第九十九話 世界戦9
「お前がブレイクなのか?」ブレイクと言う名前には聞き覚えがある。そしてその名前を持つ者は世界を取り戻すために必要な人物の一人だ。いったいなぜ彼が上位者の座に立ち、我々に敵対するのだろうか。
「それはお前が一番わかってるはずだろ?」馬鹿にするように奴は大剣を見せびらかし嗤った。
そうだ。奴の手に握られているのは神具、無銘。姿や形は違うが、その奥底に流れている力に揺るぎが無い。本物と断定していいだろう。
「なら何故敵対するんだ?」
「,,,,,,,,,,,,勝てば教えてやるよ。いつの世界も勝者が全てを手にする権利があるからな」少し沈黙したのちに口を開き、大剣を構えた。
「なら全力で潰してやる」カフカナトスで身に下ろせる英霊は一人だけ。そして一度降ろし英霊は再度呼ぶことができない。先程と同等の攻撃であれば耐え抜けるがそれ以上の攻撃が来れば耐えることは困難になる。
どうするべきか。一秒にも満たない時間で思考し、決断する。
死んだらもう一度戦えばいい。奴に魂を封印する術があるとは思えない。もし、堕落者が我の肉体を封印した封印者を連れて来れば詰むだろうが最悪の場合が過ぎる。
「それは不可能だな」~凶剣~
地面に何か落ちた音がした。奴の顔が遥か頭上に見える。馬鹿にするような笑いを浮かべている。視界が黒ずんでいく。呼吸の音が遠い。
死んだ。それを理解するのに多くの時間は必要なかった。
「不可能は存在しない」我の周りの時間をすべて巻き戻し復活する。我は霊神。生死を超越した世界を守りし者。今目の前のこいつを殺すまで何度も挑戦する。敗
「来いよ。絶望させてやる」
あれから三十回程の戦闘を試みた。しかし結果は惨敗だった。能力を発動させる前に殺される。不可避とも思える超高速の斬撃。回避したとて二撃目には倍になった凶剣が襲い掛かってくる。
不可能。
その単語が頭をよぎる。他の英霊を降ろしたとしても勝ち筋が見えない。過去に戦い挑み、逃亡したどの奴等よりも強い。勝利のビジョンが見えない。アクセルは頑張っているというのに___
~アクセル視点~
「起き上がったか、愚か者。俺に勝てるとでも?」
「そうですね。仲間がいますから」俺には後方から支援してくれる神がいる。勝利の道に導いてくれる八咫烏とその道を舗装するカムイ、そして溜め込んだ力を与えてくれるファンドがいる。
すぐに助けに入ってこないことは想定外だが。
「面白いことを言うな。見捨てられたことも分からないのか?」奴の言葉で心に少しばかりの揺らぎが生まれる。
アイツらは作戦を実行する時俺に何をすればいいのか伝えてくれる。今回の場合,,,何もなかったが。だが、それだけの事で見捨てられたと判断するのは早計だ。
「誰が見捨てているだって?」~古潭~
俺の後ろから城の球体が現れると雪崩を彷彿とさせる量の矢が強奪者めがけて降り注ぎ始めた。
「クソが」鬱陶しそうに奴は二刀の短剣で矢を切り刻んでいく。
「心配するなアクセル。我の目は勝利までの道筋を捉えている」~案内人~
赤い軌跡が縦横無尽に空中を翔け回り、やがて俺の手元に辿り着いた。神々しいまでに光り輝く烏が手の甲にその足を乗せていた。
「カパカパ!」~神力移動~
要塞の様な見た目をした箱が開くと、神界で手にしたような全能感を得られる力が全身を駆け巡った。
「来てくれましたか!」見捨てられていないという現実と仲間がいるという現実を目の前にして希望が見える。さっきまで感じていた圧倒的な力の差も感じなければ、恐怖すらも感じない。
「反撃開始だ。アクセル」~運命人~
烏から翡翠の稲妻が走ると同時に強奪者の体にマークの様な物が複数浮き上がった。
「いいか、アクセル。マークを狙え」矢の出所からカムイの声が聞こえる。
「あれは過去に戦った者が付けた傷跡だ。あそこを重点的に攻撃すれば奴の能力は発動しない。それに大幅な弱体化が期待できる」
「しかし、そこを重点的に狙えるとは思えないのですが」いくら神力と支援があるとはいえ、同じ部分を連続して攻撃するのは至難の技だ。
「安心しろ。カバーしてやる」~古潭~
再び無数の矢が亜空間へと繋がる空間から飛び出してくる。
「軌跡を辿れ。必ず勝利に辿り着く」~案内人~
視界が赤く染まると同時に烏の目と一体化する。右目では自分の視界が、左目では烏の視界が映る。そして烏の視界は軽く意識するだけで消える。更に赤い軌跡が世界中に駆け巡り、マークまでの最短距離を割り出してくれている。
「分かりました!」仲間を信じて疾走する。神力のおかげもあり、体に翼が付いたように軽い。
