叶えたい。
「ほ、本当に構わないのかい? まあ、こっちとしてはエデン文明や楽園に関する手掛かりという意味で、君の存在は重要ではある。だから助かると言えば助かるのだが……」
「私もレパス王子が調べてることに興味がある。私も楽園のことを知りたい。協力できるなら協力する」
その夢にしても、レパス王子と同じもの。もしかすると、この出会いは運命なのかもしれない。
時として神様は『人に唐突な運命を与える』と村の書物でも読んだことがある。
ずっと外の世界に出たかった私が外に出て、同じように楽園を目指す人の元へとやって来た。
今この時こそ、私は外の世界へ飛び立つ時。これは神様の啓示なんだ。
「……分かった。君がそう言うのなら、僕も喜んで迎え入れよう。不自由な真似をさせたりはしない。エスカぺ村についても継続して調べるし、どうか僕と一緒にエデン文明の調査を――しいては楽園の調査を手伝ってくれ」
「もちろん。私で役に立てるなら、どんなことでも力になる」
「ハハハ、なんとも頼もしい限りだ。剣術の腕前だけ見ても、ミラリアの力はディストール王国でも随一と言えよう。そんな君がここにいてくれるなら、こちらこそ歓迎しないと罰が当たるな」
ディストール王国のことはまだまだ知らないことも多い。でも、居心地は凄くいい。
私が振るう御神刀により、多くの人からも感謝される。大勢の力になれることは誇りに思える。
――エスカぺ村ではできなかった体験が、私が抱く好奇心を湧き立たせてくれる。
「うむ。その者が――ミラリア殿がディストール王国に残ってくれることは、余も国王として心強く思う。どうかこちらこそ、よろしく願いたい」
「うん、分かった。私もよろしくされる」
「ホホホ。腕は立つが、まだまだ幼さは残っておるか。だが、年齢など関係ない。そもそもブルホークを撃退したその方には、余も王として相応の称号を用意せねばな」
「称号……?」
国王様にしても息子のレパス王子と同じく、私のことを歓迎してくれる。本当にこんな経験、初めてだ。初めての連続だ。
思わず感傷に浸ってると、国王様は腰かけていた豪勢な椅子から立ち上がり、私の方へと歩み寄ってくる。
その手に握られているのはキラキラとしたペンダント。それを私に手渡しながら、国王様は語り掛けてくる。
「未知なる剣技を使いし剣士ミラリア。その方にディストール王国国王からこの証と共に『勇者』の称号を授ける」
そして少女は王国の勇者となった。