道筋をなぞるように上に飛び、影を使い急降下する。強奪者の背後に回り、大きく右に展開する。その間にも矢が降り注ぐが俺に当たることは無い。流石神だ。
「ちょこまかと動きやがって!」矢を払いのけながら強奪者が影を纏いながら突進を仕掛けてくる。
「ふっ」変化した軌跡を通りに体を動かす。バックステップを踏み、後方に一回転。影を地面に突き刺し、一瞬でその場所に吹っ飛ぶ。安全な場所までまだ遠い。再度影を突き刺し、その場所まで高速移動する。
「うぜぇな!」後方で影が爆発し、無数の狼が飛び出す。
「噛み殺せ」そして奴の言葉一つで黒い波が背後に迫りくる。
「させるかよ」~神威古潭~
亜空間から斬撃が放たれ地面と狼を切り裂いていく。その攻撃は俺の進路を潰すことなく精確なものだ。
「ありがとうございます!」複雑に交差する道を目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。
~世界加速~
世界の流れが全て遅く感じる。迫りくる狼の影も、降り注ぐ斬撃も、強奪者の短剣の動きも。まるで自分が一秒先を歩んでいるような気がする。
「逃げてんじゃねぇよ!」千を優に超える斬撃が飛んでくる。が、今は全て見切ることができる。避ける隙間が無いと思えるこの攻撃ですら道が無くても最適解が分かる。
「ここだっ!」瞬く間に強奪者との間合いを詰め、左腕に刻まれた紋様に短剣を突き立てる。
「ぐっ!?」
「まだまだぁ!」餓狼の力と神力を注ぎ込んでいく。どこまで蓄えられるか分からないが、一定量を送り込んだ時点で多大なダメージが期待できる。
「くそがあぁ!」大地が揺れるほどの声が一帯を支配する。それでも、奴の身体は硬直したまま動くことは無い。
本能が慄き、力が入らなくなるほどの咆哮。前までの俺だったら臆していただろう。だが、今は仲間が、力がある。怖くない。
「終わりです!」溜め込めた力を解放し、爆発させる。それと同時に後方に刺していた影にテレポートする。
「いてぇ,,,」黒煙が轟々と上がる中、強奪者の声が聞こえる。煙のせいで姿は見えないが相当な深手を負っているはずだ。
「お前等はいつも俺から全てを掻っ攫う,,,」
「なぁ、本当の強奪者はどっちなんだろうな?」奴の姿を阻むもの全てが晴れ、覆っていた紫と赤の霧も無い。
「お前は,,,!」強奪者の姿。それは酷く見覚えがある。他の軸で見た俺、鏡の中で見た俺。顔のパーツの配置がそっくりだ。体格はやはり違うが間違いない。
「そうだ。俺はお前だ。アクセル」彼はにやりと笑いながら二刀の短剣を構えた。
「何故僕自身が敵対するんですか!?」
「そうだな,,,まぁ、勝ったら教えてやるよ」
「では全力で行かせてもらいます!」
「我らから離れろアクセル!!」短剣を構え、突進をする刹那。八咫烏の悲壮に満ちた声が聞こえた___
「遅ぇよ。何もかもな」突風が吹き荒れると共に血と獣の臭いが丘に充満した。そのことに気が付いたのは三柱の神の死体を見た後だった。
「滑稽だよな。お前を守る為に死んだんだぜ?」神達の死体を蹴りながら奴は嗤った。
「,,,」脳みそが理解を拒んでいる。
「八咫烏とか言う運命を見る神ですらここまで想像できてなかったみたいだな」烏の羽を引きちぎり、熊の牙を引き抜き、ミミックの舌を引き抜きながら奴は続ける。
「安心しろよ。こいつらはこの籠の外にいる奴らだ。また蘇るさ」遊び終わった玩具を片付けるかのように死体を細切れにした。
「それよりも、いい加減気が付けよ。世界を奪い、壊しているのはお前等だってな」
「うああぁあああ!!!」考えることを止めた脳が下した判断は無様な突進だった。
「それがお前の決断か,,,なら死ね」
「そうはさせねぇよ!」短剣が脳天を勝ち割る寸前、何者かの右わきに抱きかかえられていた。反対側にはテトリアさんが力も無く伸びていた。
「こいつらにはまだまだ活躍してもらうんだからな!」視界の端で白い髪が揺れている。
「「逃亡者!そいつらに加担する気か!?」」上位者が二人が恐らく俺達の事を抱きかかえている人物に罵声を飛ばす。
「加担も何もないぜ!俺の名前はホープレス!またの名を逃亡者!この世界から逃げ自由を掴む者だ!」彼は声高らかに宣言すると目の前に時空の裂け目を作り出した。
「上位者の面汚しが!!」後方から尋常ではない気の塊と、全てを奪い去る霧が迫りくる。
「俺は俺のため、目標のために生きるぜ!だからどこに属すも属さないも自由なのさ!」攻撃を馬鹿にするように笑い飛ばし、時空の中に俺達を連れ込んだ。




